所持する音楽データに対する私利私欲．．．イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。デビュー作の「次」。意外に内容の選択が難しいものです。1stと同じ路線で行ってアーティストの印象を強化するか、違う路線を提示して幅を示すか。全く同じであれば飽きられ、全然違うとファンがついてきません。そんな難しい「2枚目」をミニアルバムとして、1stとは大きく違う路線を見せたアーティストがいます。そんな「賭けの」2枚目をご紹介します。

さかいゆう。音楽家というものは若い頃から音楽家を目指して活動しているものだが、彼はかなり遅咲き。亡くなった友人の遺志を継ぐ形で音楽の世界に入ったので、二十歳を超えてから自分の職業とすることを初めて考えたらしい。ただそれからは単身LAに渡り、独学でピアノを学び、そしてLAのダンスミュージックシーンの中核に潜り込み、活動していたというのだからものすごい行動力。

その後26歳の時インディーズデビューし、

30歳の時メジャーデビューする（シングル“ストーリー”）。

その半年後リリースしたのが、1stメジャーオリジナルアルバム、“Yes!!”。

デビューシングル「ストーリー」を含むそのアルバムは、ポップで、オシャレで、いろいろな音楽が詰め込まれており、何者にも似ていない「さかいゆうの世界」だったが、次の作品で彼にはまだ「引き出し」があることが判明する。

それが、全曲を1人多重録音で造ったミニアルバム“ONLY YU”。

フルアルバムではなく、ミニアルバムとしたことで好き勝手できたのか制約が大きくなかったのか、またシングルカット曲も含まない構成としたことでなんでも詰め込むスタイルとなったのか曲のヴァリエーションを広く出せたのか、彼のもっとコアな部分が聴ける作品となっている。

ぽろぽろとピアノを奏でながら、語りかけるように歌う導入の「music」がブツっと尻切れとんぼのように終わると、タイトでビートが効いた「AHEAD」が突然始まる。あえてループ風にあまりバリエーションがないリズムに♪前へ前へ前へ...Let's Go Ahead!♪と記号的な歌詞が載る。曲のせわしない感じが、リズミカルな彼のヴォーカルを際立たせている。

「ソングライダー」は乾いたリズムの上で、ジャジィなピアノソロを聴かせる。歌は「自分のことを歌ったような」ものとのこと。♪I am a SingerSongwriter／僕たちはみんな／I am a SingerSongwriter／一人だけど孤独じゃない／Oh／I am not a 仮面ライダー／それでも君が好きさ／I am a SingerSongrider／君を乗せたいのさ♪さかいの曲は韻の踏み方が上手く、とても粋。

ラスト2曲は初回限定盤のみのボーナストラック。これがともにイイ！（なので中古で探して手に入れた）Michael Jacksonのカバーでダンサブルな「ROCK WITH YOU」も良いが、ピアノの弾き語りによる山下達郎の名曲「FUTARI」が沁みる。所々にさかいのアドリブで、英詞のフレーズが入るのがシャレている。フェードアウト直前のピアノのジャジィな崩しがセンスあるぅ！！

ポップでキャッチーな1stとは明らかに違う方向性だが、彼の多才さとフィールドの広さがうかがえる作品。

初回盤の特典が「カバー曲」って硬派だな．．．

ミニアルバムと侮ることなかれ！

【収録曲】

1. music
2. AHEAD
3. ケセラセLife
4. ソングライダー
5. It’s YOU
6. 夏のラフマニノフ
7. ROCK WITH YOU (Bonus Tracks)
8. FUTARI (Bonus Tracks)

「AHEAD」

「ソングライダー」（Live 一人打ち込み）