CASIOPEA。現在はCASIOPEA 3rdとして「第三期メンバー」であることを明確にして活動している彼らだが、最も輝いていたのは世のクロスオーバー~フュージョンムーブメントのうねりがあった「第一期」のころ。特にメジャーデビュー時からのドラマーが変わって以降、オリジナルアルバムとしては3作目から13作目、1980年から1988年の9年間が最も人気があり、名曲も多い「CASIOPEAの黄金期」と呼ばれる時期(実際にはその前後にライヴアルバムのリリースがあるので、このメンツの作品リリース時期としてはもう少し長い)。
この時はCASIOPEAのリーダーで多くの曲も書き、2017年現在唯一の全期間通しで在籍しているメンバーであるギタリストの野呂一生、第二期の末まで30年間CASIOPEAのメンバーとして活動したキーボーディスト向谷実、このバンドのアマチュア時代から野呂と活動していたオリジナルメンバー=ベーシスト櫻井哲夫、そして3作目から加わった超絶テクニックドラマー神保彰というのがその布陣。
世のブームと初期の若さあふれるテクニック丸出しのプレイが上手く合致して「インストでもコンサート会場の大ホールを埋められる」と言われた彼らも、1980年代も半ばになるとブームの退潮などもあり新しい道を探るようになる。もともと同時期の人気フュージョンバンド、T(HE)-SQUAREやNANIWA EXPRESSなどと比べると、頭脳的でCOOL、タイトでシャープという印象があった彼ら。でもそれは悪く言うと「(よく練られたアレンジで難しいことを軽々やるので)直接訴える熱量不足」に感じられ、「(リズムがパシッとあっていて隙間が多いので)曲の線が細い」ということもでき、「わかっている」マニアにはたまらないそれらの点も一般的な観点ではアピール度に欠け?もう彼らも少し違う形を探り始める。
8作目の“JIVE JIVE”のあたりから「ファンキィさ」がCOOLというより熱を持ってきたし、10作目の“Down Upbeat”ではよりクロめのアプローチを採ったりもした。その流れで当時流行していた音作りを取り入れて、全体の音を太くしてきたのがオリジナル11作目の本作“HALLE”。
今まで他の日本のフュージョンバンドに比べると「COOLな」肌触り(耳触り?)、音作り、曲作りだった彼らが、かなり明るめでビートが効いた曲を一曲目のアルバムタイトル曲に持ってきたことで、オンタイムで聴いていた自分は「今回はかなり違うな」と感じた作品。
ただ時が経って聞き直すとイメージがかなり修正された作品でもある。
その「HALLE」。この曲が特に印象が変わったかも知れない。印象的なギターのカッティングとそれがキーボードに引き継がれる造り、饒舌なチョッパー(スラップ)ベースのラインとカチッとしたオンタイムのドラムスと今聴けば王道の黄金期CASIOPEA以外何物でもないのだが、当時は音造りの差が大きく感じられた。ゲート処理されよりタイトにドライになったドラムス、より太くなったギターの音...なにより全体に纏う印象が明るい。直前作が夜の雰囲気を強く持つ「Down Upbeat」を表題曲とする“Down Upbeat”だったのもその印象を強め、「今回のCASIOPEAは妙に明るくてビートが目立ってるな」と。でも今聴き返すと音色傾向以外は黄金期CASIOPEAに他ならない。
「NORTH SEA」は静かで叙情的な小曲だが、ブラシを振り回している神保というのがとてもレアで、ジャジィな感じ。ヴァイオリン奏法気味のギターやリリカルなピアノソロもあってとても美しく、情感豊か。CASIOPEAの中でもcybercat的好きな曲のベスト10には入るのだが、いわゆる「CASIOPEAらしい曲」かというと.....いわば名曲ながらもアルバム“Fahrenheit”
でガン浮きしていたTOTOの「Don't Stop Me Now」のような立ち位置。
「MATSURI-BAYASHI」は打ち込み風の音色処理とフレーズで当時それまでの彼等の曲調と最も違って聴こえた曲。もともと機械のように正確で、超絶テクニックを持つドラマーの神保と打ち込み風音色というのはあまり合わない...というか、「機械っぽい」音は実は生演奏なのだが、あまりに正確すぎてあの音では機械がやっている=「楽してる?」みたいなイメージが。今考えれば、タイトでマシンのように正確な神保のリズムとエレドラを組み合わせることによって当時流行っていた打ち込み楽曲のエッセンスを導入しようという新たな試みだったのかもしれないけれど...
いずれにしても温度感は低いながらも人による演奏であることがはっきり分かったそれまでの音作りに比べて、音色から受けるイメージが異なりすぎ、この作品から自分の中に期待する「CASIOPEAらしさ」とは離れてきているような気がして、この作品から彼らに対してそれまでの熱心さが持てなくなった記憶がある。
でも時をおいて改めて聞き直してみると、若干の新しい試みはあれど、大きな違いは「音色」だけで、曲の核はあまり変わっていない。実はこの次の12作目のオリジナルアルバム“SUN SUN”はアメリカ進出を狙ってヴォーカル曲をかなり入れたり、彼らが作曲にかかわっていない曲があったりと曲の方向性そのものの毛色がかなり違う。ただ音の方向性はこの作品の延長線上にあって、当時の印象では「この作品(“HALLE”)から変わった」という感じを受けた。
表層の音色の差を取り去ると実は「この作品までがいわゆるCASIOPAらしい作品」というのがわかるのだが、当時は直前の作品との音色やアルバムタイトル曲の曲調の差に惑わされちゃったんだよね(実は「HALLE」はバンドで演奏したこともあるので、詳細に細部まで聴き込んだので「差」に意識が持って行かれたのかもしれないけれど)。時を経て、自分の中での評価が大幅に上がった作品です。
【収録曲】
1. HALLE
2. HOSHI-ZORA
3. STREET PERFORMER
4. THE TURNING BELL
5. NORTH SEA
6. MATSURI-BAYASHI
7. TOUCH THE RAINBOW
8. AFTER SCHOOL
9. FREESIA
10. MARINE BLUE
11. PARADOX MARCH
「HALLE」
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購入金額
3,200円
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購入日
1985年頃
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購入場所
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