このシリーズは非売品で、Technics製品の購入者向けの特典として用意されていたようです。十数種類制作されたそうですが、中には入手性の極めて悪いものもあったようで、Technicsのスタッフの方でも全ては持っていないとのことでした。

特に重量盤などの高音質仕様というわけではないのですが、専用のデジタルマスタリング音源が中心となっているようです。もっとも、この時期のデジタルマスタリングは、必ずしもアナログマスターを上回るとは限りません。

このシリーズは「Audio Inspection」と名付けられていますが、オーディオチェック盤というよりは、いろいろな楽曲をデジタルマスタリング盤LPで楽しんでもらおうという程度の意図で企画されていたのでしょう。特に高音質録音ではない楽曲も多く含まれています。

一応収録内容を確認しておきましょう。

Side A:

1.聖母たちのララバイ／岩崎宏美

2.素敵なラブリーボーイ／小泉今日子

3.大人じゃないの／松本伊代

4.for you...／高橋真梨子

5.WOMAN／フランク永井

6.男の真情／森進一

Side B:

1.カリフォルニア・シャワー／渡辺貞夫

2.AFRICAN FANTASY／NATIVE SON

3.Love Is In The Air／Salina Jones

4.A列車で行こう／阿川泰子

5.Number Eight／Don Grusin

なお、この盤に関しては全曲デジタルマスタリングされています。

試聴会で使われたのは、A面1曲目の「聖母たちのララバイ」でした。さすがに現代のハイエンド環境で聴いてしまうと、音の古さが露骨に気になってしまいましたね。実は私は試聴会の感想として書いた中にあった「情報量の不足」はこの曲で特に顕著に感じられたのです。オープンリールとはいえ、やはりアナログテープの音だなと感じさせられてしまいました。

もっとも、オーディオ的な部分は別にして「聖母たちのララバイ」や「for you...」は純粋に楽曲自体が欲しかったので、その意味では満足度は高いものがあります。個人的に80年代アイドルの楽曲は苦手なので、その間の2曲はちょっと…という感じですが。なお、オーディオ的なクオリティーについては、全体的にB面収録の楽曲の方が良好でした。

この類のレコードとしては、第一家庭電器が企画していた「DAM スーパーアナログディスク」の方がオーディオ的には遙かに高水準だったと思います。私が試聴会に持参した西島三重子のダイレクトカット盤など、本気で音質を追求していたレコードが数多くラインナップされていました。ただ、Technics Audio Inspectionの方は、当時系列会社であったビクター音楽産業の数多い音源を、気軽にちょっと高音質で届けてくれていたことに大きなメリットがあったという評価をするべきでしょう。