レビューメディア「ジグソー」

人力マッシュアップで超絶文化交流

知る人ぞ知るバンド「THE家元」。長唄の名跡「杵屋勝四郎」を本当に襲名してしまう家柄と実力で、4歳から稽古をしていたという本物の長唄の歌い手である村治崇光を中心とするバンドである。

 

日本人がロックをやっているだけで日米音楽の混交なので、いわゆるJ-POPのバンドなんか全部これに該当すると言えるのだが、じゃあより濃い口にしたらどうなるだろうか。伝統音楽の中枢で純粋培養された人物が、ゴリゴリ当代の流行音楽であるエレクトロ・ファンクにぶつかったらどうなるか。

 

バッキバキのエレクトロビート、シンセサイザー、ディストーションギター、ラップ、そして長唄。これは単なるコミックバンドではない。実際、彼らは世界音楽祭で第2位という高い評価を受けている。

更新: 2016/01/05
いい意味で消化不良感

卵でもヒヨコでもなく、孵化する前の不定形の雛を食べる「バロット」という食べ物があるのだが、まるでこのバロットのような不気味な魅力が本作にはある。

 

いわゆるワールドミュージックには、この類のバロット感のあるバンドは星の数ほどある。しかしTHE 家元はやはり日米の混交、それも長唄とエレクトロ・ファンクという、矛と盾のような解決不可能な対立を乗り越えてぶつけ合わせているところが興味深い。例えば、植民地の宗主国と植民地の出身者がぶつかり合うのも聴き応えがあるのだが、それとは別の味わいがある。

 

日本人がロックやジャズやクラシックをやるというのは、真面目にやっていれば優等生的にできてしまう可能性がある。しかし、生まれつきの長唄演奏者が、電子化されたファンクと融合することは可能なのだろうか。

 

可能ではあった。可能ではあったが、何かが余っている。これは何なのか。これをこそ吟味したい。何度でも聞き直したいバンドだ。なお、本作は2枚目のアルバムであり、ファーストアルバムも非常にキャッチーで緊張感に満ちている。レコード屋で見つけたら迷わずゲットして欲しい。

  • 購入金額

    0円

  • 購入日

    2016年01月05日

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