音楽を聴くという行為にとってもっともよい方法は生、だと信じる。アーティストの心の動き、プレイヤー間の阿吽の呼吸、会場との(そこまで大きくなくても路上ライヴでも観客との)応酬、それらの相乗効果・相互作用で作品そのものも一期一会的に刻々と変わるのを味わうのは格別だ。
ただ、そんな恵まれたチャンスは多くなく、音楽には一般的にはCDやDVD、ダウンロード音源など「録音されたもの」で接することになる。しかしその際も様々な接し方がある。
王道的には、きちんとセッティングしてあるちゃんとした据え置きオーディオで再生すれば、生で聴くのとはまた違った完成度で、「作品」を堪能できる。ただこれには機材や環境整備への投資のほかに、「ある程度の音量が出せる周辺環境」というのが必要となる。日中ならばまだしも、勤めなどで深夜に帰宅して、満足いく音量で音楽に浸れる...というほど恵まれた環境を持つ人は多くはない。
一方日中に聴くという観点ではカーステレオを使った移動中の音楽聴取というのも一つの方法だ。比較的隔離された環境で、(もっとも大きすぎるのは周囲にも迷惑だし、運転時に得る情報も少なくなるので危険だが)遮音をきっちりと施工すればソコソコ大きな音で、味わいのあるヘッドユニットの濃いところを堪能することもできる。ただ車の中、というものはどんなにノイズ対策をしても「無音」というわけにはいかないし、そもそも着座位置から見て左右対称でない。タイムアライメントで程度加工はできるものの、デジタルディレイでリサンプリングされた音はやはり劣化する。
そんな場合、もう一つの選択肢が出てくる。最近特にハイレゾ対応など質を上げているポータブルオーディオプレイヤーを用いた音楽聴取。この場合、基本はヘッドホン/イヤホンでの聴取となるので、音量の自由度は高い。また、スピーカーと違って体を揺さぶる重低音や空気を介して伝わってくる高音の広がりなどはないが、耳のそばで各社趣向を凝らしたユニットが鳴るため、音楽の細部は聞き取りやすく、プレイのニュアンスやタッチなどを堪能できるというまた違う楽しみがある。
cybercatも最近は日中はなかなかオーディオに火を入れることができず、現在の通勤車にはたいしたオーディオ環境がないこともあって、きちんと聴く際はハイレゾプレイヤー
での音楽鑑賞がメインとなっている。
その場合のリスニングデバイスは当然ヘッドホンorイヤホンなのだが、今のところポタアン(ポータブルアンプ)を持っていないので、能率低めのヘッドホン
などではちと苦しい。また、もう一つのヘッドホンは業務用で
ケーブルが長くて重く、DAPと合わせて使うのはちょっと方向性が異なる。
イヤホンは複数持っているので、楽曲の傾向に合わせて簡単に取り替えられるのは楽しいものの、遮音性が高いcomply系のイヤーチップを付けたものでも、完全な遮音性は得られないので、没入感という意味ではいまいち。
ガッツリ聴こうと思うと結局CIEMを使うことになる。
CIEM=カスタム・イン・イヤー・モニター。
その人の耳の型(インプレッション)を採って、個人専用に「カスタム」した耳道押し込みタイプ(イン・イヤー型)のモニターシステム。要はユニバーサルタイプIEMとも呼ばれる大型のカナル型イヤホンのハウジングをその人の耳の形で成形したハウジングに換えて、イヤーチップなどのフィッティング用部材を不要としたものがCIEMだ。
自分の耳の形に成形されたハウジングは密閉度が高く=遮音性がよく、また一般的にユニバーサルタイプより大きくなるためユニット構成の自由度が高い=複数のユニットが使えるため、音楽の業界では最近広く使われている。音楽番組などで、シンガー・プレイヤーの耳をふさぐ形で「大きな耳栓」のようなものが見える場合があるが、それ。
昔は「ころがし」と呼ばれる足元に置かれたモニタースピーカーで自分の声・音を聴くことしかできなかったシンガー・プレイヤーは、定位置から離れると会場にどんな声・音が出ているのかわからないので、前に出てソロを弾くというような行為で動ける範囲が制限されたりしていた。また、特にハードロックなどのライヴ会場ではすべての音が爆音で鳴っているために、プレイヤーが職業病として難聴になるという問題もあった。そこをこのCIEMを使うことで自分の耳を守る「耳栓」的効果も期待できつつ自分のプレイ位置の自由度を上げるということで、現在の音楽シーン、特にライヴではCIEMはなくてはならないものになりつつある。
この手法を個人の音楽鑑賞に利用したモノが最近流行だ。以前はそういったプロか、よほど凝り性の音楽マニアだけのアイテムだったが、先日(2014年8月)は「e☆イヤホン秋葉原カスタムIEM店」という専門店もできたくらいメジャーな物になりつつある。
ひとことでCIEMと言ってもその価格には大きな開きがある。もちろん個人の耳型に合わせてつくるフルオーダー品なので、汎用イヤホンのように下は1000円未満から...という事はさすがにないが、LEAR(香港)やearmo(ハーモニー補聴器)のように3万円前後からのラインアップを持つところもある。ただ上は、装飾やカラーリングに凝ると言うわけではなくその型番の標準仕様でも30万に届こうかというプライスタグを付けるものまで存在する。
一般的にはこの差はユニット数とネットワークの差による事が多い。ヘッドホンと違ってユニットの口径を稼ぎづらいCIEMは「バランスド・アーマチュア(BA)方式」のドライバユニットを採る事が多い。これはスピーカーをそのまま小さくしたような原理の「ダイナミック方式」と異なり、ドライブロッドで金属片を動かす方式であり、繊細な音が表現できるうえに小型化に適しており、耳の中に入れるイヤホンのドライバユニットとしては適性が高いが、その一方で音圧が稼げず帯域も狭くなりがちというデメリットもある。ここを補うために低価格機ではたいがいフルレンジのBA1発であるところを、高価格帯になって来ると帯域を分けてドライバを束ねて使うような設計となる。中には3ウェイで片耳12ドライバなどという超弩級機もあったりする。
cybercatにとっての初のCIEMは国産ブランドCanal Works(カナルワークス)の「CW-L11」。
購入した2011年末の時点ではマーケティングリサーチのためのモニター販売期間中で、現存する同一型番のモノとはケーブルなどの仕様がやや異なるが、2ウェイ3ドライバー(高域✕1、中低域✕2)のシンプルなIEM。ただこの2ウェイ3ドライバというのはメーカーのポリシーが一番出やすい構成のため、CIEMの基本ともなっている。本品は非常にクリスピーでクリア、上から下まで清冽な音でキッチリとしている。そういう意味ではまさにインイヤー「モニター」で、音のニュアンスなどを捉えるには最適。しかし音のピラミッドは腰高。ベースは基音ではなく倍音を中心に聴いている感じだし、ドラムのキックも胴鳴りよりヘッドの音の方が大きく聴こえる。ただスネアのリムショットの抜けや女性ヴォーカル、サックスなどは何ともいえない華がある。
その弱点を補うべく次に手を出したのが、その会社名の通りユニークなユニット構成のUnique Melodyの「Merlin」。
ドライバ数としては3ウェイ5ドライバで、片耳6ドライバ以上のイヤホンもまれではなくなってきた今の目で見ればごく中庸(高域✕2、中域✕2、低域✕1の構成)。ユニークなのはそのドライバの選択。高域と中域は定石通りBA方式なのだが、低域はIEMには採用例が少ないダイナミック式。つまりBA✕4+ダイナミック✕1のハイブリッド方式なのだ。これで繊細な表現力が欲しい中高域と音圧が欲しい低域を、それぞれその帯域を得意とするユニットが受け持つことになり、繊細さと力強さの両立が成された。
2つのIEMを手に入れ(しかも音の方向性としてそこそこ違う)、とっかえひっかえ聴いて楽しんでいた...が。
2つのIEMともどうしてもある不満があった。それは「季節によって音が異なる」ということ。
これはたぶん両CIEMのせいというより、cybercatの耳の中の状態と構造に起因するところが大きいと思う。cybercatの耳はいわゆる「カラ耳」。耳の中が完全に乾いていて、全く湿っていない。耳垢は綿棒でなく耳かきで採るタイプ。そして耳道がかなり細く下向き気味に開口している。
このことにより、アクリル素材で作られたCIEMが浮き気味になるのだ。耳に密着すれば充分な低音を響かせるユニットでも、それが浮いていてさらに隙間ができたりするととたんに下がないスカスカの音になる。これを防ぐには軽く人差し指でハウジングを支えて耳に押し込む方向に押さえてやれば良い。ぎゅうぎゅう押さえつけなくても軽く触れているだけで音が激変する。下が出て充実するのだ。耳が乾燥しているので下向き加減の耳道からすべりだそうとするのを防いでいるワケだ。これは周囲が乾燥している冬季に顕著で、周囲の湿度も高く、やや汗ばみ気味の夏はその湿気が滑り止めになるのかあまり気にならない。
ただ、イヤホンのよいところは音楽を聴きつつ「ながら作業」ができる事でもあるので、両手を使ってCIEMの上を押さえているのでは、その利便性を大きくスポイルしてしまう。それに疲れるし。
-なんとかこのIEMを収まりをよくする方法はないものか-
そんなことを考えていたある日、面白い情報を得た。
-世の中にはシリコン素材でできたCIEMがあるらしい-
一般的にはCIEMは硬く耐久性があって、透明感があり美しいアクリル系素材で作られる。ただその素材は硬くつるつるなので、密着度という点ではイマイチだ。自分の耳型で作っているので、一応なんの緩衝材もなく耳道に滑り込むが、耳道の形状如何では逆に滑り出ることに関しても抵抗が少ない。以前CW-L11のリフィッティングをしていただく際に、フィッティングが悪いところを示すためにプラスチックパラフィンフィルムを使ってIEMを「盛った」ところ、耳との密着性がよくなって音も下が伸びたのを想い出した。
一方シリコンはCIEMを作る際に耳道の中に流し込む素材。ハードグミのような手触りで、やわらか。その分耳との密着性は良く、インプレッションを採っている際にはほとんど外界の音は聞こえない。
-カスタムIEMの表現力に耳への密着性が加われば無敵ではないか?-
そんな想いがわき出した。そしてシリコン素材について調べていたときに巡り会ったのが、例によってBARKS編集長 烏丸氏による記事、「【BARKS編集部レビュー】フル・シリコンの魅力を振りまくCUSTOM ART Pro 330v」。思えばこの分野、最初の出逢いのCW-L11も彼の書いた記事が元。
彼とは音の感じ方が近いようなのだ。これはよいのでは?と直感が告げる。
Custom Artは2013年にCIEM界に参入した若い会社。ポーランドはワルシャワにある。アメリカ製と中国系とが大半を占めるこの業界ではかなりマイナーな土地にある。ただこの会社のCIEMの最大の特徴は「フルシリコン」。シリコンと言えば、そのCIEMを作る際に型を採る素材。固まりかけたインプレッションを耳の中から引き出す際の抵抗や耳への密着感からすれば、フルシリコンで作られたCIEMなら指で押さえなくても高い密着性が得られるのではないか?と考えた。
同社のシンプルなHPを確認すると2014年前半のラインアップとしては、どちらかと言えば音楽鑑賞用の「Music」シリーズにはシングルドライバーの「Music One」と2ウェイの「Music Two」、音楽家向けの「Pro」シリーズには「Custom Art Pro100」、「Custom Art Pro210」、「Custom Art Pro330v2」というラインアップ。当時最高峰のPro330v2ですら、2ウェイ3ドライバと取り立てて言うほど高スペックではない(2015年1月現在Pro100と同210はライン落ち)。しかし、そこで“Coming soon”なシリーズを知る。それが「Harmony」シリーズ。
シリーズと言ってもそのときは「Harmony 8」と呼ばれる片耳8ドライバの1モデルのみの告知。一般民生用の「Music」シリーズとプロの音楽家向けの「Pro」シリーズの両方をカバーするフラッグシップ機としての紹介だった。2014年6月発売予定のそのモデルはその時「先行予約販売ディスカウント中」。発売開始前に予約を入れてくれたユーザー対象に通常の約20%オフで販売するというのだ。もともとフラッグシップのため予価も高い(ケーブル着脱式のタイプの場合オプションなしで4000PLN=ポーランドズウォティ)。1PLNは(2014年6月時点で)35円程度だったので、定価ならおよそ14万。それが11万少しなら結構オトク。自分にとっての初号機のCW-L11が約7万、次のMerlinが約9万だったのもあり、次はこんなモンかな、とも←実はイロイロつけたりなんだりでとうていそれでは収まらなかったのだがwww。
1台目のCanal Worksは国内メーカーなので、その設計者兼製作者(当時。現在は製作は外部委託)の林さんと直接コンタクトできたし、次のUnique Melodyは日本代理店ミックスウェーブを通して購入した(購入店舗としてはフジヤエービックD-SHOP)。しか~し!Custom Artには代理店がない(2015年現在は輸入代行をしてくれるところがある)。なにせCustom ArtのFacebookのページへの「いいね!」が1000件を超えた(2014年9月15日)のを喜んでいるような規模。しかもポーランドとマイナーな土地。しかしここでレア物好きの血がムラムラと..!恐る恐るアヤシイ英語もどきを操り問い合わせメールを打つと実に担当(つか社長?)のPiotrのレスポンスがよい。
いろいろと詳しく色の確認や支払、オプションの問い合わせをして仮予約を入れた直後...突如発売前の「Harmony」シリーズに「Harmony 8 Pro」というモデルが追加された。スペック的には「Harmony 8」とドライバ数などは同じ。ただやや高音を強化したモデルであるとのこと。販売価も同等で、素の「8」と「8 Pro」は併売されるという。HPの説明では、素の「8(H8)」が「jazz, pop, rap, hip-hop, fem vocals, rock, electronic, ambient」向けで「8 Pro(H8P)」が「Rock, Pop, Metal, Hardcore, electronic」向けとか。ジャズと女性ヴォーカルに向いているのが素のH8だが、ヘヴィメタ系はH8P。言葉通りならH8系の音楽の方がよく聴くが、ロックやポップ、エレクトロニックは共通しており、イマイチ良くワカラン。そこでPiotrに海外でも通じそうな自分の好きなアーティストの名前を列挙して送り、どっちが良いと思う?と訊くと、「For the genres and artists you've listed Harmony 8 Pro is better in my opinion.」と書いてよこしたので、オーダーを「Harmony 8 Pro」に変更することにした。
今回はシリコンと言うことで材質に透明感がない。今までのCIEMは中身が見えるように外側に透ける色に着色されたフェイスプレート、内側は完全クリアにしていたが、シリコンなのでクリア、といってもやや濁る。そこで今回はより着色することにした。このメーカーはシェルとカナル(耳道に入る先の部分)の色を変えられるので、カナルをクリアに、シェルを透ける系の青「スカイブルー」に、そしてフェイスプレートにはカーボンをあしらった。そして今までCanal Worksは「CW」マーク、Unique Melodyのは「UM」マークを入れてきたので、Piotrに「CとAを組み合わせたCustom Artのマークを入れられるかい?」と訊くとダイジョブだ!モンダイない!というのでそれを頼んだ。初期見積ではこの仕様で3362PLN。
でオーダーすることにして...
それからもタイヘン。
まずインプレッション(耳型)採取。国内メーカーCanal Worksのように提携店があるわけではなく、国内に代理店があるメーカーのように実績があるわけではない。なにせほとんど国内では知られていないメーカー。Piotrから送られてきた「Ear impressions have to be made past the second bend, full concha (for detachable cables it is advised that there's a lot of overlaying material on impressions around cymba and crus helix part), mouth open with bite-block.」という注意書きを理解してくれそうなところとして、中京地区でCIEMのインプレッション採取店として実績があり、Canal Worksなど複数のCIEMメーカーの提携店となっていて、自らもCIEM「tunz」を販売する愛知県岡崎市のあいち補聴器センターにお願いすることに。
無事採取したらそれを今度はポーランドまで送らなければならない。このためにFedexのアカウントを作って国際宅配便。しかしFedexの場合、普通相手も企業のBtoBビジネス。ウイークデイの昼間しかやりとりできず、これが仕事をしながらだと意外に辛かった(1日休みが取れればよかったのだけれど)。
さらに支払のためにPayPalのアカウント作成と口座との連結のためのテスト入金。
これらに半月。
やっとインプレッションを送ってFedexで追跡していると1週間ほどでワルシャワに到着。その後ひと月ほどして「できそうなんでPayPalで送金してちょ」とPoitr。送金してから一月半(日本への返送料をケチッてExpressにしなかったので)、ようやくブツを手にした。
この機種は片耳8ドライバのCustom Artのフラッグシップモデル。構成としては3ウェイで、高域ドライバ✕2、中低域ドライバ✕2、低域ドライバ✕2の3ウェイフルデュプリケイト構成にフルレンジドライバーが2発つけ加わるという面白い構成。
本体はペリカンケースに入って届く。少しやわらかなセミハードともいえるソフトケースも付く。
比較的小さなハウジングに8つのBAユニットが埋まっている(当初「インプレッション採ったら写真送ってチョ」と言われていたので、送ったら「 I'm 99% sure your ears are too small for Harmony 8」と言われ、えぇ~orzとなったが「そんでもトライしてみてちょーだい」とメールしてたら何とかしてくれたみたい)。耳道部分に8ユニット中6ユニットを押し込むかなりせせこましい取り回しで、BAユニット2つ(音域的にペアの2つなのだと思う)からのびる計4本のチューブの開口が鼓膜側にある構成。
ドライバユニット(銀色の直方体)がぎゅうぎゅうに押し込んである。
透明感がないので(まるでグミのよう)カナルのクリアからシェルの空色までのグラデーションも明確ではない。
またカーボンプレートの上に白で「CとAを組み合わせたCustom Artロゴ」を書いてもらったが、その絵柄のエッジはやや甘い感じ(金属プレート打ち抜きのロゴを使ったCanal WorksやUnique Melodyと比べるのは酷だが)。
円の中にCとAを組み合わせたCustom Artのマークは少しエッジが甘い感じ。
見た目的には今までの二つの方がクリアで見栄えがする。
シリコン製と言うこともあって透明度は低く、エッジも立っていない。
結局当初見積と異なり、最終的な請求額は3570PLN(122,682円)と6%ほど上がってしまったので、CW-L11の倍近いプライスとなった本品。外観は他の二つの方が高級感あるなあ..と思いつつ取りあえず試聴....のために耳にインサート。
........素晴らしい!!
バツグンのフィッティング感。まずほとんど外界の音が聞こえない。CIEMがきちんとフィッティングしているかどうかを判断する方法として、装着後その耳の側で親指と人差し指をすりあわせ「カサカサ」という音が聞こえなければ適切だ、と言われているが、今まではかなり小さくなるもののかすかに聞こえていた。それがまるで聞こえない。耳栓をしたような完全な静寂。
またアクリルと違って柔らかいので、耳になじむし、装着のときに痛くない。前回Merlinのときは右耳のフィッティングが合わず、一度製造元でリフィットしてもらったが、どうもcybercatの耳の穴はその部分に突起?があるようだ。今回もやはり同じ個所が装着時に当たる。ただ、Merlinではリフィット前はえぐられるような痛みがあったが、Harmony 8 Proは装着時にその部分に当たるのだけれど、もう一段押し込めば「乗り越える」みたいで全く無痛になる。
特にCW-L11と比べると耳道の奥にまでとどく設計で(インプレッション採取法も奥まで取れ!とあったし)、装着時は苦労するかなと思ったが、シリコンの柔らかさがそれを補い、装着時もさほど苦労せず付け心地感は極上。
さて..音は...と手近にあったものとしてONKYOのサウンドボード⇒ONKYOのスピーカーとつないでいるメインPCのFLACファイルをスピーカーのヘッドホン出力端子にHarmony 8 Proをつないで再生してみた...
...
........ が。
なにこれ。
全然上がない。
下もモコってる(ただコモっているのではなくボヨンと盛り上がっている)。
それまでこの端子にイヤホンをつないで聴くことがほとんどなかったので、当初アクティヴスピーカーのアンプ部が壊れているのかと思ったくらい。
ただためしに、とCW-L11を接続してみると全然普通に上がある(T﹏T)
Harmony 8 Proに戻すと上がない。・゚・(ノ∀`)・゚・。
(内心の動揺を隠しつつ)「とっとりあえず、エージングは必要だよねー (゚ー゚;A」と数日間P8で音楽を鳴らし続けることにした。
そして次の週末。熟成を経たHarmony 8 Proの音は....
...恐る恐るAstell&Kern AK120
につないで鳴らしてみると.............
キタ━━━(≧∀≦)ノ━━━ !!!!!
CIEMってこんなに下が出るんだ....という驚き。従来の2つのうち下が充実しているMerlinを装着して耳に押し付けるように押さえて密着させても、ここまでボディのある音は得られない。ウッドベースは胴が鳴っている。キックの音もビーター側の音ではなく余韻が感じられるシェルの音。そして中域は太く存在感がある音で、耳のそばで聴こえる明瞭さ。特にテナーサックスなんかはサイコ―!!
一方高域は晴れたとはいうものの、他の2つに比べると量的にはかなり少ない。他の2つのCIEMから付け替えるとまるでトーンコントロールで高域を落としたかのよう。ただ、密閉性が良いので、静寂度が高く、聴こえないわけではないし、刺さりとは無縁のマイルドさ。実に暖かい。デジタル系楽曲ならもう少し上が出た方が刺激的かもしれないが、ナチュラルな人声などは素晴らしい。全体に丸くふくよかな音色で、探求的に鋭利に研ぎ澄まされたCW-L11の繊細かつクリアで、でもやや神経質な音とは真逆。
音場・音像も同一傾向で、CW-L11やMerlinに比べると明晰で見晴らしが良い...というよりは狭くて近鳴りしている感じ。各楽器の定位もやや大きめでピンポイントではないし。ただその分迫力はあるので、キャラクターには合っており悪くはない。
全体にたっぷりとした中~低音と丸いながら比較的味付けの少ない(ツンツン飛び出たところの少ない)音色は、意外にもイヤホン系ではなくて音楽制作用の業務用モニターヘッドホンHA-MX10-Bのキャラに近い。いや、それぐらい低域の鳴りっぷりが良い。
音楽的には一番合うのは(HPの記載とはズレるが)ジャズかな。それも小編成でのものがいい感じ。あとはポップス。中域の充実が歌を刺さることなく耳に届ける。またデジタル打ち込み系も(自分にとっては)悪くはない。ガツガツした打ち込みの低音とキンキンした刺さる高音がマイルドになり、聴きやすくなる。
一方古めのロックで音の造りが完全に「ピラミッド型」のものは下が膨らんで上が陰るので、より「釣鐘型」になってキレが悪くなる。またアコースティック楽器のソロ作品などは楽器(の使う帯域)によっては、オイシイところが弱くなる感じ(たとえばアコースティックギターのソロ作品などはボディ鳴りが感じられるふくよかな音にはなるけれど、弦をはじく音や高次倍音がまるまってしまうので新鮮度を欠く)。
またONKYOのスピーカー付属のヘッドホン端子からより、Astell&Kern AK120との相性の方が良い。AK120の出力はやや高音寄りのシャリつき気味の音質。これがH8Pと組み合わせることで程よい落ち着きとふくよかさをまとう。AK120の出力はきれいなんだけどどうしてもカタイなー..と感じていた自分にとってはポタアン不要?という感じ。直刺しで結構イケるのは可搬性を著しく高めるので....
いや~これは化けた。大当たり。
カラ耳、下向き耳道のcybercatにはファイナルアンサーかもしれん、というほどの気に入り方。
ただ、乾いて硬いアクリル系材質と比べると耐久性という点ではどうか疑問が残る。
また材質的にもごみや汚れを吸着しやすい点はやや心配。
そこら辺を長期に見て行きたいと思います。
【cybercat所持CIEM比較】
詳細すぎてよくわからんと..(^^ゞもはや自分のための覚書?
【仕様】
型番:Harmony 8 Pro (H8P)
商品名:3way+Full-range/8driver Custom In-Ear Monitor
ドライバー:バランスドアーマチュア方式(高域×2、中低域×2、低域×2、フルレンジ×2)
インピーダンス:20Ω
再生周波数:10Hz~20,000Hz
感度: 107dB @1kHz @0.1V
【代金】総額142,397円
請求総額:3570PLN(122,682円)
※pre-order discount適用
オプション:
・Carbon faceplates
・State of art
・Detachable Cables
配送方法:Priority International
PayPal使用手数料:+4%
Fedex運賃(日本⇒ポーランド インプレッション発送):14,715円
インプレッション採取代金:5000円
【今回購入時のタイムチャート】
2014/05/17 Custom Artとe-メールで最初の接触(Harmony 8に関して)
2014/05/21 Harmony 8 Proの発表を受け、内容確認
2014/06/08 Harmony 8 Proで正式オーダー
2014/06/14 あいち補聴器センター(愛知県岡崎市)でインプレッション採取
2014/06/24 Fedexにてポーランドにインプレッション発送
2014/07/30 制作開始連絡
2014/08/01 PayPalにて支払
2014/09/23 製品受領
Thanks for Piotr Granicki!
オーディオなんちゃってマニア道
透明感は今一歩。圧倒的な中低域に比べると薄い。
もともと製造元の説明では「overly bright or harsh」ではないが(つまり「刺さるほどではないが」)、素のHarmony 8に比べて高域が伸びているという(実際周波数特性もH8が10~18900Hzに対してH8Pは10Hz-20000Hzと上に伸びている)。しかし、音場が若干狭めのためにそう聞こえるのか、持っている他の2つのIEMがこの領域は優れているということなのか、比較するとあまり透明感や明晰感があるとは言えない。
力強く、柔らかく、暖かい。芯がある音。
飛び抜けてクリアなわけでも、スピード感があるわけではもないが、実に太くて暖かみのある音。それまで持っていたCIEMの中域の音のキャラクターが似ていたためか、CIEMの音に関して「硬く明晰なもの」というイメージができていたが、いい意味でそれを崩した。
ふくよかで力強い。これを聴くとアクリル系に戻るのが難しいかも。
なんといっても本CIEMの最大の特徴。ハイブリッド型のUnique Melody Merlinのようにダイナミック型独特の音圧を感じるわけではないが、耳道に密着したシリコンが重低音の質感と量感を高め、ガッツリ聴こえる。このドライヴ感はスゴイ。★6つでもよい。
音が近く凝集していて、塊感があって押し出しが良い(悪く言えば広がりがない)
(他の2つのCIEMに比べると)高音域に華がないせいか広がり感や見通し感は希薄。すべての音が近くで鳴っている感じ。その分迫力はあるが。
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購入金額
122,682円
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購入日
2014年09月23日
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購入場所
Custom Art
harmankardonさん
2015/01/10
ここまで手を出してしまいましたか.
cybercatさん
2015/01/10
退会したユーザーさん
2015/01/10
なるほどー。しかし8基も積むってスゴイですね(笑)フルレンジ2基が
上手く全体を纏めてくれる感じですかねー。構成が面白いです。
ドライバの構成も筐体がシリコン製というのもスゴく個性的。
実際の音のレビューも素材や作りからなんとなく想像できる音だし
メーカーさんの狙い通りなんだろうなー。
しかし、イヤモニ3機種とか素直に羨ましいです(^^ゞ
cybercatさん
2015/01/10
で。シリコン。これホントに素晴らしい。もちろん外見の美しさはアクリルの方が遙かに上なんですが、密着性と静粛性は何物にも代えがたい。
イヤモニは....沼にはまってますねー(^^ゞ
北のラブリエさん
2015/01/10
でもここまで遮音性が高いと通勤には危険かもw
cybercatさん
2015/01/10
歩行中使用は自殺行為です。
CR-Xさん
2015/01/14
cybercatさん
2015/01/14
がじおさん
2015/01/17
比較の表がとても面白いです。
結局は聞かなければわからない事なのでしょうが、
とても興味深く拝見しております。(≧∇≦)
cybercatさん
2015/01/17
比較してみると、あの「個性的」と言われるMerlinが中庸になっちゃいました(^^ゞ
それぐらい個性強いです。
クリアでないとCIEMではない!と言う人には勧められましぇん。