レビューメディア「ジグソー」

ザ「リリコン」-lyricon-!

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。音というものは、音楽で表現する上で重要です。そしてそれは必ずしも新しいものが良いとはかぎりません。今オールドシンセのシミュレーターが数多く出ているのもその証拠です。ウインドシンセ、というニッチな領域の黎明期、燦然と輝いた楽器の調べを聴かせる作品をご紹介します。

THE SQUARE(現T-SQUARE)。今も、活動を続けるジャパニーズフュージョンの老舗バンド。ただ、彼等はかなりメンバーチェンジが多く、バンドカラーというのはその時々で変わる。多くの曲を書くリーダーにして唯一の全期間在籍メンバー、安藤正容(まさひろ)の書くポップな曲というのが「通し」での特徴か。テクニカルでCOOLなCASIOPEAとも、熱く粘るNANIWA EXPRESSとも違うキャッチーで覚えやすい曲が彼等の特徴だ。

その最大のものがF1ブームとともにフィーチャーされ、彼等の代表曲ともなった「TRUTH」。ただあの曲は彼等にしてはかなり極端なハードさで、その曲が売れてしまったためにその後の数年間の方向性を決めてしまったような感じもある。その「TRUTH」のあとしばらくしそのハードフュージョン路線が続いたが、その後フロントマンがテクニシャンの本田雅人に代わり、よりテクニカルでエレクトロな面に進んだり、一番音色的に幅があるキーボーディストが毎作のように変わって作風が一定しなかったり、出戻ってきたフロントマン=サックスの伊東たけしと安藤のユニット構成になったりと忙しかったが、ここ10年ほどは新人類ドラマー坂東慧クンと意外に歴代メンバーのなかでは「ピアニスト」として一二を争えるリリカルさを持った河野啓三を加えて安定している(正ベーシスト不在)。

ただ、その一般界でのブレイク以前、もう少しライトでとびきりポップだった時代があった。それが伊東たけしが出戻る前はT(HE)-SQUAREで安藤に次ぐ長期所属メンバーだったキーボーディスト和泉宏隆を擁した時代。しかもリズム隊が「TRUTH」のころの則竹裕之+須藤満コンビではなく、長谷部徹+田中豊雪であった頃。

“脚線美の誘惑”

から本作までの5作がそのメンバー。そのトリを飾る本作は、「TRUTH」ほどガチガチにハードではなく、CASIOPEAのような爽やかなクロスオーバー系の曲もちりばめられた良質なインストルメンタルアルバム。この頃の彼等は曲調が明るくて、夏っぽい感じの曲が多いのだが、この作品は特にそう(ワイハの録音だから?w)。

その中でもこの作品の最初の曲は軽さとポップさとの絶妙なブレンドで、特に古参の?T(HE)-SQUAREファンには受けが良い。

その「OMENS OF LOVE」。このキャッチーな曲は意外なことに安藤ではなく、在籍最後の方はピアノしか弾かなくなっていった和泉の作。和泉は「宝島」など他にもポップな名曲を残しているが、曲調的にはややハードで彼の作の中では異端気味。しかし、「TRUTH」以降のハードでデジタルな音を好まないファンからはベストと言われる事の多い曲でもある。それはなんと言っても伊東の吹くリリコンの暖かくホワンとした音に尽きるのかもしれない。1970年代ベンチャー企業Computoneによって開発されたウインドシンセサイザーの奔り。現在のウインドシンセは「シンセ」といっても音源をMIDIで他に求める「ウインドコントローラー」であり、音源まで内蔵したものは皆無。しかしこのリリコンは音源を持っており、太く暖かみのあるきついところがない音が特徴(後に外部音源がコントロールできるものもでき、やはりアナログシンセのOberheim 2 voiceやmini moogが使われた)。その音の良さが最もよく出ている曲。プリセットがないのでライヴ中の音の調節ができない、電圧変動で音がへべれけになる、と初期アナログシンセのネガが多いこと、およびComputoneはとうに潰れていて(1981年倒産)、この作品が出た時点(1985年)ですらメンテが難しくなってきていたので、その後伊東も使わなくなるが、リリコン、というとこの曲を思い浮かべるほど、その太い刺さるところがない音は独特。

Jerry Hey率いるホーンセクションが加わった「IN THE GRID」は、田中のブリっとしたスラップのベースラインとリズムマシン然としたハンドクラップが、長谷部の正確なリズムどりとあいまってとてもゴキゲン。ちょっとファンキーな感じがそれまでの彼等にはなかったアメリカの薫り?

ラストの「FORGOTTEN SAGA」も和泉の手になるものだが、彼らしい壮大なバラードでこれも評価が高い。和泉のエレピと持続音型のシンセのバックに、伊東のアルトが映える。その後ギューンとディストーションギターが入り、シンバル多用のドラムワークと、上下に良く動くベースラインが加わる定番の盛り上げ方なんだけれど、まぁはまっていること、はまっていること。こうくるだろうな、と思うとおり来て、それでもヤラレるというのは元の曲がイイんだろうな。和泉のピアノソロもリリカル!こういうの聴くとやっぱり歴代T(HE)-SQUAREキーボーディストの中ではピアノでは彼が一番かなー..。

初期THE SQUAREの集大成といえる作品。彼等のライトさとポップさが絶妙に溶け合っていてイイ。「TRUTH」以降から入った人にはハードさではやや物足りないかもしれないが(しかしこのアルバムの「PRIME」はプレ「TRUTH」ともいえる傾向が似たハードチューンだけれど)、CASIOPEAとフュージョン界の双璧と呼ばれていた頃はこのアルバムの頃。「フュージョンブーム」の熱かった頃は実はこのあたり(「TRUTH」はF1で火がついただけで、ブームとしてはやや去り始めていた)。

ただ残念なのはこの作品あんまり録音状態が良くないんだなー。ちょっとこもっていて、リバーブ処理などもちょっと分厚すぎてオブラートにくるんだ感じ。最近T-SQUAREも新譜はハイレゾ音源が併売されるようになったけれど、これもハイレゾ化されないかな...そう感じる作品です。
パホイホイ溶岩の上に立つメンバー。このメンバー構成での最後の作品。
パホイホイ溶岩の上に立つメンバー。このメンバー構成での最後の作品。
【収録曲】
1. OMENS OF LOVE
2. FEEL ALRIGHT
3. CHANCES
4. STIMULATOR
5. WE`LL NEVER HAVE A TROUBLE
6. IN THE GRID
7. MERYLU
8. PRIME
9. FORGOTTEN SAGA

「OMENS OF LOVE」

  • 購入金額

    2,800円

  • 購入日

    1991年頃

  • 購入場所

18人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (6)

  • 北のラブリエさん

    2014/10/12

    どこかでOMENS OF LOVEをエレクトーンで弾きこなしている女の子を見て関心した覚えがあります。
    やっぱ名曲だなぁ。
  • cybercatさん

    2014/10/12

    ラブリエさん、気がついてみるともう30年前!(ひえぇぇぇぇぇ の曲なんですが、やっぱり「OMENS OF LOVE」は初期THE SQUARE時代の名曲だと思いますね。
  • sakさん

    2014/10/12

    OMENS OF LOVEは吹奏楽のポップス枠の大定番ともなってますね
    中学高校ともスタンドプレイまでいついて楽しくやってたわぁ
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