所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。ボーカロイド楽曲。これらコンピューターによる合成音声を使った楽曲群は人間では歌うのが困難なキーやスピードで創られることも多く、そういった曲を「歌ってみた」場合はオリンピック的な「すごさ」が前面に出て必ずしも楽しめないこともあります。一方人間ならではの自然さと表現力で人が歌った方がよりその曲が輝くような楽曲もあります。ボカロPとして高い人気を誇るアーティストが自ら手がけた人間のヴォーカリストフィーチャリングアルバムをご紹介します。
じん(自然の敵P)はボカロPであり、小説家でもあるマルチクリエイター。カゲロウプロジェクトと呼ばれる一連の作品で、ハードロックからアイドル曲のようなタッチの曲までの様々な作品が全体として一つの物語となっているというストーリー性のある作品を発表し、高い人気を誇る。ボーカロイドのIAと初音ミクで歌われるその楽曲は、バラエティには富んでいるものの王道路線で、人間に置き換えることが容易であり多くの「歌ってみた」動画が投稿されている。
そんな曲を作るじんが自身で手がけた「歌ってみた」CD。歌うのはメイリア(MARiA)やLiSA、松山晃太といった面々。必ずしもアニメ系だけではないのと、男性ヴォーカリストも入っているので基本女声(IAとミク)の元曲との対比が「おっ」と思わせる。
その意外性のひとつ「空想フォレスト」はヨシダタクミのヴォーカルがやわらかい印象だ。元曲はIAによるカワイイ感じの曲(動画では「想像フォレスト」となっているが同一曲。じん本人によって再収録時に改題された)。
歌詞も♪何処かから/迷い込んだ鳥の声/読みかけの本を置き/「どこから来たんだい」と笑う/目隠したままの/午後三時です♪と歌われるメデューサと人間のクォーターである「マリー」の歌なのだが、男言葉も混じっており、男性が歌っても違和感はない。女声ベースのIAからイケボのヨシダタクミに代わりストリングスやフルートが彩るアレンジになると全く違う曲のよう。
つづく「夕景イエスタデイ」はカワイイ感じの曲。このヴァージョンはLiSAによる上手いヴォーカルに差し替えられ、新録の菊池真義のギターは軽やかで完成度は高い。
ただこの曲は「踊ってみた」動画での採用が多く、そちらで先に識ったのでオリジナル(元曲)の印象があまりに強くてちょっと違和感(そのひとつ↓by踊り手 足太ぺんた。オリジナル振り付けではないけど、一番印象的かも)。
元曲のちょっと鼻声風のIAの声も曲調には合っていて破たんはないし...つかLiSAの声が少し大人っぼすぎるのかな。この曲にはもすこし「キャピ感」があった方がよかったかもしれない。
「アヤノの幸福理論」はこれは圧倒的に「人」向きの曲。生ギターのアルペジオでつづられるほのぼのとしたフォーク系のバッキングの曲で、後半に向かって盛り上がる部分は情感がこもる歌い方の方がしっくりくるので。ボーカロイド(IA)による元曲はポツポツとして語りのような感じにはなっているが、やはり冷たい感じがする。両親が孤児院から引き取った三人の子供の「お姉ちゃん」になったが、母が亡くなり、心の隙間に付け込まれた父が狂い始めていくのを感じ、その裏で糸を引く「目が冴える蛇」の目論みを阻止するために投身自殺するアヤノを歌った歌。みんなを護るために死に向かうやさしい「お姉ちゃん」アヤノのことを歌う奥井亜紀の情感あふれる声が沁みる。
ただこれは先にニコニコ動画で素晴らしい演じ手動画(手品で楽曲の物語を再現する作品)のバックに流れる歌い手ゆめこの「歌って演じてみた」動画
を識っていたのでそれを越えることはできなかったかなー。特に終盤の♪きっと、私は怒られちゃうなぁ/だけど、ちゃんと「お姉ちゃん」になれたかな♪の部分の表現の仕方が、泣きそうになりながらもわざと明るく振る舞う感じの奥井の歌い方に比べて、泣き笑いな感じで涙腺崩壊させるゆめこの歌い方があまりにツボハマリだったので...でもいずれにしてもこれは「人」。
2枚目はサントラなので2分前後の曲が詰め込まれたもの。その中では唯一「The lazy girl blues」が5分ほどある生バンドによるブルースとなっている。これはこのアルバムのいくつかの曲のアレンジを手がけた中西亮輔によるもの。基本オーソドックスなブルースなんだけれど、櫻井大介のピアノのプレイと途中での転調する曲の造りが面白い。
通して聴いてみると元曲のボーカロイドより圧倒的に人声のほうが良いものもあれば、意外にボーカロイドの方がいい感じのものもある。聴き比べは新録のバックと合わせてとても面白い。
でもここまでいいなら最初っから全曲入りの“MEKAKUCITY M's COMPLETE BOX”を買うべきだったか。今メイリアの歌う「夜咄ディセイブ」が入った“MEKAKUCITY M's 2”が猛烈に気になってますw
【収録曲】
<Disc 1 | Vocal Album Vol.1>
1. daze(Re Ver.)/じん ft.メイリア from GARNiDELiA
2. ヘッドフォンアクター/じん ft. LiSA
3. 空想フォレスト/じん ft. ヨシダタクミ(phatmans after school)
4. 夕景イエスタデイ/じん ft. LiSA
5. 群青レイン/じん ft. 奥井亜紀
6. カゲロウデイズ/じん ft. 田口囁一(感傷ベクトル)
7. メカクシコード/じん ft. やさぐれ子猫
8. アヤノの幸福理論/じん ft. 奥井亜紀
9. ロスタイムメモリー/じん ft. 松山晃太(BYEE the ROUND)
10. シニガミレコード/じん ft. Lia
<Disc 2 | Original Sound Track Vol.1>
1. カイエンパンザマスト/じん
2. おさんぽ日和/石風呂
3. ニート炎天下に立つ/中西亮輔
4. 電脳少女と引き蘢り男/中西亮輔
5. 口下手と饒舌/TeddyLoid
6. 白昼のデッドアラート/TeddyLoid
7. Children's time/TeddyLoid
8. アイドルが止まらない!!/中西亮輔
9. キサラギ/中西亮輔
10. 留年~2度目の春~/中西亮輔
11. もう、いない/ANANT-GARDE EYES
12. 色の無い放課後/ANANT-GARDE EYES
13. その日、僕は都会に居た/中西亮輔
14. 亡霊少女の勧誘/ANANT-GARDE EYES
15. 初任務/ANANT-GARDE EYES
16. 秘密組織のアジトにて/ANANT-GARDE EYES
17. 我が団ではこういった悶着が日常的に巻き起こっております/中西亮輔
18. 忘却の夏/じん
19. 遥か都会への道程/中西亮輔
20. 腕によりをかけて/中西亮輔
21. プレッシャープリンセス/中西亮輔
22. in a daze/じん
23. 目に焼き付ける/じん
24. 決闘/ANANT-GARDE EYES
25. 団員ナンバーはラッキー7/ANANT-GARDE EYES
26. たまには昔の思い出を/ANANT-GARDE EYES
27. コノハ/ANANT-GARDE EYES
28. The lazy girl blues/中西亮輔
29. a headphone actor/sasakure.UK(U/M/A/A Inc.)
30. リアルの方が無理ゲー/中西亮輔
31. 小休止/中西亮輔
32. 夕景が滲んで/ANANT-GARDE EYES
MEKAKUCITY M's特設サイト
カゲプロの世界はボーカロイドが造ったが、それを「色ある」風景に創り変えた
カゲプロの世界観にはボーカロイドの「無機質」な感じが、あっているけれど、人による歌唱でそれをグッと近くに引き寄せる。
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購入金額
3,218円
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購入日
2015年04月04日
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購入場所
Amazon
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