レビューメディア「ジグソー」

ダイアモンドバッファをモノリシックにするとこうなる

テキサス・インスツルメンツから発売されているユニティゲインバッファICです。普通アナログ信号をバッファするというと、オペアンプをボルテージフォロワに配線するか個別のトランジスタでダイアモンドバッファを作るかが考えられますが、前者は品種によって使えるものと使えないものがあり、後者はディスクリート部品を扱うという関係上面倒です。

BUF634はアナログ信号のバッファ専用に作られたICで、オペアンプの負帰還ループに組み込んで使うことが想定されています。TIのカタログでは「ビデオ・アンプ」のカテゴリに入っているようですが、データシートの応用例(Applications)に「Headphone Driver」と書かれていることからもわかるように、オーディオにも使えます。

 

データシートにはブロック図(一部等価回路図)が記載されていますが、それを見ると信号経路はダイアモンドバッファそのものとなっており、それに保護回路や帯域選択機能を付加したものとなっています。

 

BUF634はいくつかのパッケージで販売されていますが、今回購入したのは電子工作で使いやすい8ピンDIPです。ほかに、熱対策がしやすい5ピンTO-220、表面実装パッケージもあります。

更新: 2016/11/26
使い勝手

実は一部ピン互換

8ピンDIPパッケージは電子工作でも扱いやすいものですが、このICのピン配置をよく見ると、4番ピンがVEE、7番ピンがVCC、3番ピンが入力、6番ピンが出力となっています。何処かで見たようなピン配置ですが、そうです、反転入力端子がない(ユニティゲイン専用ICなので不要)以外は1回路入りオペアンプと共通しています(同様の製品であるLME49600、LT1010はそうなっていません)。なので、オペアンプ用の変換基板が使えなくもありません(そんなに意味があることではありませんが)。

 

出力電流は250mAあり、小型スピーカーも鳴らせるということが書かれています。また、内部に出力抵抗があるので、(私はやったことがありませんが)スタック(電気的には全ピン並列接続)して使う人もいるようです。

5パラもすれば理論上1.25Aは出ますが、そこで出てくるのは「これだけあればスピーカー鳴らせるんじゃないか」という疑問です。スピーカーの能率はdBSPL/W/mで表されます。感度80dBでインピーダンス8Ωと仮定すると、距離1mで90dBで鳴らすには約1.12Aとなり、5パラでギリギリできるかどうかというところです。ただ、90dBSPLは怒鳴り声のレベルなので防音室でもない限り近所迷惑になりそうです。しかもステレオで5パラをするとBUF634は10個必要になるので万単位の出費になってしまいます。こういう場合は大人しくパワートランジスタでダイアモンドバッファを作ったほうがいいです。

 

ただ、1回路しかないのでステレオ回路で使うには2つ必要です。

更新: 2016/11/19

使用例:オペアンプ電流ブースター

自作のオペアンプブースター治具
自作のオペアンプブースター治具

 

回路図
回路図

 

オペアンプの電流ブースト用の治具を自作しました。帯域選択用のスイッチを付けてあります。

やはり配線のまたぎ(立体交差)が発生するので実装が面倒でした。普段はこのような場合にポリウレタン銅線を使うのですが、予備ハンダが必要だったりと何かと面倒ですので、今回はジャンパ素子(通称「0Ω抵抗」と呼ばれていますが、超電導素子ではないので実際にはごくわずかの抵抗があります)を使いました。それでも、電源線とブースト後の出力、反転入力には0Ω抵抗を避けました。単なる銅線よりは抵抗が大きいからです(参考:KOAのリード型の場合最大20mΩだそうです)。

更新: 2016/12/30
音質

単体ではOPA2134に近い

単体での音質は、強いて言えばOPA2134に近いです。但し、バッファICなのでパワー感があります。

これは低消費電流モードでの話で、広帯域モードでは発振してしまいます。

 

低消費電流モードでの過渡応答は以下の通りです。広帯域モードではオフセットが大きくなるようですが、同様の傾向でした。

過渡応答(Vin=200mVp-p f=100kHz Rfb=10kΩ 位相補償なし 10:1プローブのみ接続 ガラエポユニバーサル基板)
過渡応答(Vin=200mVp-p f=100kHz 位相補償なし 10:1プローブのみ接続 ガラエポユニバーサル基板)

 

(12/30追記)15Ω負荷(セメント抵抗)時の過渡波形を以下に掲載します。この波形は前段にADA4075-2を使用したときのものです。LME49720などは発振してしまいます。MUSES8920は低消費電流モードでは大丈夫でしたが、広帯域モードでは発振していました。

過渡応答(A=1 Vin=200mVp-p f=100kHz Rfb=0 位相補償なし Rl=15Ω ガラエポユニバーサル基板)
過渡応答(A=1 Vin=200mVp-p f=100kHz Rfb=0 位相補償なし Rl=15Ω ガラエポユニバーサル基板)

更新: 2016/11/26
発熱

低消費電流モードは本当に低発熱

±12V、広帯域モードでは、単体で使用した際、周辺温度25.2℃に対して40℃内外まで上昇しました。cMoyのICソケットに前述の治具(前景回路図U1の2回路ソケット―ー本来オペアンプを挿すべき部分―ーは1ピンと3ピン、5ピンと7ピンをショート)をセットした状態なので負帰還がかかっている状態ですが、これは本来の使い方ではありません。温度上昇が止まる様子がなく、ボリュームを回してガサゴソいうのが聞こえたので発振しているのかもしれません(音も濁っていました)。100pFでも位相補償が効かなかったので諦めました(100pFまでしか位相補償ソケットを作っていません)。単体で使うのはやめたほうが良いようです。

なお、低消費電力モードでは異常発振が見られないようで、周辺温度25.1℃に対して27.2℃でした。

 

内部に過電流保護及びサーマルシャットダウン保護回路を搭載しているので、万一の場合にも安心していいでしょう。

  • 購入金額

    1,300円

  • 購入日

    2016年11月09日

  • 購入場所

    デジット

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