ここ最近、イヤフォン・ヘッドフォンの試聴をする際に、私がリファレンス機としているDAPが、こちらのAcoustic Research AR-M200です。
代理店経由の販売価格は5万円台だったのですが、メーカーが製造を打ち切ったらしく米国の共同購入サイトDrop.com(旧Massdrop)で$100という手頃な価格で販売されたため、これを取り寄せて購入しています。
ちなみに実は一度配送業者のDHLがトランジット時に紛失してしまったのですが、Massdrop側に相談したところ事故を確認した後、配送業者を替えた上ですぐに再送してくれて、注文からは1ヶ月以上かかったものの無事に入手することが出来ました。共同購入というシステムからサポートには若干不安があったのですが、実際には並の販売店よりも良質と思えるほどのサポートが受けられました。まあ、当然英語でやりとりする必要はありましたが…。
話を戻しますが、元々AR-M200は発売前に中野のヘッドフォン祭りで試聴したことがあり、その時点で私が当時使っていたAstell&Kern AK100IIと比較して、明らかに音が良いと高く評価していました。操作感やレスポンスは褒められたものではありませんでしたが…。
ただ、同時に聴いたイヤフォンのAR-E100のインパクトが強かったこと、音質の割に安いとはいえ5万円以上は簡単に出せないということから、当時は結局購入しないまま終わってしまっていたのです。音質については以前から気に入っていましたので、$100という価格で躊躇する理由はありませんでした。
$100であれば2台買っても良かったかなとも思ったのですが、まあ後の祭りでしたね。次に出てきたらもう一度買おうと思っていたのですが、生憎それ以降AR-M200の販売機会は無いようです。
パッケージは結構汚れがありましたが、この価格ですから特に気にしませんでした。
本機は単なるDAPという位置付けでは無く、DAP兼Bluetoothストリーマーという製品ではあるのですが、個人的にBluetoothの音質には未だに納得できているわけではありませんので、今回は単にDAPとしてだけ評価することにします。
パッケージの内容物です。本体以外には説明書、USBケーブル、キャリングポーチ程度と至ってシンプルな内容となっています。
一応ジャケット写真表示などは出来るのですが、出てくるまでに異様に時間がかかります。CPU等のコンピューターとしての基本性能が低すぎるのかも知れません。
本体向かって左側面は角を落とされていて面積が小さいためか、ボタン等は一切用意されていません。向かって右側にはmicroSDスロットと電源ボタンがあります。
microSDスロットはmicroSDXCカードもサポートしているのですが、ソフトウェア側の制約でFAT32だけをサポートする形となります。私の手持ちでは最大容量となる256GBのカードも、AR-M200本体でのフォーマット後(又はFAT32対応フォーマッターでフォーマット後)正常に使えています。
通常価格であってもクラス最高レベルと評して差し支えない
私がこの製品に惚れ込んだ最大の理由は、音質の良さです。
ハードウェアの構成としては突出したものではありません。D/AコンバーターはAKM AA4490を1基搭載しているという、5~10万円クラスにありがちなものです。強いていえばヘッドフォン出力アンプとして比較的高価なTI製TPA6120A2を2基A級動作で搭載している辺りが、力の入ったポイントとみることが出来る程度です。
出力端子は3.5mmシングルエンド、4.4mm5極バランスが各1個という構成で、私が持っている他のバランス出力対応DAPが全て2.5mm4極という中で異端ではあるのですが、このDAPで使うために4.4mm5極-2.5mm4極変換アダプターを用意したわけです。
変換アダプターを使う分、2.5mm4極バランスに対応するDAPよりは若干不利な条件で比較試聴しているのですが、それでもこの製品の魅力が損なわれることはありません。
AR-M200の最大の魅力は、音楽があるべきバランスで、一定の質感をきちんと伴って再生されるということです。そしてそれが、組み合わせるイヤフォン・ヘッドフォンによって極端に変わるということが殆ど無いのです。
例えば、より高価なAstell&Kern KANNと比較しても、スペック上幅広いヘッドフォンを鳴らせるのはどう考えてもKANNであるはずなのに、平面振動板など鳴らしにくいヘッドフォンからまともな音を引き出すのはAR-M200の方なのです。
例えば、先日ポタフェスでCayinの機器を試聴していたときに、平面振動板を採用するヘッドフォンがあるというので試聴させていただいたのですが、KANNではゲインを変えても妙に低域方向が薄い音だったヘッドフォンが、AR-M200では好バランスできちんと鳴るという具合です。これはAcoustic Research AR-H1や、手持ちのAudeze EL-8 Black Openでも同様でした。
勿論、イヤフォンでも普段使っている64AUDIO U3/U4や、JH Audio Michelleなど私が愛用する機種は全て高次元に鳴らしてくれます。
市販できる水準に達していない
音質的には5万円クラスとして最高と思っていますが、それ以外の点はむしろ最悪といえるほどひどいものです。
まず、全ての操作のレスポンスが極端に悪いという問題があります。例えばあるフォルダを指定して再生しようとしても、キー押下後のタイムラグが激しく、つい回数を押しすぎてしまうという程です。
レスポンスの悪さはまだ馴れれば何とかなるので良いのですが、どうにも困るのが曲が切り替わるタイミングで最大数十秒動作が固まってしまうことがあるということです。特にハイレゾWAVのようにファイルサイズが大きい曲を連続して聴こうとすると、3曲ほどスキップするとそのあと数十秒にわたって何も音が出ず、操作も全く受け付けないという状況に陥ることが多々あるのです。
不具合は抜きにしても、通常の楽曲一覧にはmicroSD側に保存した楽曲が表示されないことや、あるフォルダの直下を全て再生しようとしてもサブフォルダの中は再生されないなど、使い勝手として納得できない部分が多くあります。
通常ならファームウェアの更新で改善されるべき点ではあるのですが、Acoustic Research自体がこの分野から撤退してしまったようで、これまで何度かリリースされてきた更新ファームウェア(但しいずれも問題点あり)も全てダウンロード不能となっています。不具合の多さや操作性のひどさについては諦めるしかなさそうです。
音質のために色々と諦めて使う
音質以外の点では出来がひどすぎるのは確かですが、それでもこの価格帯で出せる音としてはこれ以上望むのは酷では無いかと思うほどの出来です。
5~10万円クラスには各メーカーの高コストパフォーマンスモデルが多数用意されていますが、他のどの製品を聴いても高能率のイヤフォンから大型平面振動板ヘッドフォンまで、全てをそつなくならす製品は見当たりません。今ではヘッドフォン・イヤフォンの試聴に行くときにもKANNを持たずにAR-M200で済ませてしまうことも多くなったほど、この製品の実力には信頼を置いています。
ただ、とにかくDAPとして操作性や安定度を評価すると最悪としか言いようがありません。実は私もこの1台だけを持って外出することはまず無く、Astell&Kern AK70辺りとセットで持ち歩き、単に音楽を流しておくときにはAK70を使い、本気で試聴するときにはAR-M200を取り出すという具合です。
この製品をお薦めできるのは、既にある程度信頼を置けるDAPを持った上で、とにかく音が良いDAPを安く欲しいという方でしょう。もし安いものに出会ったら、1台持っておくことで楽しめることは間違いありません。
最新ファームウェアが存在していた
元々AR-M200のファームウェアは、本家Acoustic ResearchのWebでのみ公開されていたものだったのですが、公式サイトのリニューアル後にそれらが入手不能となってしまったのは本文中で書いた通りでした。
しかし、日本の代理店であるフロンティア・ファクトリーさんで用意されていた最新のファームウェアを提供していることが判りました。
日本のAcoustic Research公式ページ(https://www.acoustic-research.jp/)の「サポート」-「ダウンロード」内に、AR-M200、AR-M20、AR-M2のそれぞれ最終と思われるファームウェアがきちんと用意されています。但し、AR-M200については保証対象外となっていて、あくまで自己責任で適用する必要があります。また、ファームウェアのダウングレードは行えません。
それでも、本国のメーカーが見捨ててしまった製品をきちんと面倒見てくれている訳で、フロンティア・ファクトリーさんのサポートに感謝です。
「音に全振り」も限度はある
現時点においても、5~6万円クラスのDAPとして音質的には全く見劣りはしていません。また、他社に先駆けてバランス出力端子に4.4mm5極を採用していたことで、「音を高品位に再生する」という視点だけで評価すれば十分に優れているといえます。
しかし、ごく普通に目的の曲を1曲聴こうとするだけで、限度を超えた操作性の悪さとレスポンスの遅さで嫌気がさしてくる人が多いでしょう。
私自身「音に全振り」という発想自体嫌いではないのですが、それはストレスに感じない程度の操作性が保たれていることが前提です。この製品は残念ながらその限度を大きく超えてしまっていました。
Bluetoothストリーマーとして使えば本体で操作せずに済むということで、そのような使い方をする人もいるにはいるのですが、Bluetooth周りの実装はどうしても世代分古くなっていますからね。
オーディオ的な質の高さを持ちながらも殆ど評価されること無く終わってしまった本機は、いくらオーディオ機器であって「音が良ければ何でも良い」訳では無いことを証明してしまった、迷品ということが出来そうです。
-
購入金額
14,085円
-
購入日
2019年04月21日
-
購入場所
Drop.com
北のラブリエさん
2019/08/25
jive9821さん
2019/08/25
KANNも相性の良いイヤフォン・ヘッドフォンと組み合わせれば魅力が大きいのですが、その相手が結構少ないのです。
AR-M200は極端に苦手な相手があまりなく、それぞれの持ち味を上手く表現してくれる良さがあります。$100なら複数台買っておくべきだったかもしれません。
jakeさん
2019/08/25
jive9821さん
2019/08/25
さすがにソースコードはありませんでしたが、Webページがリニューアルされる前まではごく普通に各バージョン入手できていただけに、いきなりの公開終了でユーザーの殆ども呆気にとられたのではないでしょうか。
まあ、不具合の修正は出来た可能性はあっても、CPUの性能の悪さなどは何とか出来るものでもありませんので、どのみち諦めを持って使うしかないのでしょう。