今回レビューするのは、PHILIPS Fidelioブランドのフラッグシップヘッドホン、L1。
最近では携帯端末で音楽を楽しむ人が増え、また携帯端末1つとっても端末のスピーカーからインナーイヤーヘッドホン(いわゆるイヤホン),ヘッドホン,ドッキングスピーカー,カーオーディオなど様々な聞き方がある。
ユーザーはCDを大量に持ち運ぶ必要なく、また場所も選ばずに音楽を楽しむことができる。
そんな携帯端末向けオーディオ市場に、主に携帯端末のドッキングスピーカーを発売していたPHILIPS Fidelioブランドを背負い登場したのがこのL1だ。
既にラインナップされているPHILIPSイヤホン・ヘッドホンのラインナップでなく、Fidelioブランドを搭載したヘッドホンはどの様なヘッドホンなのか。
現在愛用しているモニターヘッドホン,SHURE SRH840との比較をはじめ、L1の特徴を探ってみたい。
まずは製品の概要から見てみようと思う。
前述の通り、L1はPHILIPSで主にドッキングスピーカーを発売しているブランド、Fidelioから発売されたヘッドホンだ。
PHILIPSからもイヤホン,ヘッドホンは多数発売されているが、Fidelioブランドからは初めてとなるヘッドホンである。
…余談ではあるが、Fidelioとはベートーベンが遺した唯一のオペラ作品のタイトルである。
ベートーベン作品の様な、また同題オペラの苦難の末の完成された作品の様な音を目指しているということなのだろうか。
開封している時に気づいた、注意書き。
紙や底面ではなく側面に記述することで、黒一色のデザインを出来るだけ崩さないようにしている。細かいながらオシャレな工夫だ。
本体を見ていこう。
耳に当たる部分が10cm弱あるとは思えない、とてもすっきりとしたデザイン。
所有しているSRH840と比較しても、見た目の差はとても大きい。
実際に装着してみると、2つの印象はまるで違う。
SRHはさておき、L1は落ち着いたブラウンのヘッドバンドとつや消しアルミ、さらにつやでより黒く小さく見えるハウジング部分のおかげで大型のヘッドホンをしている割には普通?に見える。これなら女子でもギリギリヘッドホン女子となれるだろうか。
装着感は強くもなく弱くもなく、適度なテンション。加えてイヤーパッドの厚さが厚いので、耳をすっぽり覆いスキマもできない。
遮音性はカナル型のイヤホンに比べれば低いが、それでも音楽の再生中は多少大きな音を立てられないと気づかない。
また再生中の音漏れは、異常なまでに音量を上げて聞いていなければ隣の人が耳を澄まさないと聞こえないレベル。
装着性,遮音性,音漏れと、装着に関わる3ポイントは全く問題ないと言っていいだろう。
もっと詳しく本体を見ていこう。
梨地のさらさらしたシルバーに艶の黒がとても綺麗。
最近はこの様な表面や色の樹脂素材が多く少しちゃちく見えがちだが、L1はもちろん金属で剛性もバッチリ。
フレームはヘッドバンドの内側へと入り込みアジャスターの役目も務める。
フレーム内側は梨地から一転、ヘアラインかつレーザー刻印の目盛りがかっこいい。ヘッドバンドの本皮地との組み合わせも見ていてとても飽きない。このアングルがこのヘッドホンの一番かっこいいところなのではとも思う。
L1はインプットコードが片耳出しなので、右耳コードがヘッドバンドを伝う。布巻きかつ強めのバネ形成がなされているので、収納した時もコードがたわまず不恰好にならないし、なにより引っかかったりしないのは大きい。この点はとても心配なSRH840と大きな違いだ。
本皮製&ステッチというヘッドバンド。落ち着いた茶色と大きめのステッチで高級感がある。
バンドの裏側には適度なパッドが入ってるので、長時間つけていても痛くならず300g超という重さもあまり感じない。
機能的な面も見ていこう。
パッケージにある"Made for iPod,iPhone,iPad"の通り、それら端末の再生/一時停止,先送り,音量調整が可能なインラインリモコンにマイクのついたケーブルが付属する。
ヘッドホン本体から伸びているケーブルは10cmほどで、リモコンの付いたもの,ついてないものの両方を使用出来る。ケーブル長は約1m。
ケーブル中に重さのする端子があると気になってしまわないかと思ったが、端子自体が小さく軽いためほとんど気にならなかった。金メッキ端子と梨地アルミのプラグはいちいち格好いい。
ケーブルも普通の樹脂皮膜ではなく布巻きのもの。癖も付きづらく、しなやかで使いやすい。
また携帯端末だけでなくヘッドホンアンプなどのφ6.3mmヘッドホン端子につなぐためのアダプタも付属。
この手の高級ヘッドホンはφ6.3mmヘッドホン端子がデフォルトでφ3.5mmミニプラグへはアダプタ変換で対応が普通だと思っていたが、SRH840といいL1といいミニプラグがデフォルトなところをみると、やはり高級ヘッドホンも携帯端末(=ミニプラグ)で使われる機会が多い事が伺える。
肝心の音を聞いてみよう。
公式には、細部までクリア,原音に忠実な音,臨場感と深みのある音質とのこと。どちらかというと、モニターヘッドホン(主に音楽鑑賞用途ではない、味付けの無い原音再生に特化したヘッドホン)に近いコンセプトだろうか。
今回のレビューでは、手持ちのモニターヘッドホン,SHURE SRH840と比較しながらL1の特徴を探ってみたいと思う。
音源の再生は、私のメインPCで行う。
今年になって購入したサウンドカード,ASUSのXONAR Essence STXに直接繋いで試聴する。ミニプラグではなくφ6.3mmのヘッドホン端子(in,out)を搭載している珍しいサウンドカードだ。
再生ソフトはLilith+ASIO出力。XONARがハードウェアレベルでASIOに対応しているので、Windowsのミキサーを通さず音の劣化が少ないとされるASIOの効果がより出るのではと期待している。
音源は私のいつも聞いているジャンルから選んだ。
様々なジャンルの曲を聞いている為、それぞれのジャンル/選定した曲ごとの感想としたい。
またレビューにあたり、推奨された100時間程度のエージング(手持ちの音源を普段聞く程度の音量で流し続ける)を行ったあとで試聴した。
1.Star Wars: Episode III - Revenge of the Sith
オーケストラなサントラとして、好きな映画の一つ,スターウォーズを選択。
SRH840では、その特性を生かしてバイオリンやトランペットの高音が刺さるように飛んでくる。モニターヘッドホンとしては低音のボリュームが大きめなので、その高音に負けることなく低音も響いている。解像度の高さ,クリアさから、響いているというかそのままの音が耳に届いてくる様な感覚だ。
対してL1はSRH840の様な高音の鋭利さが小さく、特にスターウォーズ伝統のオープニング,「遠い昔はるか銀河の彼方で…」のあとに来るジャーン!というトランペットの第一声では少々迫力に欠ける…
が、その後も聞いていると、前者の素直に音が届いているとは違った音の迫力が伝わってくる。低音系、特にティンパニの音は秀逸で、SRHとは違う迫力と音の響き方でそれこそ目の前にティンパニが聞こえてるような気すらした。
それぞれの音の主張 特に高高音の通り方で言えばSRHに分があるが、 バイオリンの重なりあう音だったり所々で鳴るティンパニの迫力、サントラ(むしろオーケストラ?)ならではの迫力がL1には出せていると感じる。
2.EVANGELION 3.0 YOU CAN(NOT)REDO.
ピアノ曲代表、現在公開中の映画 ヱヴァンゲリヲン新劇場版Qのサントラより、"Quante Mains"。劇中碇シンジと渚カヲルが連弾している曲で、TVやYoutubeなどの予告で聞いたことがあると思う。
高音の多いピアノならやはりSRHが…と思ったのだが、むしろ刺さりすぎてとても聞きづらい。ボリュームを絞ればある程度落ち着くが、写真でいう白飛びしてしまっているような高音は、素直に出ているとかそういう次元の話に収まらない。
その点L1ではとても適度な綺麗さと音の太さの高音が楽しめるだけでなく、生ピアノならではの「打鍵時の構造的な音」が楽しめるのが、ピアノを弾いている時と同じ感覚になりとても気持ちいい。
では低音はというと、L1の厚みがあり響く音も良いが、高音ほど刺さる音の出ない本来のピアノらしい粒が揃っていて切れの良い音を出すSRHも良い。どちらとも甲乙付けがたい音だ。
3.METRO BAROQUE - 水樹奈々
ガラリとジャンルが変わり、アニソンからは水樹奈々のTIME SPACE EPより"METRO BAROQUE"。使用した音源はCDではなく、NHKのMUSIC JAPANにて放送されたライブを録画したもの。
CD音源もレンタルした際リッピングしたものを持っているが、よりクリアなボーカル,間奏のギターやベースの強調感が好きで、この曲を聞くときはいつもTV録画した方の音源を聞いている。
ボーカルものになっても、個々のパートがしっかり自己主張,高音はクリアで低音は太さはあってもすぐ引くというSRHは相変わらず、色々な音が澄んで聞こえる。ボーカルの歌声に負けないハイハットとスネアのリズムは秀逸だ。
L1はというと、なによりベースラインの音の響き方に驚いた。音源を聞いているのではなくスタジオでアンプに繋がれたベースを聞いているような、そんな聞こえ方がするのだ。ボーカルの水樹奈々の声も、特に低音の深さが増して聞こえる。
4.プラグアウト - HSP feat.初音ミク
さらにジャンルチェンジ、トランス+ボーカロイドから一曲。
トランス界では有名なHiroyuki ODA氏がボーカロイドの初音ミクを用いてニコニコ静画に投稿したものだ。
ズンズンと地響きを伴うような…ではなく、ズシッとくる深いパンチが来てはすぐ引いていくようなバスドラが聞けるSRHでは、トランスの機械的な音が素直なボリュームで楽しめる。ボーカルやエレクトリカルな楽器の高音も、先ほどのピアノの高音の様に飛び出さずまさに自分がシンセサイザーで鳴らしているように素直に響いている。
一方L1で聞いてみると、自分がヘッドホンで聞いていることを一瞬忘れてしまった。
サウンドカードのレビューに詳しくは記載してあるが、スピーカー環境では簡単ながらサブウーファーを用いた2.1chシステムで音楽を聞いている。そのサブウーファーで鳴らしているような、ズンズンとくる低音がとても印象的だったのだ。
一部の製品にある、高中音が隠れてしまうような低音ばかりが幅を利かせる音ではない。 エレクトリカルな高音も初音ミクのボーカルも、低音に消えることなく綺麗な音を奏でている。
以上4曲、私のよく聞く曲から比較用として感想を列挙してみた。
まず思うことと言えば、バランスのいい低音の出方について。
2wayや大型の1wayスピーカーで聞いているような、自然でありながら響いてくる低音はSRHではまず聞こえない音だ。
今までに試聴したヘッドホンで"低音重視"というと、異常なまでに低音が響いておりそれだけでなく高中音がその低音に消されてしまっている もしくは出ていなかったので、とてもバランスが悪く感じていたのだ。
わざわざサブウーファーを用いたPCのスピーカー環境を作るくらいなので低音が響くのはもちろん嫌いではないのだが、 それは高中音とのバランスが取れている時の話。特定のジャンルばかり聞くならともかく、私のようにクラシックからアニソンまで聞く場合はなおさらだろう。
また定位感というのだろうか、ベースやティンパニがあたかも自分の近くで鳴っているかのような響きをすることにはとても驚いた。
SRHは素直な音が出るしスピーカー環境も十分な低音が出ているが、あたかも近くで演奏されているような感覚を覚えたことはなかった。
SRHの様な素直で鋭く,響くというよりそのまま届いている様な音も色々な音が聞こえて楽しいが、L1の様に実際にスタジオやライブ会場で奏でられている様な音は楽しいというよりむしろ感動という印象の方が強い。
"演奏していただいている"とでも言えばいいだろうか。大げさに聞こえるかもしれないが、SRHと聴き比べていると本当にそう聞こえるのだ。
L1で音楽を聞きながらレビュー執筆を続けていたが、聴きやすいけど気持ちのよいこもらない高音,比べ物にならない低音の響きと、より音楽を楽しみながら聞くことができている。
兄弟機のM1と比べて150gほど重くまたSRH840とほぼ同じ360gという重さも、ヘッドバンドの作りの良さや適度な耳へのテンションでほとんど苦痛に感じない。つけっぱなしでも何時間でも疲れなさそうだ。もっとも暑い時期だと、この密閉性だと多少蒸れてしまいそうだが。
万人におすすめできるかと聞かれると、まずは聞いてみて 触ってみてと言うと思う。
本皮のバンドやフレーム,布巻きのコードと、他との違いを感じることができる。加えて聞いてみれば、今聞いている環境との差を感じることができるだろう。
私の場合は、よりヘッドホンで音楽を聞く機会が増えることまちがいなしだ。
今までSRHを持ち歩いたことなどなかったが、大学で長い時間作業することが多くなった今L1を持ち込んでもいいのではと考えている。
わざわざイヤホンではなくこのヘッドホンを持ち運ぼうと思うほど、このヘッドホンで聞く音楽は楽しい。
今回はレビュアーに選出いただき、ありがとうございました。
PHILIPS Fidelio L1 製品情報ページ
http://www.japan.philips.co.jp/fidelio/products/l1/
harmankardonさん
2012/12/08
L1はやはり高級感がありますね.
聴いていて楽しいというのは重要です.
今度,機会があれば聴いてみたくなりました.
miraさん
2012/12/10
返信が遅くなりました。すみません;
やはり今までがSRHでしたから、見た目にも楽しいというのは何より嬉しいですね。
今の時期だと持ってひんやりしてる金属とか、冷たいけどなんか嬉しくなります。笑
ゼンハイザーのイイの買われたばっかりとのことですが、是非機会があれば聞いてみてください。