レビューメディア「ジグソー」

音の良さか、会場の熱さか。完成度か、勢いか。

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。アーティテストにはその人を代表する作品があります。しかし、作品に対する世の評価とアーティスト自身の評価が一致していないこともあります。その作品を35年の時を経て本人が再現した作品をご紹介します。

 

高中正義、ギタリスト。フュージョン黎明期から(いやフュージョンという分野が確立する前の単なる「インストルメンタル曲」と呼ばれていた頃から)活動し、すでに芸歴40年を超え、ソロデビュー後もそろそろそうなろうかという大ベテラン。初期の夏・海・空!と言う感じの明るめのチューン、中期の最大のヒットであるストーリー性のある組曲

その後の都会的?タッチの楽曲、近年ではウクレレを用いた癒やしの作品と様々な作品をリリースしているが、「曲」としての最大のヒットは初期の名曲「BLUE LAGOON」(4枚目シングル)。イメージとしては小鬼のかぶり物をかぶって難しいフレーズを弾き倒す“虹伝説”が、当時家電店で良くデモされていたレーザーディスクの映像とともに焼き付いているが、あの作品は「組曲」であってそれぞれの曲の印象はさほどに強くない(強いて言えば「THUNDER STORM」くらいか?)。

 

その「BLUE LAGOON」は代表曲らしく、何度も何度も再演・再録されており、作品としてもヴァージョンが相当数ある。アルバムだけでも(単なる無加工再録のベストを除いても)初出の“JOLLY JIVE”、直後のツアーの“SUPER TAKANAKA LIVE!”、“JUNGLE JANE TOUR LIVE”の「BLUE LAGOON '86」、“SWEET NOIZ MAGIC”

の「BLUE LAGOON (New Recording Version)」、“ONE NIGHT GIG”のもの、“Covers”のもの、“TAKANAKA REMIX THE BEST”の「BLUE LAGOON (BLUE JUNGLIST MIX)」、“Complete Kitty Singles Collection”のシングルヴァージョン、“虹伝説Ⅱ LIVE AT BUDOKAN 過去へのタイムマシン”のテイク、“hunpluged”のアコギヴァージョン、“THE MAN WITH THE GUITAR - recorded at LIVETERIA”のテイク、“REMIX LAGOON TAKANAKA MASAYOSHI REMIXES”のリミックス、“30th Anniversary POWER LIVE with friends”のテイク、“TAKANAKA 2002 LIVE + Season's Greetings!”のテイク、メドレー仕立ての“Surf & turf”ヴァージョン、“快晴~CROSSOVER JAPAN ’05 LIVE そして沖縄”のテイク、“40年目の虹”の'K'ヴァージョンと多数のテイク、ヴァージョンを残している(上記モレあればご指摘くださいm(_ _)m 映像作品を入れるとライヴ作品にはほとんどと言って良いほど演奏されているのでさらに膨大)。

 

しかし、その中でも一番印象深いヴァージョンが“SUPER TAKANAKA LIVE!”のテイク。

この1979年末収録のライヴ盤は、他に「READY TO FLY」など初期を代表するヒット曲を収録したうえ、サディスティック・ミカ・バンド時代の名曲「黒船」も収録したベスト盤の様相を呈していたこともあって売れたので、高中の諸作でも少なくとも初期はこのライヴ盤が「代表作」と言われた。その結果、すっかりこのテイクが「BLUE LAGOON」でも基本となっている。

 

ライヴ盤がそのアーティストの代表作となっているバンドは少なからずいるが、CASIOPEAの“Mint Jams”

のように「レコーディングのために催された特別なコンサート」でもなければ、ライヴ盤はあくまでそのコンサートの写し絵であり、そのあとポストプロダクションで大幅な加工が入れられる、ということも少ない。そのため、ミスタッチやズレ、というものがどうしても記録として残ってしまう。

 

その高中の“SUPER TAKANAKA LIVE!”は「BLUE LAGOON」のヒットで波に乗る彼が、初の武道館に力入りまくりで望んだライヴで、若い彼の才気溢れるプレイと、大人数のバックバンドの迫力、上り調子の人気による会場の熱気が渾然一体となった熱いパトスの迸りを感じる作品。しかしその分明らかなミスタッチ(バンドメンバー含む)や最近のようにドンカマサポートもなかったであろうツインドラムのリズムのずれなどもそのまま残ってしまっている。それはそれでそのカオス状態が熱狂的で素晴らしく、スピーカーで大音量で聴くにはアドレナリンが脳天から噴出するほどの名演なのだが、ガッツリ冷静にモニター系のイヤホンで曲と対峙しようと細部まで聴くと、アラの方が先に聞こえてきてしまうのも事実。

 

その名作をスタジオ録音で高品位に再現しよう、というのが本作“SUPER STUDIO LIVE!”。単にスタジオで撮り直しただけではなく、オーバーダビングなしの一発録りのライヴ形式。基本“SUPER TAKANAKA LIVE!”の曲順、近いアレンジであの名盤を完全再現したモノ。構成的には多少変化があり、ツインドラム、ツインパーカッション、ツインキーボードにサポートギタリストがいて、全パート中一人なのはベースとサックスだけだったという“SUPER TAKANAKA LIVE!”からはかなり絞られ、ドラムとパーカッションはシングル、キーボードはツインも一名はサックス兼任という感じ。

メンツ的には(もちろん高中以外)総入れ替え
メンツ的には(もちろん高中以外)総入れ替え

 

めぼしいところでは元NANIWA EXPRESSの青柳誠がサックス兼キーボードで加わり、名手岡沢章とベテラン宮崎まさひろがリズム隊を組み、斎藤ノヴが彩りを添えるという感じ。結果“SUPER TAKANAKA LIVE!”のときは高中入れて10人の大所帯だったところが、7人と絞られ(それでも決して少人数バンドではないが)、スタジオ録音と言うこともあいまってリズムがタイトになっている。

 

まず「BLUE LAGOON」。う~ん、完全再現。まぁ、リズム系が音数違うので、雰囲気は違って、ルーズでうねりのあるビートではなくて、きちんと正対して聴くに堪える演奏なんだけれど、イントロのギターのフレーズミスや、1回目のパーカッションブレイクのバックで誤って発音してしまったシンセの音色まで完コピwつか、ミミちゃん(小林泉美)のあのミスタッチは、“SUPER TAKANAKA LIVE!”バージョンがあまりに浸透してしまったため、あそこでシンセが鳴らないと逆に変な感じがw またさすが「アドリブも作曲する」と言われている高中、隅々まで考えられた展開でクリアな音で聴くとそのシカケが分かってまた格別。

 

「TROPIC BIRD」はギターにかなりアフターエフェクト(パンやフェイザー)がかけられており、“SUPER TAKANAKA LIVE!”とはかなり印象が違う。前のライヴ本番では火薬でも使った?という感じの途中の爆発音もないし...つか、この曲はリズムだろうなぁ...ベースの岡沢ものすごく上手いし、宮崎もほぼフレーズとしては完コピなんだけれど、ゲタ夫のあのダイナミックに揺れるグルーヴと上原と井上の「おまいら互いの音聴いてねぇだろ」というずれる直前の(いや完全にずれてたカモ(^^ゞ)怒濤のリズムは、なんか人間の根源的な衝動を感じるモノで、たとえれば篝火の前で生け贄を捧げて踊り狂うような破壊的な情動があったので...

 

オマケ?の新曲2曲を除けば、“SUPER TAKANAKA LIVE!”再現盤としてのラストは名曲「黒船」。これは甲乙つけがたい。“SUPER TAKANAKA LIVE!”の盛り上がりの部分でツインドラムでこれでもかとシンバル連打していたドラマチックアレンジも捨てがたいが、あれはオーディエンスあってのこと。スタジオライヴとしては今回の間を活かした...ってもほとんどねぇじゃないか!!ww ただ高中の音が真っ芯に定位して、あの有名なフレーズが「入って」くると感動するなぁ..

 

(当然初回限定盤なので)付属のDVDは、高中が一人で「BLUE LAGOON」を弾き倒すPVと「HISTORY OF BLUE LAGOON 2004~2013」と題した10年間のライヴを繋いで1曲に仕立てたモノ。繋がれたライヴは、一天 SUPER TAKANAKA LIVE! 2004~夕天 SUPER TAKANAKA LIVE 2005~南東風 SUPER LIVE 2007~南西風 SUPER LIVE 2008~夏道 SUPER LIVE 2009~軽井沢白昼夢 SUPER LIVE 2010~40周年記念最終章 SUPER COLLECTION~TAKANAKA伝説 SUPER LIVE 2012~60th Anniversary Live TAKANAKA WAS REBORNの全9ライヴ。当然各ライヴによってスピードは違うので曲の途中で速くなったり遅くなったりするし、「一天」ヴァージョンはアレンジ全然違うのでガン浮きだが(イントロ担当なのでまだかろうじて「曲」になっている)、最近10年の高中のバンドも含めた音の変遷が分かって面白い。高中と言えばトレードマークは特別塗装の青のYAMAHA SG2000。「最近は体力も落ちたのでより軽いストラトを使うことも多かった」という事だったが、これは2000年代中盤までで、2008~2011年のあたりはSGに戻しており、ちょうどパート的にテーマのあたりを弾いていて、やっぱりこの曲はハムバッキングだな、と(「TAKANAKA伝説」では珍しくES-335を弾く高中もみられるけど)。

ヤッパ高中と言えば青のSGだなぁ...
ヤッパ高中と言えば青のSGだなぁ...

 

本人による名盤の超本気再現。あの“SUPER TAKANAKA LIVE!”はすごく好きなんだけれど、イヤホンで聴くにはなー...と感じていた自分にはまさに待ってました!の盤。ただ聴いて見ると、あのとき埋もれてたフレーズやプレイはこんなすごいものがあって、元はもっと構築されたモノだったというのを発見するとともに、ライヴ盤というのは観客の熱狂も含めて「作品」なのだな、と感じた次第。今回のも一発録りとはいうものの、観客との相乗効果でヒートアップしていくメンバーの熱さは感じられない、COOL LIVE。

装丁もアレをオマージュ。
装丁もアレをオマージュ。

 

HOTでルーズなパトス溢れるプレイか、COOLでクリアなロゴスが満ちたプレイか。あなたはどちらがお好き?

 

【収録曲】

<CD>

1. BLUE LAGOON
2. EXPLOSION
3. 珊瑚礁の妖精
4. RAINY DAY BLUE
5. TROPIC BIRD
6. DISCO “B”
7. READY TO FLY
8. 黒船
9. BLUE WIND(新曲)
10. 三元閣(新曲)
<DVD>

1. BLUE LAGOON MUSIC VIDEO

2. HISTORY OF BLUE LAGOON 2004~2013

 

「BLUE LAGOON」(MUSIC VIDEO)

 

更新: 2015/01/11
一生モノ度

あの名演を高音質で完璧再演!

名高い名盤を本人が高品質に完全復元!....でも、完コピ、なんだよなぁ...

  • 購入金額

    3,780円

  • 購入日

    2014年12月27日

  • 購入場所

    フタバ図書

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