レビューメディア「ジグソー」

Marantzの驚きの進化を遂げたCD/インターネットラジオプレーヤー

 

※追記・訂正

5/18 交響曲ではなくヴァイオリンコンチェルトだったので訂正。ブラインド・テストに使った音源ファイルのDLリンクを追記。

5/23 聴き比べに使った2l.noのダウンロードファイルは一つのDXDのオリジナル音源からダウンサンプリングされていたこと、SennheiserのオープンヘッドホンHD598をバランス接続して試聴した結果の一部を追記。タイトルのMaranzをMarantzに訂正。

 

 

■第一印象はちょっと感動的


 

前のMarantzのCDラジカセが壊れ、今度はBoseのラジカセだなと思って量販店に行ったら、店員さんのオススメのままに買っていたのがM-CR611だった。家に持って帰って、SSIDをブロードキャストしてないのでWiFiの手動設定に少し手間取ったけど(リモコンでパスワード入力!)、それを乗り越えると、まずClassic FMとかJazz FMとか老舗のインターネットラジオの検索もスムーズでオッ!と、FMアンテナケーブルをつなぐと思ったよりきれいにFMが入ることでまたもオッ!と、iPhoneからのAirPlayも、PT2が入ってるPCからのBluetooth音声も、USBのハイレゾファイルも、CD再生も、なんかうちにある音楽に関することで出来ないことないじゃん!って。所謂インターネットラジオのレシーバを買ったのは初めてなので、単純に驚きますた。ここまで使いやすく進化していたとは・・・

そして、肝心の音は?これはスピーカの良し悪しに大きく左右されるから単純ではないけれど、S/N比が高そうだとは思った。M-CR611は4つの独立した出力回路を持っている。前のCDラジカセと比べてどうかは、聴き比べしてみないと分からないかなと。

 

黎明期のインターネットラジオしか知らない身には、浦島太郎の感がある。BBCなんか始めはイギリス国内からのアクセスじゃないと蹴ってたし、proxy使ってゴニョゴニョとか。

 


■ハイレゾに対する大きな疑問


 

Boseの販促のお兄さんにも直接聞いたんだけど、Boseはハイレゾ物は作ってない。スピーカはアナログ装置だから当然なんだけど。ハイレゾって結局騒いでるのは日本だけかなって。

ハイレゾに対する大きな疑問は

1.人間にハイレゾとCDは聞き分けられるのか?
2.ハイレゾの音はCDの音よりいいのか?(そして、何がどういう風にいいのか)

これを客観的なデータで示したレビューを見たことがない。ないということは、実際は(言われてるような)違いは無いんだろう、というのが健全な考え方だ。ただ、誰もきちんと調査してないだけという可能性も否定は出来ないので、自分でやってみることにした。


■バイオリニストにもストラディバリの音は聴き分けられない


 

わりと最近の2013年、パリ郊外のヴィンセンヌという町の、音響の良さで知られるホールに世界中から現役のコンサート・バイオリニスト10人が集まって(日本の成田達輝も)、ストラディバリを含むイタリア製名器6台と現代バイオリン6台を弾き比べたところ、どれがストラディバリか言い当てられたのは半分、つまり当てずっぽと変わらなかった、という(Fritz C. et al., PNAS 111: 7224-7229, 2014)。ふーむ、人間の耳が所詮そんなものなのか、音にまつわる思い込みがホンマに当てにならないってことなのか、は置いといて、実験ではブラインド・テストをやっていた。つまり、バイオリニストには溶接工のゴーグルをさせ、現代バイオリンにはアンティーク細工をして、触っただけではどのバイオリンか分かりにくくにして弾かせている。客観性を担保するためだ。

 

論文はProceedings in National Academy of Science U.S.A.で見れる


■M-CR611のハイレゾ再生をブラインド・テストしる


 

で、これと同じことを、つまり再生している楽曲がCD音源なのかハイレゾ音源なのか知らせないで、音楽で食っている家の者に聴かせるという簡単なテストをしてみた。この人の耳は、信頼できる。

音源は2l.noのテストベンチ(http://www.2l.no/hires/index.html)にあるハイドンの弦楽四重奏曲とモーツアルトのヴァイオリンコンチェルト、それぞれ16bit/44kHz (CD), 24bit/196kHz(ハイレゾ), DSD 2.8224 Mbit/s(DSD)の3つのフォーマットをUSBメモリスティックにダウンロードし、M-CR611の前面ソケットに挿して再生し、3つの中のどれが一番好きでどれが一番嫌いかを判定してもらった。

 

音源ファイルのDLリンク>

 

Haydn String Quartet in D, Op. 76 No. 5

 

Mozart Violin Concerto in D major

 

(※追記 5/23)

 

下のコメントで、フォーマットの異なるファイルは全然別のマスター音源に由来していることが良くあって比べるのは適切ではないという指摘を頂いていたので、2l.noのダウンロートページで確認したところ、全てのファイルはPCMのDXDマスター音源からダウンコンバートしていると書いてあった。

 

All resolutions and encodings are derived from the same original DXD source files.

 

ただし、DXDと言っても、24〜32bit/352.8〜384kHzという巾があって、352.8kHzはCDの44.1kHzの8倍、384kHzはハイレゾ192kHzの2倍という整数倍になっているが、1つのマスター音源からCDとハイレゾにダウンサンプリングしたとすると整数倍ではない、つまり音質に影響のある変換が行われている可能性が高い。ただし、それが普通あるいは普通以下のレベルの耳の人間に聴き分けられる程の違いかどうかは、大きな疑問符がつく。それと、2l.noサイトのDSDファイルはPCMのDXDから変換されているということで、"ピュア"なDSDではない。

 

 それと、ストラディバリの聴き比べ論文について、そもそも人間の聴覚記憶は10−20秒毎に上書きされるため、それ以上の長さの楽曲を聴き比べるのは意味がないという批判も、実は公開されている(http://www.pnas.org/content/111/27/E2778.full.pdf)。この批判に対して、意味のあるブラインドテストをするには、10−20秒以内に異なるフォーマットの同一パッセージを編集して聴き比べるしかないか。

 

(追記 以上)

 


クラシックを選んだのは弦楽器は倍音など複雑な高周波の音を発生するため、ハイレゾの違いが一番分かりやすいだろうと考えた。人間のvocal cordが発生する音の周波数成分は数kHzまでで、もともとCDを超える成分は無いから、サンプリング定理から言ってCDとハイレゾの違いが生じるはずがない(モーツアルトの魔笛でソプラノの一番高いF6キーで1kHzちょっと、倍音で16kHz以上という話も)。

スピーカはBoseのComputer Music Monitor M2をM-CR611のヘッドホンジャックにつないである(再生環境については後述)。

 

 

結論は

弦楽四重奏曲      良い・・CD > DSD2.8 > 24bit/196kHz・・悪い
バイオリンコンチェルト 良い・・DSD2.8  > CD = 24bit/196kHz・・悪い

ハイレゾ信者はどう思うかな。楽曲によってちょっと違うけど、基本的にはハイレゾの音が一番聴きにくかったらしい。ただ、この評価というのが、実は非常に難しい。最初は音質、音のメリハリ、臨場感、定位といった項目毎に点数を付けるように頼んだんだけど、無理だと。3つのフォーマットを比べてどういう順番になるかで相対的な評価になった。集中して聴いてないとはっきり分かるような違いではない。

もう少し具体的な印象は、CDに比べてハイレゾ24bit/196kHzの音はいっぱい色んな音が聞こえる、雑音的、弦を引っ掻いている音とか、空気の中に音が散らばっていてまとまりがなく雑雑としている、平べったい感じの音 、ただし柔らかさを感じる・・・と言う。CDの音はカクカクしているけど、聴きやすい。DSDは敢えて言えば音の広がりを感じる。これらは主観なので重要ではない。重要なのは、確かにCDとハイレゾとDSDの違いが分かる、M-CR611はその違いを演出できるということだ。音がいっぱい聴こえるというハイレゾは、当然ながら再生環境が今回と異なれば全く違った評価になる可能性が高い。

つまり、先の疑問については

1.CDとハイレゾの音は確実に人間に聴き分けられる
2.CDとハイレゾのどちらの音が良いかは(恐らく楽曲や好み、再生環境に左右され)一概に言えない

ということになった。CDは長く音楽の標準フォーマットだったので、音響装置の開発もこれに最適化されているという面もあるだろう。確かなのは、CDだからという理由で単純にダメだということにはならない。


■今後の予定


 

今回の小さなテストから導かれる結論は限られているけれど、基本はこれ

客観的に評価する、

 

ということに尽きる。

そのための簡単な装置がブラインド・テストだ。聴いている人には分からないようにして、次のような条件をいろいろ振って比較することで、客観性、普遍性を担保する。

 

1.複数の対象者でテストしる

 

性別や年齢、音楽の嗜好で印象は変わる。


2.いろんなジャンルの楽曲で比べる

ダイナミックレンジが広い交響曲、そこまでないオペラのアリア、室内楽、ピアノ・ソロなど、音の種類、大きさ、演奏者の数や音場の広がり、様々な条件の違いが影響する可能性がある。

3.再生環境を整える

再生環境の影響は当然大きい。今回のBoseスピーカーは素性は悪くないけど、もちろんM-CR611の性能を引き出してはいない。M-CR611は2セットのステレオ・スピーカを駆動出来る4つの独立した出力回路を装備しており、バイワイヤリング接続対応のスピーカならウーファとツイータを独立に駆動できる。そこまでのスピーカは持ってないけど、ZennheiserのHD598をバランス接続に改造してるところなので、期待は大きい。

 

 

(※追記 5/23)

 

HD598をリケーブルするためにSennheiser純製のHD5X8-CABLE (HD518/HD558/HD598用 1.2mショートケーブル)をゲットした。市販の2.5mm 4極プラグは太すぎてHD598のジャックに刺さらないため、純正ケーブルの改造が素直だ。

左が3mもあるオリジナルケーブル、右が1.2mのショートケーブル。太さも違う。ヘッドホンの4極プラグ側を残して3極プラグ側を切り離し、4本(右:赤・青、左:白・黒)の線をM-CR611のスピーカー端子に接続する。

将来的には、ケーブル端を2.5mm 4極プラグにして、装置側に2.5mm 4極ジャックを介してスピーカー出力または3.5mm 3極プラグ(アンバランス用)を接続する予定なんだけど、2.5mm 4極ジャックがあまり出回ってないし、金額も高い orz...

ということで、とりあえず今回は仮のハンダ付けしたケーブルを介してスピーカー端子に接続。

同じHD598を使って、4極スピーカー端子接続(M-CR611背面)と3極ヘッドホン端子接続(装置前面)の違いを、うちの耳の良い家族にブラインドで聴き比べてもらった。ハイレゾファイルを再生すると、(敢えて言えば)音がクリアになったと言う。今回も、バランスとアンバランスはちゃんと聴き分けられた。そもそもバランス接続の知識はゼロの人なので、この違いは確かなんだろうと思う。因みに、自分で聴き比べてみると、私にはその違いは全く分からない。ま、世の中にはその程度の耳の人間も居るということで。

 

ここまで準備して、HD598のバランス接続でCD、ハイレゾ、DSD音源のブラインド聴き比べをしようと思ったら、うちの音楽家はもう飽きたって。。。そんなぁ。

 

で、自分でCD、ハイレゾ、DSD音源を聴いてみたんだけど(ブラインドではない)、違いは分からない。強いて言えば、CD音源は弦の音がキャンキャン言って聴きづらいーかも知れないが、ハイレゾとDSDはそれが丸くなってるーかも知れない。カルテットやオーケストラの音の広がりとかも全く同じにしか聴こえない。ダイナミックレンジの違いも、バイオリンコンチェルトのバイオリンソロの静かなフレーズからオケがガンガン入ってるフレーズまで、CDで十分きれいに聴けていてハイレゾと何の違いも無い。そもそも違いが分からないので、ブラインド実験しても違いは分からないだろうと思う。

 

HD598のバランス接続で聴くハイレゾの音は、音がありすぎて雑然としているというような印象は私には無かった。CDに比べてハイレゾが聞きづらいということもないし、CDとハイレゾで気になるほどの違いもない、というのが私のこれまでの試行錯誤の結果。

 

・・・

 

”CD音源でハイレゾ音源と同じレベルの音響を実現したMarantzの技術力”という曲解も、ハイレゾにまつわる都市伝説へのアンチテーゼとして挙げておきたい。

 

(追記 以上)

 


4.原音に忠実かどうか

音響装置として究極に求められる特性は、如何に原音に忠実な音を出せるかということだと思う。そこに好きとか嫌いとか主観が入る余地はない。

それを実際に確かめてみたいと思う。そのために用意するのが、自分でハイレゾ録音する装置。

 

1>生音をハイレゾ録音装置(i)で録音する・・・オリジナル・ファイル

2>オリジナル・ファイルをM-CR611で再生し、ハイレゾ録音装置(i)で録音する・・・再生ファイル3>オリジナル・ファイルと再生ファイルをフーリエ変換して比べる

 

理想的な再生環境であれば、オリジナル・ファイルと再生ファイルの周波数特性は完全に一致するはずだ。そうではない部分が、ノイズだったり失われた音の情報ということになる。

こういうことをメディアプレーヤーのレビューの度に提案してるんだけど、採用されないんだ。メーカーが望むレビューではないということだろうか。主観しか記述されないレビューに大した価値ないだろうって思うんだけど。

 

 

■不満な点


 

ちょっと贅沢な要求かなとは思う、値段からすると。

  • BluetoothがaptXに対応してないため、PCからの音声が口パクから〜2秒程遅れる。音楽を再生するだけならいいんだけど、映像があるとダメ。
  • DSDが2.8MHzまでしか対応してないのが、ちょっと残念。
  • デザインがいまひとつ。プラスチックっぽい。液晶は有機ELらしいんだけど。
  • 独立4回路はオーバースペックっぽい。2回路にして価格を抑えて欲しかった。
  • スピーカーの接続端子の種類が少ない。4極プラグくらい挿せるとよかった。
  • CDからリッピング出来たらよかった。

ネットでの評判は非常に良い。

更新: 2017/05/24
スペック

一言でいうと、何でもできる(ほぼ)

出来ないことって、MDくらいかな。

 

対応する音楽フォーマット

 

ハイレゾは24bit/192kHzまで、DSDは2.8MHzまで、ネットワーク接続でもUSBでも。

 

 

接続端子

 

 

ACパワーの入力端子がちょっと心細く見える。スピーカーはむき出し単線接続が4チャンネル(右左)。アナログ入力・出力が1つずつ、デジタル入力が2つ。FMとAMアンテナ端子。

 

 

Marantz Hi-Fi Remoteアプリ(iOS, Android)

 

これがスゴイらしい。音楽ライブラリの管理やインターネットラジオの検索が思いのままに。

 

(追記予定)

 

 

 

更新: 2017/05/24
満足度

生活に音楽がもどって来た

同じMarantzのCR101からのバージョンアップだったこともあり、M-CR611で当分の間は満足できると思う。液晶表示が3行なので本体からライブラリを操作というのは実用的ではないが、Hi-Fi Remoteアプリの評判が非常に良いので時間が取れたらすぐに試したい。

 

van Cliburnピアノコンペティションが明後日から始まる。M-CR611がWebcastにも対応してたら完璧だった。その意味で評価4とするが、基本的には素晴らしい装置だ。

 

  • 購入金額

    51,000円

  • 購入日

    2017年05月18日

  • 購入場所

    秋葉ヨ◯バシ

25人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (13)

  • まこりんさん

    2017/05/18

    詳細で良かったです。
    僕もハイレゾについては疑問を持っていたのです。
    是非聞き分けテスト試してみたいですね。
  • 北のラブリエさん

    2017/05/18

    DSDとの比較はわからないですが、PCMでデータ量が増えれば、それが適切なものであれば音は良くなると思います。

    この場合の良くなると言うのはハイ・レゾリューション(高解像度)ということで。
    私はPCの画面と同じ意味でつかっています。

    いくつか持っているダブリの音源ではハイレゾのほうが良い感想を持ったものが多いです。
    ただ、CDのスペックでそんなに不足かというとそうは思いません。
  • sorrowさん

    2017/05/18

    まこりんさん
    有難うございます。疑問に思ってる人は結構いると思います。
    ご紹介したバイオリンの論文、面白いですよ。(英語ですが)ご覧になってみて下さい。

    北のラブリエさん
    コメント有難うございます。ハイレゾとCDを聴き分けられる耳をお持ちなんですね、うらやましい。私にはなかなか分かりません。「データが増えれば音が良くなる」とは限らない、というのが今回の私の小さな実験の結論で、被験者は音楽家ということもあり、私はこの結論には自信があります。音を作るBoseだから、という可能性も含め、再生条件によってはそうなる。マイクの位置など録音条件にもよるかと思います。大事なのは客観的な評価をするということだ、というのが私の主張です。是非、ブラインド・テストを試してみて下さい。私の被験者が雑然としていると言った音が、他の方には精細で奏者の息遣いを感じるような音になる可能性は十分あります。ただ、2−3例では分からないことが、数十例とか、ある程度の数のサンプルを集めると見えて来ます。
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