榎本俊二短編集。その名も「火事場のバカIQ」。
バカなの?バカじゃないの?と問いたくなるようなタイトル。
どんなバカも窮地に陥れば1+1の答えをたたき出す!ということらしいが、正直本編とはあまり関係がない。
前述の通り一話完結の短編集なので、どこから読んでも面白い。ただしとことん品がない。
下半身むき出しで行われるスポーツシリーズや、上裸の男たちが意味もなく列になって死ぬ話など、冷静になるとこれホントに面白いのか?と思える作品がずらりずらり。
しかし、「もあみはよそもの」やスマホが人間の形をした世界の話など、よく考えるとぞっとするような、手放しでは笑えない話も紛れ込んでいる。
一番感動したのはたった1ページで完結する以下の話。ネタバレになるので念のためご注意ください。
居間にいる父に向って、娘が「パパ、人は死んだらどうなるの?」と無邪気に質問する。
すると父はおもむろに拳銃で自らの頭を撃ち抜く(このなんの躊躇いもなくキャラが自死するのは榎本俊二の持ち芸ともいえる)。
次の大コマで、父と娘がお花畑を笑顔で走り回り、娘が「こんなに楽しくなるのね」と満足そうに父に話しかける。
そしてページをめくると、父の撃ち抜かれた頭の穴から、撃たれた娘の死体が見える…というオチである。
ここですごいなあと思うのは、父が拳銃で頭を撃ち抜くシーンしかない、つまり娘がその時に一緒に撃たれている描写がないところだ。
父が自死した後、お花畑(おそらく天国)を走り回る場面で、娘が再び登場して「こんなに楽しくなるのね」と納得する。
ここで違和感を感じる。嫌な予感にも似た違和感。
次のページで、初めて娘も死んでいたことをまざまざと突きつけられる。父の頭に空いた穴を通じて、いやでも娘の死まで視線が誘導されるのだ。
普通、拳銃で撃ったところでこんなキレイに頭を穿つことなんてない。これはギャグならではの手法だ。しかし、このギャグの手法を逆手に取り(?)、娘の死を演出する。この表現はギャグそのものであり、装置としても役割を果たす。
それを、たった1ページでまとめ上げているのだ。こんな不条理が濃縮された漫画って他にない気がする。
読むと頭がよくなる!と言ってみたが、脳の変なとこがキュイキュイ音を立てて酷使される、そんな漫画と言っていいだろう。
ちなみに小学館の公式ページで試し読みができるので、気になる方はぜひ。
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購入金額
700円
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購入日
2017年02月27日
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購入場所
北のラブリエさん
2017/02/28
むーすんさん
2017/02/28
コメントありがとうございます。
そうなんですよ。あの絵柄でこの切れ味、ずるいですよね。
切れ味と言えば同じく榎本作品の「斬り介とジョニー四百九十九人斬り」も気になっております。