先日音楽プロデューサー、Phil Ramoneの訃報が伝えられました。追悼の意味を込めて彼に関わる作品のレビューを何か書こうと思っていたのですが、そこで思い出したのがこのアルバムの存在でした。
とはいえ、彼がこの作品のプロデュースに携わっていたというわけではありません。この作品のプロデューサーは、Beckley-Lamm-Wilsonの3人と、Phil Galdstonですので。ただ、このプロジェクトを生むきっかけとなったのが、Phil Ramoneだったのです。
まず、Beckley-Lamm-Wilsonについて触れておきましょう。メンバーはGerry Beckley(America)、Robert Lamm(Chicago)、Carl Wilson(The Beach Boys)の3人でした。恐らく70年代から80年代辺りでこのプロジェクトが組まれていれば、それだけで話題を集めたであろうビッグネーム揃いです。
本作は2000年に発表されますが、この3人が結集したのはそれよりも遙かに前の、1991年頃であったといわれています。当時Robert LammはPhil RamoneやRandy Goodrumをプロデューサーに迎え、自身2作目となるソロアルバムを制作していました。そこにPhil Ramoneがある曲のデモテープを持ち込んできたのです。
その曲を作ったのはAmericaのGerry Beckleyでした。Robert Lammはその曲を一聴して強く心惹かれたそうです。そこでPhil RamoneはGerryやCarl Wilsonと共にこの曲を録音してみることを提案します。Robertもすぐに同意し、3人が集まってセッションを行ってみると、予想以上に3人のハーモニーが美しく、誰もが喜んでいたそうです。元々それぞれ面識はあったようですが、Phil Ramoneの提案がなければこの3人で集まるということはなかったでしょう。これがPhil Ramoneが生みの親という理由です。
その時にRobertが取り組んでいたアルバムは、後に「Life Is Good In My Neighbourhood」という題で発表されますが、ここにその曲は含まれませんでした。このアルバムはあくまで自作曲だけで作りたいというRobert自身の意向を汲んだ結果だそうです。ただ、3人は改めて集まり、曲を持ち寄って少しずつ録音を進めていったそうです。
3人とも大物グループの中心人物であり、アルバム制作やツアーの合間の僅かな時間で集まっていたため、制作には年単位で時間がかかっていきました。やがて録りためた曲が13曲となり、そろそろアルバムとしてまとめようとしていた矢先に、Carl Wilsonが体調を崩します。彼は既に肺がんに冒されていたのです。Carlの回復を待って制作を続けようとしていた残った2人でしたが、結局1998年にCarlは亡くなってしまいます。この時点で一度このプロジェクトは完全に白紙となったそうです。
しかしプロデューサーのPhil Galdstonが残されたデモテープを整理しているうちに、Carlの遺作となるべき本作を何としても世に送り出すべきだと思い直し、残されたメンバーを説得し、レコード会社との契約をまとめ、何とか発売までこぎ着けたのが本作なのです。
まずアメリカでは2000年6月に発売となりますが、このときには全10曲入りでした。これはCarlの追悼色が濃い発売であったこともあり、残された13曲のうちRobertの2曲とGerryの1曲を削り、Carlの作品を中心に据えたためでした。Robertはそのうちの1曲「Standing At Your Door」を自身のヴォーカル以外を削った形でソロアルバム(3作目の「In My Head」)に収録し、GerryはBeckley-Lamm-Wilsonそのものの「Hidden Talent」をAmericaのアルバム(「Human Nature」)に収録して世に送り出しましたが。
しかし日本での発売が決まると、Robertとの親交が厚い音楽評論家の伊藤秀世氏などの尽力により、残された13曲全てを収録する方向で企画が進められます。まずRobertが削った2曲はそのまま収録が決まったのですが、問題はAmerica名義で発表されてしまっていた「Hidden Talent」でした。これは権利上の理由から収録は認めらないということになり、Gerryは代わりにBeckley-Lamm-Wilsonで暖めていた未発表曲「In The Dark」の提供を申し出てくれたそうで、結局日本盤は2001年6月に当初とは1曲違うものの13曲入りとして発売されました。
決して潤沢に予算がかけられているわけではなく、メンバー3人とPhil Galdston以外のミュージシャンとしては、ギターのMichael ThompsonとベースのJason Scheff(Chicago)が記載されている程度で、他は楽曲毎に個人的なつながりを頼って招いたゲストが参加しているにとどまっています。そのためどうしても打ち込みなどが多用され、音がやや薄くなっている部分があることは否定できません。
とはいえ、楽曲も3人のヴォーカルやコーラスワークもさすがの一言。売れ線狙いの派手な楽曲などありませんが、いつ聴いても全く褪せることのない良さを持った楽曲が並んでいます。80年代のAOR的な要素を持ちつつも、より深みのある楽曲は時代を超えた良さを保ち続けていて、個人的には2000年以降に発表された音楽作品としては、これ以上のものはないと思っているほどです。
残念ながら殆ど話題となることなく終わってしまった作品で、国内盤のCDや、米国盤の全10曲入りのCDは既に入手不能でしょう。ただ、Amazon等でmp3ダウンロード販売は継続しているようですから、是非多くの人に聴いて欲しいと思います。
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購入金額
2,300円
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購入日
2001年06月頃
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購入場所
北のラブリエさん
2013/04/03
興味があるのであとでポチるつもりです。
jive9821さん
2013/04/03
これほどの作品が「知る人ぞ知る」で終わっているのは実に勿体ないと思いますので、是非聴いていただければと思います。
今ならAmazonに在庫が少しあるようですし、CD Babyでは日本盤と同じ構成のCDが入手可能なようです。
http://www.cdbaby.com/cd/blw