読んでいると、宮本氏とともに民俗採集の旅に出かけている気分になる「対馬にて」に始まり、三河の山中にある村の古老たちの話しに耳を傾ける「名倉談義」。
田植えをしながら花咲く女たちのエロ話に、読みながらついつい笑ってしまう「女の世間」。
中でもまるで一篇の物語りをよんでいるかのような、かつて遍歴の民だった盲目の老人が語り部の「土佐源氏」の面白さは圧巻。
民俗学の書であるのだが、氏の文章は平明でありながら巧みな筆致で文学作品のようにグイグイ読ませてしまう。
その73年の生涯に3000以上の村々を訪ね、1200軒もの民家に泊り歩き、忘れ去られ失われてゆく日本の村の民間伝承や生活誌を極め細かく克明に綴った「旅する巨人」の本書は、繰り返し繰り返し読むほどの魅力に溢れている。
読むごとに、私たちを取り巻く環境の進化の意味を考えてしまう。
「この人たちの生活に秩序をあたえているものは、村の中の、また家の中の人と人との結びつきを大切にすることであり、目に見えぬ神を裏切らぬことであった。」
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購入金額
735円
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購入日
2000年頃
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購入場所
北のラブリエさん
2012/08/03
民話や風習が忘れられて行かないように出来ればいいんですけどね。
それを忘れざるを得ない生活も否定出来ないです。
vingt-et-unさん
2012/08/05
今、宮本常一氏の「家郷の訓」を読んでおります。
明治の末から大正にかけての山口大島の祖父と祖母、父や母、そして子供たちの生活誌なのですが、物に溢れ生活の型が変わり(進化し)過ぎた現代に生きる私たちに、生きる姿勢とは何かを静かに語りかけてくれます。
北のラブリエさん
2012/08/05
あわせて読んでみたいと思います。
vingt-et-unさん
2012/08/12
『民俗学の旅』、『日本文化の形成』、『塩の道』をまず選んできました。