所持する音楽データに対する私利私欲．．．イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。最近はインターネットテレビや動画配信により、その影響力を相対的に落としていますが、前世紀末は「テレビ」は最も大きな影響力を持つメディアでした。そんな影響力が大きいメディアの、番組や広告とタイアップして流される歌もまた、広く世間にアピールしました。そんなタイアップ曲を多く手掛けたアーティストの全盛期のアルバムをご紹介します。

中西圭三。一時期「ポスト久保田利伸」として、クボタが全米進出に力点を置いた活動になった1990年代中盤以降は、ソウルフルでいながら親しみやすいメロディで、番組タイアップやCFでよく使われた。

特に、クボタが1990年発表の“BONGA WANGA”で、かなりアフリカ寄りのテイストになった後は、“クボタよりも初期のクボタっぽい”「ソウルテイストのポップス」の第一人者として、テレビからその歌声が流れない日はなかった。

“Steps”は、中西にとっての3rdオリジナルアルバムだが、初のチャート1位のアルバムで、次の“Starting Over”

と合わせて、この時期が一番中西が「売れて」いた時。

それを反映してか、半数ほどの曲が番組タイアップ曲やCF採用曲となっている。

「Glory Days」。同じく中西の筆による名曲「Choo Choo TRAIN」をどことなく想い出させる、ストリングスとブラスの対比が面白い、ポップかつソウルフルな曲。意外なことに、生なのはストリングスのほうで、ブラスはシンセ。そして、キモはシンベ。フレーズと言い、音色と言い、完璧なグルーヴで、ソウルフルな中西の歌を支える。プレイしているのが、中西と鉄壁コンビを組んでいた編曲者小西貴雄か、もう一人クレジットされているキーボーディスト山田秀俊なのかは不明だが、途中のヴィヴラフォン音色のキーボードソロがクール。この曲は予備校のCFソング。

Chicago中期を彷彿とさせる、壮大かつロマンチックなバラード曲「あの空を忘れない」は、小西の美声に酔える。小西の歌い方は、長音で声帯の開け方が途中で変わっていくという特徴があり、長音が多いゆったりとしたバラードはその特徴が良く出る。曲として面白いのは、このアルバム、全曲ベースは人が弾くエレベではないのだが、この曲だけは「打ち込み」でなく、人がプレイするシンベ（他の曲ではプログラムを担当している遠山淳がmoogを弾く）。ダイナミックなベンドダウンなどに、「プログラム」では出ない味がある。これはバレー中継のテーマソングでもあった。

「Ticket To Paradaise (remix)」は参加プレイヤーが面白い。当時同じレーベル（パイオニアLDC）に属していたからか、フュージョンバンドCASIOPEAの二人（野呂一生と向谷実）が参加している。向谷は小西の編曲にホーンアレンジを付け加えただけで、実際にプレイはしていないが、野呂一生はソロ込みでギターをプレイ。歌モノの曲中ソロとしては長めの、細かいアーミングと速弾き織り交ぜた16小節に及ぶプレイと、カチカチと硬質のカッティングがまさに野呂。ビートたけしの番組のエンディングとチョコのCFに使われた曲でもある。

他のタイアップ/CF使用としては、「You And I」が宝石店のCF、「君のいる星」がNHK番組のイメージソングと盛りだくさんで、世紀末の町によく流れていた。

中西は、今世紀に入ってからはその活動内容が、カバーアルバムの制作や、子供番組の楽曲制作、さらにライヴ中心に移り、いわゆるオリジナルアルバムとしては10年ほどリリースが途絶えている。

以前よりは少し恰幅が良くなって、歳が刻まれた感じはするけれども、その張りのある声は衰えず、ますます表現力に深みが出てきた。

再来年（2021年）の活動30周年時には、またこのころのような、ポップでソウルフルな新曲出してくれないかな...と期待しているアーティストです。

うーん、このころは「シュッ」としてるなー．．．

【収録曲】

1. 素敵なことは変わらない
2. Glory Days
3. You And I
4. あの空を忘れない
5. みあげてごらん
6. 青い影
7. Ticket To Paradaise (remix)
8. 手のひら
9. 夜に火をつけて
10. 君のいる星
11. Shake! (album version)
12. Precious Love

「Glory Days」