実は結構読書家で、特に若い頃は乱読しました。
ジャンル的にはSF~ファンタジー~ミステリなどからコミックまでイロイロ。
3桁では収まらない蔵書の中からトピックをご紹介していきます。
2012年秋にご紹介した邦訳第1巻“惑星救出計画”
から足かけ4年、実質的にも3年近くにわたってご紹介してきたMarion Zimmer Bradley(マリオン・ジマー・ブラッドリー)の連作ダーコーヴァ年代記、ついに邦訳最終巻。異世界を目指した移民船が難破して地球との交信が取れなくなってから
時は下り、地球由来のテクノロジーが喪われたかわりにマトリクスを用いた超能力文明が発達し、その遺伝形質を定着させようと近親結婚などが繰り返された時代を“The Ages of Chaos~混沌の時代”と呼び、“ストームクイーン”
から前回の“ホークミストレス”
までがこれにあたる。さらに時は下り、その発達した超能力(ララン)を用いて自然法則を捻じ曲げた武器や放射性物質を使った兵器が造られ、大小の多くの領主が小競り合いを繰り返していた“The Hundred Kingdoms~百王国時代”に移っている。
この時代唯一の邦訳済エピソード(他に未邦訳書“The Heirs of Hammerfell”あり)。
そしてこれはこの年代記の核となる“Against The Terrans~地球帝国との衝突”というダーコーヴァにおける超能力を持つ家系コミンによる統治とそれが地球帝国との接触によって文化的に併呑されていくまでを書いたダーコーヴァ年代記の核となる時代の設定を記述した物語でもある。
なぜ、ダーコーヴァでは「相手の手の届く範囲より遠くから相手を殺せる武器」を禁じているのか、そしてそれはどうやって成し遂げられたのか。そういった物語を貫く設定の根拠が語られる。そしてファンタジー色の強いこのシリーズの中ではSF的モチーフを扱った作品でもある。
ブラッドリーは女流作家、しかもウーマンリブ華やかなりし頃の作家なので、自立した女性の話が多いがこの話は少し毛色が異なる。後に「ギルガードの狼」と呼ばれることになるバード・ディ・アストゥリエンと呼ばれる男を中心とする話。まだ7大氏族も完全には確立されておらず、諸国が覇を競っていた時期。アストゥリアス王アードリンの甥バードは15歳にして王の旗手となり、その王の娘カリーナと婚約するという栄光の絶頂にいた。行動を共にするのは王の実子にしてカリーナの兄ベルトランと、その乳兄弟ジェレミー・ハスター。ネデストロ(私生児)という負い目を持つバードにとってカリーナは、そしてカリーナとの結婚は、成功と認知の象徴だった。
有頂天で婚約の場に臨むバード。その日義理の兄弟になれたことを喜ぶベルトランと祝福の言葉をかけるジェレミー。これからこの王国の次代を担うべき3人の若者...しかしバードの幸福は長くは続かなかった。そこで告げられたのは床入りは現在14歳のカリーナが満15歳になるまでお預けという決定だった。これに立腹し、ネデストロの自分を快く思っていないアリエル王妃の差し金かと勘繰るバード。しかし実はカリーナもこの結婚を望んではいなかった。バードには弱いラランが備わっており、これを使って女性を自ら進んで自分の床に来るよう仕向けることができる。まだ12歳だったカリーナの小間使いにまでこの力を使ったことがあることでバードを恐れていたのだ。
その婚約披露宴の場でカリーナはバードとは踊らずジェレミーを誘った。これは婚約した男女が未婚の友人に幸福を分け与えるという風習に則ったものではあったが、バードの心に疑惑を植え付けるには十分な出来事だった。
カリーナとの関係は一向に改善されなかったが、しばらくしてバードの才能が活かせる出来事が起こった。隣接する氏族がアストゥリアスに対して攻撃を計画しているというのだ。情報を得たバードは先遣隊の指揮を任された。この先遣隊には超能力攻撃・防御を担当する超能力者(ラランズ)の部隊が同行した。カリーナと離ればなれで欲求不満のバードはラランズの一人、メローラに慰めを見出す。地位もなく、見目も麗しくないメローラに対しては最初は単なる性欲のはけ口にすぎないはずだった。一方この行軍の間にバードとベルトランの間に行き違いがあり、その関係はぎくしゃくしたものになってしまう。
戦闘はバードの指揮もあり、勝利をおさめた。これによりカリーナとの婚儀を早めてもらうこともありうるとバードは考えたが、関係が悪化したベルトランに妹はやらないといわれ、逆上した彼は止めに入ったジェレミーを傷つけ不具にしてしまう。ハスター家からの預かりものであるジェレミーを傷つけたことによって国外追放されることになったバード。王国から出るのに時間がかかっている間にベルトランに追いつかれ、切り付けてきた彼に応戦したバードはかつての友で婚約者の兄であるベルトランを殺めてしまう。還るところをなくした彼は「ギルガードの狼」として傭兵生活に入っていった....
時は流れ、実父であるラファエルに呼び戻されたバードは、父がダーコーヴァ全域の支配をもくろんでいることを知る。実父と嫡出の弟に忠誠を誓うバードは周辺諸国との戦闘に突入していく。
しかしその時代の戦争はラランを使い、ラランによって物理法則をまげて強化された武器が使われるもの。水の中でも燃え続ける消えない炎(粘着炎)や老若男女、非戦闘員まで区別なく巻き込む放射性物質(溶骨粉)まで用いた凄惨なもの。戦いは力と力のぶつかり合いだと考えているバードにとってはこれら胡散臭い武器や超能力は気に染まなかったが、敵も使ってくるからにはそれらを使わざるを得ない。後に「有徳者」と呼ばれることになるラランズの一人、ネスカヤのヴァージルの説く「盟約=これら超能力や化学物質、飛び道具を使わない契約」に理解を示しながらも、現実はそれを許さなかった。
隣国との戦いが戦線拡大するとバード一人ではすべてを掌握しきるのが難しくなってきた。「あとひとりバードがいたら」...父ラファエルはラランの力を使って「この世には完全複製が存在するという法則」を元にバードの魂の双子を呼び寄せようとする。果たして地球から(当時ダーコーヴァは地球とは交流はなかった)重犯罪者ポール・ハレルが呼び寄せられた。バードとそっくりな彼を影武者として、父ともに覇道を往くバード。
バードはついにカリーナまで力づくで自分のものにしたが、その際カリーナに自己のラランを目覚めさせられる。目覚めたラランによって人の心情を直接感じることができるようになったバード。被害者の女性の心情が流れ込むことで、今まで自分のしてきたことに責めさいなまれ、ポールにあとをまかせて戦場から逃げ出してしまうバード。折あしくその時敵の攻撃を受けアストゥリアス城が瓦解する。父ラファエルと弟アラリックがともに亡くなるのをラランで感じるバード。急ぎ戻るが、戦場では影武者ポールがバードとして新王に担ぎ出されていた...そっくりのバードとポールは一つの王座を巡ってどういう選択をするのか、差し迫った危機をバードたちは回避できるのか、絡み合った男女の心は解きほぐせるのか....
ファンタジー要素が強いダーコーヴァ年代記にあって、未開の星への移民船の不時着とその後を描いた“ダーコーヴァ不時着”と並んでSFテイストが濃い本作。その設定によって能力・容姿ともに瓜二つの人物を設定、その相克とさらにそこに男女・父子の人間関係の問題を絡める。私生児であることに負い目を持つ男に、容貌もよく地位もある姫と麗しくはないが共感力がある女性。理想と現実、見栄と安らぎ...ファンタジーの仮面をかぶりながら、ある意味普遍的なテーマが語られるのはブラッドリー女史ならでは。
ただちょっと最後の1/4パートの動きが急すぎて...ま、そのあたりは読んだ人のお楽しみということで。
さて、この絶版となっているシリーズ、非常に面白い物語であるにもかかわらず、ブラッドリー女史も亡くなり(1999年)再版予定もなく、現在中古本市場からも消えようとしています。このまま埋もれさせるにはもったいないとご紹介すること約3年。よくぞおつきあいくださいました。読み返すよいきっかけにはなったものの、かなりパワーを吸い取られるご紹介でもありました。まだシリーズものでこの「本の蟲」でご紹介したいものもあるのですが、ちょっと軽めのものを挟みつつ、英気を養いたいと思いますw
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購入金額
980円
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購入日
1988年頃
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購入場所
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