渡辺香津美、ギタリスト。ナベサダ(渡辺貞夫)のバンドや、坂本龍一らと組んだKYLYN BAND、Yellow Magic Orchestra(YMO)のツアー同行などで識られる日本のフュージョンがまだロック色を強める前、クロスオーバーと呼ばれていた頃から活躍するギタリスト。その後彼の名を知らしめたのが、今は亡き日立のオーディオブランド、‘Lo-D’のCMソング「UNICORN」。
Marcus MillerとSteve Jordanの生み出すタイトな乾いたリズムに香津美の2連の16分音符が喰って入るというスリリングで、でも耳に印象的な曲は、インストながら人々の心に残った。
その後、さらに盛り上がりを始めていた(ジャパニーズ)フュージョンシーンに行くかと思われた香津美は別の道を行く。それはジャズロック系のミュージシャンとの道。ジャズとロックの中間に位置する音楽ジャンルは、日本においてはよりロック色を強めて明解な方向性のいわゆる「フュージョン」となったが、海外、特に英国ではロックはロックでもプログレッシヴロックと融合して「ジャズロック」と呼ばれる音楽となる。ここに伝説のプログレバンドYes~King Crimsonを経てUK
を結成後、さらなる音楽の先鋭化を求めて袂を分かったBill BrufordはそのUKのギタリストAllan Holdsworthと、新鋭ベーシストJeff Berlinと‘Bruford’というジャズロックのバンドを作る。
その芸術性と新規性、高いテクニックで高い評価を受けた‘Bruford’。そのリズム隊であるBillとJeffを従えて香津美が録った挑戦作。つまり‘神’Holdsworthと比べられるという危険性と栄光を孕んだ作品。
しかし香津美はテクニックでは負けることなく、方向性としては東洋的調べをフィーチャーしたエキゾチックなプレイをし、ギター+ベース+ドラムスという最低限の構成ながら、BillとJeffとがっぷり四つに組み合った鬼気迫る作品となった。
「Melancho」。ハイスピードな6/8拍子をBillの正確無比なドラミングが、変拍子風に刻んでいく。Jeffのベースは曲が進むにつれて雄弁に、スラップ奏法を使わない指弾きの速弾きに。でもラストの変拍子風キメの時はJeffの刻むベースのみが頼りよ、みたいな。そしてそれらを従え、香津美のギターが縦横無尽に駆け巡る。クリアなカッティング、歪みまくった音の速弾き、‘神’に負けていない。
「City」はBillがSIMONS(エレドラ)を使っているので、まるで打ち込みに聞こえてしまうような超正確で速いロールを挟んだドラムパターンに、Jeffの高速ベースとフルユニゾンする香津美のギターは弾きまくり!イヤ弾き倒しまくり!!そのソロもピッキングハーモニクスやアーミングバリバリのヘヴィメタ的なw続いてJeffのノンスラップ速弾きソロ。
「UNIT」は爽やかなギターシンセのコード展開から香津美とJeffとのどこか東洋的なイメージのメロディのユニゾン。Billは淡々とリムショットやパーカッションを交えたポリリズムで支える。わりにさらりと聴き流せるが、やろうと思うととんでもない高等テクニック、みたいな。
‘神’Holdsworthに対抗するのでなく、そのアプローチと感性で別次元で超えて魅せた香津美。彼も30代前半の脂ののりきった時。このメンツの高い芸術性とテクニックは内外で高く評価され、香津美のベストと推す人物も多い作品となった。
この後彼らは凄腕キーボーディストPeter-John Vetteseを加えて続編、“The Spice Of Life 2”を手がけるが、それは本作ほどは評価されていない。3+1が4にならないのは、こういった即興性を核とする芸術の分野では研ぎ澄まされた渡り合いの方が良いのか、慣れとダレがあったのか、興味の方向性が違ってきたのか、それは解らないけれど。でもそのことはこの盤が奇跡の名盤と呼ばれているのを妨げるものではない。今聴いても背筋がゾクゾクする3人の真剣勝負の刃の燦めきが見えるような作品です。
【収録曲】
1. Melancho
2. Hiper K
3. City
4. Period
5. UNT
6. Na Starovia
7. Lim-Poo
8. J.F.K.
9. Rage In
「Melancho~Hiper K」
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購入金額
2,500円
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購入日
1993年頃
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購入場所
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