レビューメディア「ジグソー」

J-POPになる前のスガシカオ...それはJ-POPに寄っていく「前」のスガに「戻った」のではなく、J-POPの肌触りの良さを識って、それでもそれを纏わない選択

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。プロのアーティストにとって、音楽って芸術であるとともに「商売」です。それ以外に活計の道がないならば、それで喰わなければなりません。それ故、長間活動しているアーティストは、ファンが欲しがるもの、より多くの人に受け入れられるものに寄っていく傾向にあります。そんな中、50前にしてメジャーレーベルとの契約を一度切り、原点を見つめ直したアーティストがいます。そんなアーティストの作品をご紹介します。

スガシカオ。今まで何度かご紹介してきているアーティスト。日本では珍しいフォークファンク系の楽曲が多いが、ポップな面もある。詞の世界も独特で人間の欲や垢や見栄やエゴを、スパンと切り取ったような言霊は響く。

一般的な知名度としてはSMAPの「夜空ノムコウ」の作詞や嵐の「アオゾラペダル」の作詞作曲あたりかもしれないが、オリジナルに関してもその独特な感性と似たもののなさで玄人衆の受けのよいアーティストでもある。

そんな彼は2010年に出した作品“FUNKASTiC”

から5年以上アルバムを出していなかった。売れていなかったわけではなく、アルバムチャート的には1位こそないもののほとんどのアルバムが1桁前半でしかも徐々に上り調子だった。しかし彼は“FUNKASTiC”をリリースした1年ほど後に所属事務所からの独立とメジャーレーベルとの契約終了を選択する。

そのあとセルフマネージメントで手弁当で各地を回るツアーを行ったり、作品発表を配信中心にしたりしていたが、メジャーに復帰して初めてのオリジナルアルバムが本作。スガ自身が「J-POPになる前のスガ シカオ。」と語る作品で、その肌触りは硬く、強(こわ)い。

「ふるえる手」。先日行われたギター1本(+リズムマシン&ループサンプラー)程度のアコースティック系ライヴでもトップを飾った曲。これはたしかにJ-POP色を強める前のスガ色が濃い。友人の父と自身の父を想いながら書いたという詞がカッコよくはないけれど直球だ。♪いつもふるえていた/アル中の父さんの手/ぼくが決意をした日/“やれるだけやってみろ”って/その手が背中を押した~いつかぼくの結婚式で/そのふるえる手が見たかった/不器用な言葉と・・・♪

「おれ、やっぱ月に帰るわ」は音色・曲のタッチは懐かしい感じのファンク...なんだけれど。サビの部分がスガ節だなぁ。♪食塩水と一緒で/闇は濃い方から薄い方へ/静かに流れていくのです/ゆっくり流れていくのです/食塩水と一緒で♪というブリッジの部分が「呑み込みづらい」感じの収まり方。曲がいちいちスっと流れてしまわないところがこのアルバムに収められた曲の特徴。

最もトゲトゲしくてなかなか呑み込めないのが「青春のホルマリン漬け」かな。でもこの作品の中で一番好きな曲になりそうな予感もある。音の造りもデッドでナローな感じの音色のドラムス、ゴリゴリとした粘るクラビのような音のベースライン。定位も右端がドラムスとラップ調コーラス、左端がヴォーカルとギター。それがサビには真ん中にふわっと寄ってくると普通ジャナイ。毒々しい歌詞、絞り出すような歌い方。♪カビ臭いシーツ/脱いだワンピース/もうすっかりその気の女/あの夏の匂い/こーゆー女の匂い/デジャブが絡みついた~青春のホルマリン漬け/ずっと腐らないんでしょう?/青春のホルマリン漬け/そーゆー感じの匂い/鼻の奥の方/その匂い/ずっと残ったまま♪扉が開いたトイレにまたがる女の足が見える扇情的な歌詞カードの写真も煽る。
人間のモデルをUFOキャッチャーに閉じ込めたインベカヲリのフォトも素晴らしくエグい
人間のモデルをUFOキャッチャーに閉じ込めたインベカヲリのフォトも素晴らしくエグい
このアルバムには実は発表済みのシングル曲が1曲しか入らない。メジャーを離れた後の配信曲を含む全シングルは初回限定盤、もしくはこの完全生産限定盤に含まれる“THE BEST 2011-2015”に別にしてある。あの印象的な“アイタイ”

ですら封印して創ったこの作品の肌触りが面白い。なぜそうしたか?
今回収められなかったシングル(配信含む)は“THE BEST”の方に。
今回収められなかったシングル(配信含む)は“THE BEST”の方に。
曲を聴くならば初回限定盤がオリジナルアルバムである“THE LAST”と前述の“THE BEST 2011-2015”の組なので、当初そちらを購入しようと考えていたのに完全生産限定盤を購入したのはナゾのキャラクター、「ガス カシオ」のぬいぐるみが欲しかった...ワケではなくてw、特典DVDに興味があったから(厳密に言うと情報が入ってきて興味が出た)。
完全生産限定盤にのみ含まれる“ガス カシオ”ぬいぐるみ
完全生産限定盤にのみ含まれる“ガス カシオ”ぬいぐるみ
題名からはおちゃらけた旅行記のような印象を受けるが、中身はマジ。
題名からはおちゃらけた旅行記のような印象を受けるが、中身はマジ。
でもこれライヴやレコーディングの映像などではない(それらは一部カットインで挟まれたりもしてるが)。伊豆急行のボックス席に、スガと以前ベストアルバムに膨大な文字数のライナーノーツを書いたライター内田正樹、先日のかけすぎ部総会でスガとトークしたDJ山蔭ヒーロの3人が陣取り、スガの独立の話やその前のアルバム製作の行き詰まり、一般的なJ-POPの曲構成と今回のアルバムに収めた曲の違いなどのあまり知られていない事を、「チャックあいてるよ...ウソだよww」なんて学生ノリの話を挟みつつ話してくれる。

このDVDはある意味“THE LAST”の「呑み込みづらさ」の解説書?という感じ。でもDVDの中でこのアルバムの曲を、「癒やし」ではなく「POP」でもなく、「ギザギサ」で「トゲトゲ」な曲で「悪意のある曲」ばかりで、「恋人と一緒に車の中で聴くような曲が一曲も入っていない」と言い切るスガが気持ちよい。DVDは最初はファン向けの映像サービスかな...と思っていたけれど、これはよかった。
とりあえずこのBOX席から出ず1時間語り明かす。
とりあえずこのBOX席から出ず1時間語り明かす。
「100人が100人まぁまぁいいよね、っていうより、スゴイっていう人と気持ち悪いという人がパックリ別れるものを創った方がいいと思ってるから」

過去をリセットしたスガの世界が堪能できる。
でもそれはJ-POPに寄っていく「前」のスガに「戻った」のではなく、J-POPの肌触りの良さを識って、それでもそれを纏わない選択。20年前のスガとはやはり違う。それは螺旋を描いて元の位置の上に戻ってきた..と考えるとしっくりくる。

スガの「濃い」のが好きな人に...いや、好きな人「だけ」に。

【収録曲】
DISC1:"THE LAST"
1. ふるえる手
2. 大晦日の宇宙船
3. あなたひとりだけ 幸せになることは 許されないのよ
4. 海賊と黒い海
5. おれ、やっぱ月に帰るわ
6. ごめんねセンチメンタル
7. 青春のホルマリン漬け
8. オバケエントツ
9. 愛と幻想のレスポール
10. 真夜中の虹
11. アストライド (Album Mix)

DISC:"THE BEST"
1. Re:you
2. 傷口
3. Festival
4. アイタイ
5. したくてたまらない
6. 赤い実
7. 赤い実 REMIX
8. 情熱と人生の間
9. 航空灯
10. LIFE
11. モノラルセカイ

SPECIAL DVD
ぶらり途中下車しない旅~伊豆急行 語らひ編~

GOODS
ベビー“ガス カシオ”ぬいぐるみ

「ふるえる手」


「あなたひとりだけ 幸せになることは 許されないのよ」

  • 購入金額

    10,800円

  • 購入日

    2016年01月20日

  • 購入場所

    ショップカワイ

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