DEAD ENDがどのようなバンドで、現代に至るまでにどのような足跡を辿ってきたのか、ここでそれを書くのは敢えて控えたい。
彼 らは、ジャパニーズヘビーメタルやビジュアル系といった、ただでさえ偏見にまみれたジャンルのなかで、デビュー当初から鬼子と言われてきたバンドだ(ロッ クという、それ自体が鬼子のようなジャンルの、そのまた鬼子とも言うべきこれらのサブジャンルにおいて、さらに鬼子であるという三重の鬼子性は、むしろバ ンドの生真面目な側面を証し立てている)。
本作は、「異形のなかの異形」として四半世紀前にデビューしたバンドの足跡を、その影響下にある様々なミュージシャンがカバーしたもの。有名どころではLUNA SEAの河村隆一やL'Arc~en~CielのHYDE、黒夢の清春、カリガリといった面々が参加している。
こ のメンツを豪華だととらず、単なるお祭りやちょっと優秀な企画に過ぎないと考えるのは、聞き手の自由だろう。しかし、奥行きも深みもない奇抜さだけが取り 柄と思われがちなこのジャンルのなかに、脈々と受け継がれてきた系譜があることを、本作から聞き取ることもまた可能だ。
河村隆一やHYDEといった、狭いジャンルの垣根を越えてヒットチャートを賑わすシンガーの歌唱に、DEAD ENDのフロントマンMORRIEが与えた決定的なインパクトを認めるのは容易い。それに気付くだけでも興味深い筈だ。
極めてニッチな偉業
だが本作の白眉は、何と言っても終盤の3トラックにある。
それぞれの個性を発揮しながらもほとんど原曲に忠実なカヴァーが続く渋めの内容だった本作が、この最後の3曲にさしかかるとき、途端に聞き手を異次元へと連れ去ろうとする。
懐古性と新奇性を過激でキャッチーにブレンドするカリガリの『Blind Boy Project』。
aki(ex-laputa)や千聖(PENICILLIN)やLEVIN(La'crima Christi)そしてkiyo (Janne Da Arc)らによるバッドトリップそのもののようにグルーヴィな『Sacrifice Of The Vision』。
そして極めつけは、Borisの『冥合』。再生されている空間の気温を急激に冷却し、透徹した世界観を提示する。
過去から現在へと続く系譜を音楽の中に聞き取ることも、時空の超越を感じさせてくれるかも知れない。広がったジャンルの末裔たちが集合することに、やはり時空の超越を見て取ることも可能だろう。
しかしこの3曲は、DEAD ENDのエッセンスとも言うべき「鬼子の中の鬼子」という側面を忠実に受け継ぎ、それぞれまったく別の方向性、まったく別の時空へと展開して聴かせる。それぞれの楽曲は、ニューウェーブ・ポストパンク、ハードロック、ポストロックといった、それぞれのジャンルにおいてネイティブに生み出された一級品であるかのように聞こえるだろう。
本作はトリビュートアルバムだ。だが狂乱の『Sacrifice Of The vision』が鳴り止み、最終トラックの『冥合』が再生される直前の、一瞬の静寂が場を満たしたとき、歴史やら系譜やらは、それ自体では何の意味もなさない。四半世紀やら30年やら、バンドが辿ってきた足跡やら、その上にまだ築かれるべきものがある、その地平にこそ聞き手は立たされる。
ただのCDを再生しているだけの筈なのに、崖から虚空を眺めているような状態に身を置く羽目になる。そこで聞き手は異次元を眺めているのではなく、次元を超越するかのように、歪んだ時空の中に自分がいることに気付かされるのだ。
異次元へと聞き手を連れ去る音源など、誰が欲しがるだろうか。きわめてニッチでありながら、困難な次元へと超越する体験を与えてくれる本作を偉業と呼ばずしてなんと評価すれば良いのだろうか。
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購入金額
3,240円
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購入日
2016年01月04日
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購入場所
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