レビューメディア「ジグソー」

商売の世界で数奇な運命で生まれた作品でも楽曲と演奏のすばらしさは損なわれない。

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。ベストアルバム、というのは難しい作品です。リスナーにとっては好きなアーティストの代表曲が手軽に安く楽しめるアイテムですが、アルバムをコンセプトを決めて制作しているアーティストに取ってみれば、複数のコンセプトの混色になってしまいます。またベストアルバムは複数のアルバムから編まれますので、その間の作風の変化、技術の向上などを無視して過去の作品に直面させられます。バンドの場合はメンバーの変遷もあるでしょう。そのため、アーティスト側からベストアルバムの企画が出ることは希ですが、制作側からすればいくつかのヒット作をつないだベストアルバムは手軽に売上が期待できるアイテムです。アーティストの承諾を得ず作られた、しかしそれ故にレアなソースが含まれたベストアルバムをご紹介します。

荒井由実、現在は結婚後の姓、松任谷由実の名で活動するJ-POPクイーン。松任谷由実の時代にビッグヒット(「真夏の夜の夢」や「Hello,my friend」など)が多いが、売り上げ枚数はTVとタイアップしたプロモーションの成果ともいえ、結婚前の荒井由実時代にも名曲は多い。

この作品は荒井由実時代に所属していたアルファレコード主導で創られたベストアルバム。荒井由実時代の4枚のアルバムから曲順通りに所々曲を抜きつつ1アルバム6曲ずつ選曲、それにその時点でアルバム収録されていなかったシングル2枚のA面、そして「オリジナル・カラオケ」と称してヴォーカル抜き(いわゆるマイナスワン)トラックが10曲と言う構成。

アーティストが積極的に関わり、選曲はもちろん曲順も吟味して、必要ならば録り直しまでしたベストアルバム

と比べるとあまりにお手軽。実はこのベストアルバム(シリーズ)は制作側・版権者側がアーティストの同意なく作ったベスト。まぁ、商売の世界なので珍しいことではないが

それ故のおもしろさもある。

ジャケット、ライナーに至るまで全く本人の写真が使われていない。イラストだけのシンプルな造り。ライナーも題名に作詞・作編曲者が書かれているほかは、歌詞だけで、演奏者やプロデューサー、ディレクターの記載は一切無し。このあたりがアングラ系の商品、という雰囲気だ。
一切本人が出てこないイラストだけの装丁
一切本人が出てこないイラストだけの装丁
「ひこうき雲」。この歌が聴きたくて引っ張り出してきた。宮崎アニメ最新作(2013年現在)、「風立ちぬ」のテーマソング。♪空に憧れて/空をかけてゆく/あの子の命はひこうき雲♪ゼロ戦の設計者、堀越二郎をモチーフにして、堀辰雄の小説「風立ちぬ」をリメイクしたもので、病に冒された堀越二郎の婚約者がこの歌に重なる。まるでこの映画のために書かれたようなジャストフィットの曲だが、40年前に出されたこの曲がそのために作られたわけではもちろんない。ただ、若くして逝ったユーミンの友人に捧げる曲のため、映画での命を削りながら二郎を支える恋人(菜穂子)の生き方の、不思議なデジャヴュとなっている。

「やさしさに包まれたなら」は同じく宮崎アニメの「魔女の宅急便」のエンディングテーマ。ラジオから流れるこの歌をバックに、後日譚が描かれるエンドロールが印象的だった。

「中央フリーウェイ(オリジナル・カラオケ)」はまさに、単なるマイナスワントラックで、ガイドメロディーが入るわけではなく、単にユーミンの声を抜いただけのある意味手抜きカラオケだが、その分バックのミュージシャンのプレイがよく聴き取れる。特に近年TOTO

のツアーに病気療養中のMike Porcaroの代役として帯同した名ベーシストLeland Sklarのプレイは、よく聴くとすばらしいリズム感と小技に満ちた遊びのラインがステキで今更ながらにスゴイプレイだな、と。

主要株主が資本を引き上げたアルファレコードの末期に、売上増のために手持ちの版権を持っていたアーティストの録音で企画されたベストアルバム。それは荒井由実時代の楽曲を単に並べてつないだだけの「ベスト」アルバムながら、彼女の作品を支えた名プレイヤー達のプレイが細かく聞き取れるオリジナル・「カラオケ」が付いていた。制作側としては、本人の同意が得られていない以上、リミックスなどは作れず、手持ちの版権から演奏部分だけを取り出した苦肉の「特典」だったのだろうが、意外におもしろい。

瓢箪から駒?みたいな、感じデス。

【収録曲】
DISC1
1. ひこうき雲
2. 恋のスーパー・パラシューター
3. きっと言える
4. ベルベット・イースター
5. 雨の街を
6. 返事はいらない
7. 生まれた街で
8. 瞳を閉じて
9. やさしさに包まれたなら
10. 12月の雨
11. 魔法の鏡
12. たぶんあなたはむかえに来ない
13. コバルト・アワー

DISC2
1. 卒業写真
2. ルージュの伝言
3. チャイニーズ・スープ
4. 少しだけ片想い
5. 雨のステイション
6. さざ波
7. 14番目の月
8. 朝陽の中で微笑んで
9. 中央フリーウェイ
10. 避暑地の出来事
11. グッド・ラック・アンド・グッド・バイ
12. あの日にかえりたい
13. 翳りゆく部屋

DISC3《オリジナル・カラオケ》
1. あの日にかえりたい
2. きっと言える
3. やさしさに包まれたなら
4. 魔法の鏡
5. ルージュの伝言
6. 少しだけ片想い
7. 雨のステイション
8. 中央フリーウェイ
9. グッド・ラック・アンド・グッド・バイ
10. 翳りゆく部屋

「ひこうき雲 MUSIC CLIP(Short ver.) by 砂田麻美」

  • 購入金額

    4,800円

  • 購入日

    1992年頃

  • 購入場所

15人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (6)

  • 退会したユーザーさん

    2013/08/19

    ほとんど一緒に歌えそうな曲ばかりです。
    結婚前に家内と京都会館へコンサート見に行った
    記憶が・・・(笑)

    ユーミン、でも歌は下手ですよね。
    音程がちょっとズレていますよね。(笑)
  • cybercatさん

    2013/08/19

    kusabuturiさん、
    >結婚前に家内と京都会館へコンサート見に行った
    ヒュ~ヒュ~ww

    ユーミンはいわゆる「上手い」歌手ではないですね。
    ソングライターとしては抜群の才能を持ちますが、シンガーとしては。
    ただ、自分が歌うことを前提に書かれた曲は、そのあんまり上手くない歌唱力でも破綻ないように作られており、楽曲のすばらしさがその欠点を補って余りありますが。
  • UDさん

    2013/08/19

    この人の最初のプロデューサーの川添象郎は、私が出会った中で最も感じの悪い人物です(汗)

    もう死んだかなとwikiを見てみたら、先月万引きと覚醒剤で逮捕されてました…。
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