フィリップス(PHILIPS)といえばシェーバーなどが日本では有名ですが、コンパクトカセットやコンパクトディスクなどの提唱・開発を行うなど、AV機器分野でも高い技術力を持つメーカーです。
私も昔CDプレーヤーのLHH200Rを使っていましたので、オーディオメーカーとしてもなじみ深いメーカーでもあったりします。
今回レビューを担当させていただいたヘッドフォンのブランドであるFidelioは、フィリップスのポータブルデバイス向けのオーディオ・ブランドで、主にiPhoneやiPod、iPadやAndroid向けのワイヤレススピーカーやドックスピーカーなどのラインナップを取りそろえています。
スマートフォンなどのポータブル機を中心とした手軽に音楽を楽しむ方向にシフトしつつある中で、Fidelioブランドとしてフィリップスの今までの技術力と、上質さ、手軽さを融合させたようなユニークな製品を多数ラインナップしています。
今回レビューさせていただくのは、Fidelioブランドとしてリリースされたヘッドフォン、Fidelio L1となります。
40mmのネオジウムドライバーユニットに装着感の良さそうなゆったりとしたイヤーパッド、本革を使用したヘッドバンドなど、とても高品位かつ最先端のテクノロジが投入されているモデルです。
早速、いろいろなソースの視聴や屋外での使用などを通じて、Fidelio L1の魅力に迫ってみたいと思います。
■豪華なパッケージと付属品
ブラックのマットPP加工されたボックスを開けると、Fidelio L1とご対面。
パッケージも厚手の箱になっており高級感があり、所有感を満たしてくれます。
パッケージ正面
パッケージ背面
ヘッドフォンの下には、標準プラグへの変換プラグとケーブル2種類、スウェード調のキャリングケース、マニュアルが収納されています。
パッケージ開封後
写真でパッケージの下の方にステレオミニプラグが見えていますが、ヘッドフォンからは10cm程度の長さしかありません。
これについては後ほど説明したいと思います。
■とても軽く、装着しやすいヘッドフォン
私が持っている他のヘッドフォンと比べると、Fidelio L1はヘッドバンドがすこし硬めであり、圧迫感は多少あります。
ただし、実際に装着していても疲れることはありません。
疲労が少ない大きな理由は、高さが十分に確保された、低反発素材を使用したイヤーパッドによるところがとても大きいです。
ヘッドフォンを長時間使用していることによる疲れは耳の圧迫によるものが多いのですが、Fidelio L1は耳をすっぽりと覆ってしまうイヤーパッドに低反発素材が使われていることと、イヤーパッド自体の高さがかなりあり、装着していて耳に当たらないため、耳が痛くなることがありません。
これは私が持っている他のヘッドフォンにはなく、とても大きなメリットです。
イヤーパッドの厚みも24mm(実測値)ととても厚く、ATH-M9Xの15mmと比べてもその厚さの差は歴然。
装着していても耳が押されることがないため、長く聴いていてもまったく疲れません。
厚めのイヤーパッド
ヘッドバンドが少し硬めのため、耳へのホールド感はとてもよく、しっかりと頭に固定されます。
ただし、ヘッドバンドが少し重いためか、前後に頭を動かすと耳を軸として前にヘッドフォンがずれることがしばしあります。
歩きながらの使用だと、少し気になるかもしれませんが、一般的なリスニングでは問題ない範囲かと思います。
重量275g
公式サイトでは、重量364gとなっていますが、ケーブルを取り外して計測したヘッドフォン本体の重量は、なんと275g。
見た目がかなり大柄なこともあり、持つととても軽く感じます。
実際に装着してみても、重さは全く気になりません。
■アルミニウムによる軽量で強固なフレーム
この軽さを実現しているのが、アルミニウムによるフレームです。
ヘッドバンドはフレームもアルミニウムでできているようで、┌┐型に加工されていることで、強度を確保しているようです。
ユニットの位置を調整するアジャスター部分には、ゲージ付きのステンレスがはめ込まれており、左右で同じ位置に調整することが簡易になっています。
また、シリアルもここに刻印されています。
内側の目盛り
このアジャスターパーツの出来がまた秀逸で、2.5mmずつカチッカチッと動きます。
円形の窓があり、その中から数値を確認できますので、左右の長さ調整もとても簡単。
こういった、ちょっとしたギミックってとてもうれしいですよね。
アルミダイキャスト製のフレーム
ヘッドバンドは、ユニットを支えるアルミダイカストによるパーツがしっかり取り付けられており、耳に装着した状態を基準として、前方に10度程度、後方に90度回転可能。
180度回転させた片耳モニターは不可能ですが、このヘッドフォンはモニターやDJ用途ではありませんので、問題はないと思います。
ユニットを90度回転させるととても薄くなりますので、鞄に収納して移動する際にとても便利です。
ユニットは90度回転可能
アルミダイカストのフレームは、左右にヒンジがあり、ヘッドフォンのユニット本体と接合されています。
遊びがありますので、ユニットは若干ですが上下に角度が変更可能です。
上下左右と2軸のヒンジを備えていますので頭にぴったりとフィットし、装着時の違和感はまったくありません。
ヘッドフォンのユニットを支えるフレームも、半開放型という本機の特徴となっている部分は鉄製のメッシュ、その周りはプラスチックパーツですが、ユニットを支えるハウジングは黒く塗装されたアルミパーツとなっており、とても剛性があります。
■用途に応じて交換可能な2種類のケーブル
Fidelio L1本体のケーブルは、10cm程度しかありません。
この先に、用途に分けて2種類のケーブルを接続して使用することとなります。
公式サイトには「インラインリモコンとマイク機能」としか書かれていませんので、最初はiPhoneなどのApple製品に対応したケーブルしか付いてこないのかと思い、これだとピュアオーディオやAndroid、Walkmanなどでの使用はどうするんだろう?と疑問でしたが、答えは「2種類のケーブルが付属する」でした。
2種類のケーブルが付属
iPhoneなどの機器で使用するときは、ボリューム、再生・一時停止ボタンとマイクロフォンが付いたケーブルを使用することで、これらの機能が利用可能です。
その他オーディオ機器で使用する場合は、ステレオミニプラグケーブルを使用することとなります。
シンプルかつ小型のケーブル接続部
標準でケーブルが付属しますが、普通のステレオミニプラグの延長ケーブルですから簡単に交換可能です。
好きなケーブルに交換して音質のチューンナップもできますので、いろいろと楽しめそうです。
iPhone・iPodなどがコントロール可能なリモコン・マイク
Appleデバイス向けのリモコンは、表側がボリュームボタンと再生・一時停止、裏にマイクロフォンが内蔵されています。
位置的には鎖骨より少し下あたりと、ちょうど良いポジションでした。
あまり下過ぎるとマイクが使えませんし、上だと逆に操作しづらいと思います。
ケーブルの端子部分はとても小型に作られており、ケーブルをつなげてもあまり違和感がないようになっています。
■iPhone 4S用でヘッドフォンマイク機能を試す
接続ケーブルをステレオケーブルからiPhone対応のリモコン付きケーブルへ変更して、ヘッドフォンマイク機能を試してみました。
このケーブルは、リモコンとマイクが付いており、iPhone、iPad、iPodなどのデバイスをコントロールすることが可能です。
実際に屋外でiPhone 4Sにつなげて使用してみましたが、リモコンでボリュームの操作が可能なのは、とても便利です。
ボタンも十分離れていますので、間違って再生ボタンとボリュームを押し間違えるようなこともありません。
マイクの音質ですが、試しに電話してみたところ、音質としては十分クリアーで聞き取りづらいことは無かったということでした。
ただし、ヘッドフォンから自分の声が聞こえないため、実際にどれくらいの声が相手に聞こえているのかがわからないのがデメリット。
特に、ヘッドフォンで耳を完全に覆ってしまっているため、思わず大声になりがちです。
常用するのは慣れないとちょっと難しそうで、マイクについてはあくまでも一時的な利用かな…という気がします。
■我が家所有のモデルとの視聴比較
私が所有している、下記のヘッドフォンと比べてみたいと思います。
どれも個性的なヘッドフォンで、愛用している製品でもあります。
価格帯もFidelio L1と似ていることもあり、それぞれどのようなキャラクターなのか実際に聴いてみることにしました。
なお、再生時のデバイスはすべて第3世代のiPodを使用しています。
・PHILIPS Fidelio L1
今回のレビュー対象製品。
名門フィリップスのFidelioブランドから登場した、セミオープン型のダイナミックヘッドフォン。
形式:ダイナミックセミオープン型
ユニット:40mmネオジウム
再生周波数帯域:12~25,000Hz
インピーダンス:26Ω
感度:105dB
最大入力:200mW
重量:364g
発売:2012年12月
定価:29,800円
・IXOS DJ1001
ケーブルなどを中心にラインナップを展開している、イギリスのオーディオメーカーであるIXOSのヘッドフォン。
DJレーベルであるMinistry of Soundの名前を冠したヘッドフォンでもあります。
DJ用だけあって、片耳モニターなども可能。
あえてネオジウムではなくコバルトマグネットを採用した、特色のあるモデルです。
形式:ダイナミック密閉型
ユニット:50mm 超高純度コバルトマグネット
再生周波数帯域:10~28,000Hz
インピーダンス:64Ω
感度:107dB
最大入力:3,000mW
重量:280g
発売:2000年頃
定価:32,000円
・オーディオテクニカ ATH-M9X
オーディオテクニカのモニターヘッドフォンの名機であり、未だに愛用しているヘッドフォン。
アルミニウムによるハウジングに46mmのネオジウムユニット、ボイスコイルも含めPC-OCC配線というフラッグシップモデルで、片耳モニターも可能。
ラフに使っても壊れない堅牢性と、音質の良さのバランスがすばらしいモデルです。
形式:ダイナミック密閉型
ユニット:46㎜セラミックコート25ミクロン厚 ネオジウムマグネット
再生周波数帯域:5~30,000Hz
インピーダンス:38Ω
感度:106dB
最大入力:1,600mW
重量:330g
発売:1990年3月
定価:25,000円
■PHILIPS Fidelio L1
最初に聴いた時は、思ったよりも硬めという印象でしたが、これはまだエージングが不十分であったためでした。
約1週間、24時間ぶっ通しでエージングしたところ、ナチュラルなサウンドに生まれ変わりました。
セミオープン型ということで、開放感、音の広がりはすばらしいですね。
装着感が良好で、なおかつ耳とユニットの間に一定の距離感があることもあり、とても奥行きがあります。
聴いていて感じたのが、音の立ち上がりの良さ。
細部のレスポンスが良いというんでしょうか、聴いていて爽快さがあります。
低域が他のモデルに比べると少し弱めですが、足りないという訳ではありません。
また、バランスが良いことと、セミオープンによる圧迫感の無さのためか、ボリュームを上げてもうるさく感じません。
・Jeg Gik Mig Over So Og Land
ベースとピアノの奥行き、立体感がとてもあり、セッションが楽しく感じられます。
細かい解像度というか正確性はATX-M9Xに部がありますが、臨場感はこちらの方が圧倒的であり、十二分にカバーしています。
音の正確さよりも音楽の奥深さを出しているといった趣の音であり、一番リアルさが出ていると感じました。
・Fonque
低域は十分ですが、一番底で鳴っている、地響きのような低音がちょっと物足りないかな、といった感じ。
音の抜けはセミオープン型ということもあってか、臨場感もとてもあり、奥行きがとても感じられてとても気持ちが良いですね。
弦が震える空気感も伝わってきます。
・リンリンシグナル
高域部分に刺さるようなとげとげしい感じはなく、とてもスムーズに聞こえます。
演奏の力強さにミクの声が負けずにしっかり主張しており、案外こういったソースも悪くないな、という感じでした。
・紅茶
坂本真綾の透明感のある声がとても心地よく、雰囲気が出ています。
低音もほどほどに効いており、広がっていく感じのヴォーカルがとても心地よいです。
余韻が楽しい、という印象があります。
・Mediterranean Sundance/Rio Ancho
ギターの位置、弦の響き、息づかいまでリアルに感じられるのは流石だと感じます。
ライブの雰囲気がとてもリアルで、弦の震える空気感まで描かれており、スペック以上の実力を感じました。
・Villa-Lobos: 5 Preludes - #1 In E Minor
私の家にあるすべてのヘッドフォンの中で、一番雰囲気を出しています。
情緒豊かな音の中に、時に哀愁を感じさせる雰囲気は、Fidelio L1が一番得意とするところかもしれません。
・Tear In Heaven
Villa-Lobos: 5 Preludes - #1 In E Minorと似た感じで、悲しみの中に希望を見いだすように歌い上げる雰囲気が素晴らしいですね。
・Another Day In Paradise
冒頭の震えるような低音は雰囲気はしっかり出ているが、押しとしては少し弱い印象です。
ボーカルの厚み、響きはとても良く、ポップスにも相性は良いと感じました。
・DangerZone
パンチ力はやや欠けることもあり、激しいロックなどはあまり適さない…というか、Fidelio L1の良さが生きてこないような気がします。
ケニーロギンス独特の高い声が軽やかで力強さはないが曲の持つ雰囲気が良く出ています。
・U&I
ボリュームを上げるとノイジーな演奏が耳に付き、録音の悪さが出てしまっているのが残念なところ。
ボーカルのノリの良さはやはり良く、楽しげに聞こえます。
■IXOS DJ1001
こちらはあえてコバルトマグネットを採用した、ちょっと変わったモデル。
ステレオ・モノラル切り替えスイッチや反転機能による片耳モニターなど、DJ用の機能も付加されています。
ネオジウムほどのドライブ力がないためか、低音域などパワーに欠けるところもありますが、なんというか、独特の色づけがあります。
人によってかなり差が分かれそうなヘッドフォンでもありますが、個人的には好きですね。
作りはプラスチックが多用されており、モールドも甘いところがあってかなりチープ。
ヘッドバンド部分のクッションも両面テープが剥がれつつあります。
レビューで取り上げた中では最も高額のモデルですが、見た目は最もチープな感じです…
・Jeg Gik Mig Over So Og Land
ちょっと癖があり、ベースの響きに独特のキャラクターが載っている感じ。
低音は弱めですので、正直DJ用途としてはどうなのかな…?という疑問も感じます。
逆に言えば、低音域が誇張されて他の音が埋もれることはなく、バランスが良いとも言えるかと。
もっと下が伸びた方が、ベースの良さが生きてくると感じました。
・Fonque
低音の圧倒感は弱いものの、低域~中域の素性の良さがリアルに表現されており、切れが良いサウンドが楽しめます。
威圧するような低域ではなく、独特の丸みがあるのはコバルトマグネットによるキャラクターかな、といった感じです。
・紅茶
やや蒲鉾な感じはしますが、声に独特の余韻が残り、より大人っぽい雰囲気になっています。
高域から低域まできちんと出ていますが、ボーカル域が厚く感じることと、低域にネオジウムユニットのような押しの強さがないことも有り、蒲鉾的な感じになっています。
・二隻の舟
静寂の中からボーカルが生き生きと伸びてくる雰囲気が他のヘッドフォンとは異なる感じです。
透明感があるため、より明るさが感じられ、低域はやはり弱めですがこれがかえってボーカルがより鮮明になっている印象を受けます。
ちょっと癖がありますが、これはこれでいい感じです。
・Mediterranean Sundance/Rio Ancho
M9Xのように押してくるのではなく、ちょっと引いたところで聴いている雰囲気です。
高域のクリアさから、雰囲気はとても良く、繊細さについてはかなり得意な感じです。
ただ、低域が心持ち控えめなためか、迫力が薄くなってしまっている感じもあります。
・Villa-Lobos: 5 Preludes - #1 In E Minor
Fidelio L1とは違った一面を感じました。
特に、繊細なギターの音色がとても良く響いており、より情緒豊かになる感じです。
・Tear In Heaven
ギターの主張が強いというか、分解力が高いためかよりギターの音が大きく感じます。
繊細さが出ている為か、ギターにより哀愁を感じる音色となっています。
・Another Day In Paradise
序盤の力強さはあまり感じられず、フィルコリンズの声に独特の軽やかさが乗っています。
・DangerZone
低域の伸び、パンチともに押しが弱いのですが、ボーカルを含め、中~高音域の伸びはとても良く、すんなりと聴ける感じ。
繊細であるが故上品な感じがするため、ヘヴィメタルなどには向かないかも。
個人的にはこの曲くらいの限度かな、と感じました。
・U&I
蒲鉾なのが逆に幸いし、ボーカルが前面に出ており、曲のノリの良さが出ています。
中期の厚みのお陰で全体の歪みもあまり気にならないのが良いところ。
こういった曲には適しているのかもしれません。
・リンリンシグナル
独特のクリアさとローエンドの弱さからか、全体的に軽く感じてしまいます。
といっても、元々の曲の雰囲気は十分出ており、高域の伸びも良く鳴っています。
■ATH-M9X
1990年の発売ですから、すでに22年が経過している製品。
とはいえ、その音質は今でも第一線としては十分に通用する、長く使える製品でもあります。
作りはとてもしっかりしており、ハウジング、フレームともにびくともしません。
消耗品のイヤーパッドがすでに製造を完了しており、代替品でしのいでいますが部品の供給が最大のネックです。
・Jeg Gik Mig Over So Og Land
解像度が高くかつ正確であり、モニターヘッドフォンのキャラクターが前面に出ているサウンド。
低音域もしっかり出ており、これぞ密閉型、というお手本のような印象です。
ハウジングが強固なためかゆがみもあまり感じられず、純粋に音が良いと感じます。
・Fonque
低音の下から上までキチッと出ているのが最大の特徴。
アタック感は誇張無く、あくまで正確に鳴らすキャラクターです。
揺るがすような低音が素晴らしく、エネルギッシュさが伝わってきます。
・紅茶
比較対象の中では、とても近くで歌っているように感じます。
開放感があるFidelio L1とは対照的なサウンドです。
Fidelio L1に比べるとカチッと鳴っているが、嫌みではなく声の優しさはきちんと残っているのがいいですね。
・二隻の舟
中島みゆきの独特の歌い上げる雰囲気はFidelio L1の方が特徴がうまく出ているが、M9Xのストレートな表現も捨てがたいといったところ。
ただ、抜けが良いFidelio L1の方が雰囲気が出ています。
こちらもやはり正確さが出ている感じといったところでしょうか。
・Mediterranean Sundance/Rio Ancho
Fidelio L1のように広がりを感じさせるのではなく、定位置でしっかりと鳴っている感じ。
近く感じる分、細かいところまでの分解力が高いというか、20年以上前のヘッドフォンを感じさせない鳴り。
アタックが強いというか、パワーがあるので迫力があります。
・Villa-Lobos: 5 Preludes - #1 In E Minor
中域の厚みが出てきており、情景を描き出すというよりも、ギターの奏でる音色を繊細に再現するタイプ。
悪くはないが、Fidelio L1を聴いたあとだと、面白みにいまいち欠けるという感じがします。
・Another Day In Paradise
出だしがとても力強く、密閉型&ネオジウムユニットのパワーが余すところなく引き出されている感じです。
密閉型でパワー感がある分、こういったジャンルは得意だと思います。
・DangerZone
低域から高音まできっちり伸びていて、ロックの雰囲気がとても良いですね。
ケニーロギンスの声に厚みがあり、Fidelio L1よりもロックはこちらの方が向いているかな、という感じ。
・U&I
曲の楽しさ、元気さが前面に出てきており、ボーカルもしっかりしています。
ただし、正確さがある分音の歪みがFidelio以上に気になってしまう一面も。
・リンリンシグナル
高域のすがすがしさから低域まできっちり出ていて、誇張しすぎず、聞きやすいサウンド。
合成ヴォイスの抑揚のない印象が、よりいっそうモニターヘッドフォンというキャラクターを際立たせている感じがします。
■様々なデバイスでFidelio L1を聴いてみる
続いて、Fidelio L1を様々なデバイスに接続して聴いてみることにします。
・iPhone 4S
現在メインで使用しているのが、iPhone 4Sです。
後継モデルのiPhone 5もリリースされていますが、残債があることと、現在のスペックでかなり満足度が高いこともあって、乗り換えていません。
iPhoneになってから共通して言えることなのですが、iPodに比べるとかなり音質では劣っています。
内部に携帯電話機能などノイズ源になるデバイスが満載であり、なおかつ機能を詰め込んだためにオーディオ用に割けるパーツに限りがあるため音質に注力できない、バッテリーの使用量を抑える必要があるといった事が原因だとは思います。
第三世代iPodに比べると音の広がりが狭く、窮屈な感じがするiPhone 4Sですが、Fidelio L1のセミオープン型のキャラクターに助けられて、そこまで不満はない印象。
ただし、やはりクラシックやジャズなどは、iPodの方が雰囲気が遙かに出ますね。
・第3世代 iPod
15GBのHDDを内蔵したiPodで、今ではバッテリーが死亡しているためDockコネクタを繋いでおかないとまともに動きません。
ハードディスクも激遅、しかも容量15GBということでスペック的にはiPhoneにぼろ負けなかなり旧式のiPodですが、音質は遙かにこちらの方が良いですね。
DC供給がUSBではなくIEEE1394のため、5Vではなく12Vという点がかなり有意に働いている気がします。
また、内蔵のハードウェアを100%オーディオに振り分けられますので、iPhoneよりもこの点でも遙かに有利です。
WiFiなど搭載していない時代のiPodなだけに、ノイズの発生源も少ないと思われます。
こちらで視聴したところ、iPhoneとは比べものにならない、豊かな音場と高域の伸び、すがすがしさが感じられます。
ベースなどの地を這うような低域もしっかりと再生されており、やはり音楽を聴くには専用のデバイスの方が圧倒的に部があるといった感じ。
Fidelio L1の持つ音場の広さが、そのままメリットとして生きてきます。
・Myryad MI120
イギリスMyryad社のプリメインアンプ。
独特に癖があるが透明感が心地よいブリティッシュサウンドを奏でてくれるアンプです。
今回はCDプレーヤーであるMCD500を繋いで、ヘッドフォンで視聴してみました。
音としては、低域の厚みがぐっと増し、空気の余韻まで鳴らしきっており、ポータブル機とは圧倒的な違いを感じます。
そもそもポータブル機と比べること自体間違っているとも思いますが…とはいえ、24万円のアンプと、5万円程度のiPodにその金額差があるかと言われると、微妙なところでもあります。
もっとも、MI120はヘッドフォンアンプ機能はおまけといった感じで、やはりメインはスピーカーを鳴らすためのアンプにありますので、これをもって実力評価としてしまってはかわいそうなのですが。
・NuForce icon
NuForce社の小型USBアンプで、3万円台の価格ながらスペックを超えた音が鳴るということで人気があったモデルです。
ディスクリート構造のヘッドフォンアンプを内蔵しており、PCとUSB接続が可能なヘッドフォンアンプとしても使用可能です。
その音質はというと…iPhone 4Sよりは良いのですが、若干物足りないといった感じでした。
ATH-M9Xなどはカチッとなっているのですが、Fidelio L1の音の広がりがいまいち足りないという印象です。
足りないというよりは、不足感はないけど十分に引き出せていない、といったところでしょうか。
■音漏れと遮音性についての考察
セミオープン型ということで、どれくらいの音漏れがあるのか、外部からのノイズがどれくらいなのかについて屋外で使って確認してみました。
まず、音漏れについてですが、密閉型のATH-M9Xと比較すると大差ありませんでした。
これは、Fidelio L1が完全なオープン型ではなく、フィルターを通じて一部の音しか外部に漏れないセミオープン型であることと、イヤーパッド部分が厚く、かつ高さもあることでこの部分からの音漏れが少ないことに起因します。
ATH-M9Xはハウジングからの音漏れは少ないのですが、圧迫が少ない装着感なこともあって、イヤーパッド周りからかなり音が漏れてきます。
このため、実際に比較してみると大差ない、という印象でした。
遮音性についても似たようなものですが、決定的に違うのは音が入ってくる経路。
Fidelio L1はセミオープンになっているユニット中央部分から外の音が聞こえるのがわかります。
密閉型のATH-M9Xはイヤーパッドの周囲から音が侵入してきますので、同じような音の大きさでも、聞こえ方にはかなりの差があります。
Fidelio L1の方が外部の音と音楽の調和が取りやすい、逆に言えば音が鳴っていても外部の音も聞き取りやすいと感じました。
■Fidelio L1のキャラクターについて
いろいろなアルバムでの試聴や再生デバイスでのテストを通じて感じたのは、密閉型にはない、音の開放感、広がりをいかに引き出せるかによって、Fidelio L1の評価はだいぶ変わってくるのではないか、という点です。
ATH-M9Xよりも音楽の雰囲気を感じることが出来るだけに、再生デバイス側のちょっとしたキャラクターの違いが思わぬ差となって現れてくることも。
今回の試聴では、iPodとiPhoneの音の差がここまであるかと、如実に差が現れる結果となりました。
また、ATH-M9XとNuForce iconの組み合わせはとても良好なのですが、Fidelio L1との組み合わせだとMyryad MI120やiPodで聴いた余韻が少なく、やや物足りなさが感じられます。
1週間ほどぶっ通しで使ってみて感じたのは、価格以上の表現性と満足度、装着感の良さでした。
今まで密閉型(SONYのMDR-F1も持っていましたが、あれは論外)しか本格的に使ったことがないこともあって、Fidelio L1の持つ音の広がりはとても気持ちいいものがあります。
ボリュームを下げてもきちんと細部まで鳴っており、逆にボリュームを大きくしても音の威圧感が少ないこともあって耳障りではないところ、素晴らしいと感じます。
また、低反発素材を使用し、皮もとても柔らかく装着感に優れるイヤーパッドがもたらすほどよい装着感は、ちょっと強めのヘッドバンドの圧力をいい感じで分散してくれますので、長時間のリスニングでも疲れることがありません。
アルミ素材を使用することで重量も抑えられており、重たさを感じません。
単なるヘッドフォンとは違い、iPhone・iPodなどの使用も考えられているところがFidelioシリーズらしいところ。
ケーブルを交換するだけでボリュームなどの操作も可能ですし、ケーブルを変えて音質をチューンナップすることもできます。
今時のギミックを備えつつも、音楽を楽しむという本質を忘れていない、フィリップスのFidelioブランドらしいとても面白い製品だと感じました。
■試聴したアルバム
最後に、各ジャンルごとに、試聴に使用したアルバムを紹介したいと思います。
・ロック・ポップス
Eric Clapton / Tear In Heaven
Unplugged
定番中の定番、とりあえずこれは入れておきました。
エリッククラプトンの集大成アルバムのUnplugged、必要は不明でしょう。
今回選んだのはやはりこれまた定番のTear In Heaven。
団子サウンドなヘッドフォンだと聴くも無残になりがちな曲なので、ヘッドフォンによって結構差が出たりします。
Phil Collins/Hits
Another Day In Paradise
アルバムと共に髪の毛が薄くなっていく(失礼!)、Genesisの元ドラマーことフィル・コリンズ。
アルバムのジャケットがなぜかいつも顔のドアップなのですが、アルバムごとに髪の毛が後退しているので、年代別に並べやすく(殴
今回はポップス代表として、マイケルジャクソンを差し置いてフィル・コリンズの代表曲であるAnother Day In Paradiseをチョイス。
出だしの低音がかなり凄く、低音が鳴らしきれないと悲しいことになります。
かなり偏ってますね、趣味が…
Kenny Loggins/Danger Zone
Yesterday, Today, Tomorrow
こちらは、ジャケットのデザインがなんていうか形容すべき言葉が難しい独自の世界…っていうか宗教っぽくなっていく、Kenny Logginsの名曲。
一発屋っぽい感じがありますが、こちらはビルボード・チャートで2位、Footlooseが1位を獲得しているので、正確には二発屋(?)といった感じです。
今回はベスト盤からのチョイスですので、にこやかな笑顔となっていますが、Keep The FireとかCelebrate Me Homeなどは結構凄いものがあります。
…いや、好きなんですけどね、Kenny Loggins。
この曲を聴くたび、不幸なグースを思い出します(爆
・ジャズ
Paco De Lucia, John McLaughlin & Al Di Meola
Mediterranean Sundance/Rio Ancho
Friday Night in San Francisco Live
パコ・デルシア、ジョン・マクラフリン、アル・ディ・メオラという技巧派3人組による、超絶なギター演奏がものすごい迫力の名盤。
途中で観客が吠えてますが、気持ち、わかります。これ、リアルで聴いたら凄いんだろうなぁ…
この空気感を鳴らすことが出来るかどうかは、再生デバイスのスピード感にかかっていると言っても過言ではなく、だいぶ雰囲気が変わる曲でもあります。
ジャンルとしてはジャズっぽいですが、フラメンコな情熱がふんだんに盛り込まれた熱いアルバムです。
チョイスしたのは、やはり一番ノリノリなMediterranean Sundance/Rio Ancho。
いったい、指何本あるんだ…聴いていてもわからん。
L'orchestre De Contrebasses/Fonque
Transes Formations
バンド名にContrebassesと付くように、バンドメンバー6人すべてがコントラバスという、フランスの異色バンド。
コントラバスの奏でる重低音が心地よい、低音マニアにはお勧めのアルバムとなっております。
ライブでは後ろからコントラバスに抱きついて演奏したり、コントラバスとダンスしたりと、エンターテイメント性も備えた楽しいバンドです。
今回はアルバムの5曲目に収録されているFonqueを試聴用にチョイス。
L'orchestre De Contrebassesらしい、小気味よいサウンドと楽しいノリが特徴で、ベースの低音に酔いしれる曲です。
Kenny Drew, Niels-Henning Orsted Pedersen
Jeg Gik Mig Over So Og Land
Duo2
ケニー・ドリューとペデルセン(長いので略)の絶妙なスイングが楽しい傑作。
その中でも、初っぱなのベースの独奏がとても印象的なJeg Gik Mig Over So Og Landを選んでみました。
軽やかに、震えるようなベースの音にドリューのピアノが合わさっていく空気感は、なかなかヘッドフォンで再現するのが難しかったりします。
チェック用によく使うアルバムでもあります。
・クラシック
Göran Söllscher/Villa-Lobos: 5 Preludes - #1 In E Minor
Preludes, Songs & Homages
スウェーデン出身のイェラン・セルシェルのクラシックギターアルバムから1曲をセレクト。
Preludes, Songs & Homagesの2曲目に収録されているこの曲は、ブラジルの作曲家、エイトル・ヴィラ=ロボスが1940年に発表した5つの前奏曲の第一番となります。
・邦楽
坂本真綾/紅茶
everywhere
声優としても、歌手としても活躍している坂本真綾。
声質が好きなのでしょっちゅう聴いているアルバムでもあります。
今回はベストアルバムから紅茶をセレクト。
よく聴いている曲でもあるので、ヘッドフォンの差がわかる曲でもあります。
最近のアルバムの例に漏れず、リミッターでつぶしまくった感じのレコーディングがあまり良くないのが残念な感じです。
中島みゆき/二隻の舟
大銀幕
名曲が多すぎてなかなか選べなかったのですが、今回は二隻の舟を選んでみました。
シンプルな演奏に中島みゆきの力強いボーカルが合わさった名曲で、再生デバイスによって中島みゆきの力強いボーカルの差が出やすい曲でもあります。
中島みゆきといえば空と君のあいだに、地上の星といった曲が有名ですが、他にも良い曲がたくさんあって選ぶのに悩みますね。
日本人のアルバムにしては録音が良いのも、気に入っているところです。
・アニソン
放課後ティータイム/U&I
放課後ティータイムII
最後はアニソンで締め、ということで放課後ティータイムのセカンドアルバム、放課後ティータイムIIからU&Iをチョイス。
平沢唯が妹である憂を看病していたときに、妹の大切さに気づいて作詞したのがこのU&I。
軽くて楽しい、放課後ティータイムらしい曲に仕上がっています。
ヘッドフォンでどこまで差が出るかわかりませんが、とりあえずアニソン代表ってことで入れてみました。
初音ミク/リンリンシグナル
初音ミク-Project DIVA-extend Complete Collection
初音ミク -Project DIVA- extendの公式サウンドトラックとしてリリースされたアルバム。
ほとんどの曲がフルサイズで収録されており、ボーカロイドのベスト盤といっても良い出来となっています。
肉声ではない、ボーカロイドの独特の発音がどのように聞こえるのか確かめてみるべく、試聴に加えてみました。
harmankardonさん
2012/12/11
ATH-M9Xとの比較で,私にはとてもわかりやすかったです.
モニターヘッドフォンとの違いや密閉型との違いが,よくわかりました.
機会があったら,どこかで聴いてみます.
和屋さん
2012/12/11
濃密なレビューで参考になります。
質感も良く、良さそうなヘッドホンですね~。
ちょもさん
2012/12/12
ATH-M9Xは我が家でもリファレンスヘッドフォンなので、ひとつの基準として今でも愛用していたりします。
密閉型には密閉型の良さもありますが、セミオープンのメリットはやはり気持ちがいいですね。
ATH-M9X、今後出番が少なくなりそうな気がします。
和屋さん:
オープン型は前にMDR-F1で懲りていたのですが、今回のはかなりいい感じです。
ゼンハイザーはちゃんと聴いたことがないので、一度ちゃんと聴いてみたいですね。