レビューメディア「ジグソー」

「このいまいましい町のせいだ。毒の町(ポイズンヴィル)とはよくいったもんだ。おれはその毒を盛られちまった。」

ダシール・ハメットの処女長編であり出世作の『RED HARVEST』は1929年に刊行された。
ハードボイルド小説の記念碑的名作であるのと同時に、アメリカ文学の古典であり、J・エルロイやビル・プロンジーニだってハメットなしでは誕生していないと思う。
数多くのフォロワーを輩出させたが、いまだハメットを越えるものはいないと言われている。
黒澤明が『赤い収穫』からインスピレーションを受け、名作『七人の侍』を作り出したことは、よく知られている。

高校生の時分にヘミングウェイに傾倒した流れで、フィッツジェラルドやカポーティなどを一通り漁って読んでみたが今ひとつのめり込むことがなかった。
ちょうどその頃、レンタルビデオで観た『ハメット』の猥雑で混沌とした世界観に惚れ、手にとって読み始めたのがの本書。その後同じくハメットの『マルタの鷹』やR・チャンドラーの世界に踏み込んで、ハードボイルド小説にどっぷりと入り浸ることになる。

ウィスキーの匂いと煙草の紫煙と硝煙が立ちこめる裏切りと銃撃の町。
タフで利己的な主人公の探偵が動くたびに、累々と積まれてゆく死体の数々。
主人公を除く登場人物の殆どすべてが死んでしまうという、プロットなんかどこにも見受けられない、乱歩をして面白くなかったと言わしめた血と暴力の文学。
名無しの探偵が咥え煙草をくゆらせながらタイプ打ちした、まるで報告書のような乾いた硬質の一人称の文体は、それまで自分が読んできた小説のなかに、似たようなものが何一つなく、衝撃的で新鮮だった。

今回登録したハヤカワ・ミステリ文庫版は、ハードボイルド小説翻訳の第一人者との誉れ高い小鷹信光氏による新訳版(と言っても1999年刊行。私がはじめに読んだハメットは確か創元社文庫のもので違う訳者のものだった。)。
『マルタの鷹』や『影なき男』などもその後続々と刊行されて、すべて小鷹氏の翻訳で読みなおした。
繰り返し繰り返し読んだのと、煙草のせいでページも褐変し表紙も擦れてしまっている。
ハヤカワ・ミステリ文庫から、幻の名(迷)作と呼ばれている『デイン家の呪い』が小鷹新訳版で発売されているのを見つけ購入。
『デイン家~』を読む前、久方振りにコンチネンタル探偵社のオプに会いたくなって、ポイズンヴィルまで出かけてきました。
  • 購入金額

    460円

  • 購入日

    1999年頃

  • 購入場所

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