cybercat家にはいろんな楽器がゴロゴロ転がっているが、単体で最も重く、最も広い場所を占有しているもの(パーツ合計だともちろんドラムスが最大荷重/最大占有面積)。
そんな大物なのに入手は最後期。
音楽を人前でやらなくなって久しいが、鍵盤楽器を手に入れる必要があり物色したときに網にかかってきた。安価には手にしたが、普及価格帯の中古電子ピアノでも良かったところをなぜこの機種を選択したか。ENSONIQ、というメーカーがある。後にE-muに買収・吸収されるこのメーカーが現代の音楽界、とくにその機材面での進化に対して与えた影響は実は大きい。このメーカーは1980年代半ば「Ensoniq Mirage」という商品で楽器界に彗星のように現れた。
“サンプラー”という楽器の分野..自然界や人工の音(主に楽器の音)をデジタル録音し、それを(主に)鍵盤で発音させる楽器だ。「Fairlight CMI」やユーミンのアルバム
で使われた「Synclavier」あたりが開祖だが、それは楽器と言うよりは音処理用大型コンピュータであり、可搬性も低く、非常に高価だった。その後楽器らしいサンプラー(サンプリングキーボード)の奔りとしてE-muの「Emulator」が出て一世を風靡するが、それでも高級車が買えるほどの価格。それがENSONIQの「Ensoniq Mirage」は定価40万を切って販売され、プロはもちろん、アマチュアでもムリをすれば手が届く楽器となった。これでちまたにオケヒットや人声のサンプリング音が使われた音楽が溢れることになる。
これを支えたのは同社独自のサンプラーチップの技術。そしてこれにはPC界でもお世話になったことがある人が多いはず。ENSONIQは、この低価格にサンプラーチップを製造できるという技術をPCのサウンドカードに応用した。そのチップを乗せて自社ブランドで「Ensoniq Soundscape」シリーズとしても発売したが、それよりもCreative ES1371、同ES1373として、つまりAC'97互換チップとして数多く使われた。
そしてENSONIQはそのサンプラーチップの技術を発展させてデジタルシンセサイザー~Wave Tableシンセサイザー~も手がけることになる。一般的にトラディショナルなシンセサイザーは
発振器から発せられる波形を削ったり足したり複数の波形で変調させたりして発音させる。この発音部がアナログか、デジタルかでシンセサイザーはアナログ/デジタルの区分をするが、ENSONIQの出したようなデジタルシンセサイザーは特に“Wave Tableシンセサイザー”と呼ばれている。
それまでのシンセサイザーはアナログであれデジタルであれ、発音されるのは正弦波やノコギリ波、矩形波といった単純な波形の音だった。これを足したり引いたり掛け合わせしたりして複雑な波形を創り出していたのだが、このWave Tableシンセサイザーはその発音部にサンプラーチップ(ROM)を用いて、そこに生の楽器や人声、効果音などを収録してそれを元に足したり引いたりといったシンセサイザーならではの加工を行い音を形作る。
単純な波形から複雑でどこにもない音を創る、というのは夢があり無限の可能性を秘めた行為だが、現実的には創りたい音というのはイメージがあることがほとんとで(鐘のような金属音をアタックに持つピアノ、とか、ストリングスのように緩やかに立ち上がるブラスの音、など)、素材が完成されているものである方が遙かに音が創りやすい(前述の例だと鐘の音のサンプルとピアノの音のサンプルを同時に発音するようにして音量を調整する、ブラスの音の立ち上がりが緩やかになるようにフィルター調整する、とか)。この機種“KS-32”は同社の優れたサンプラーチップ技術を活かして180のサウンドを収録してある。特にピアノはリキが入っており、3MBの音源メモリ中1/3を使って多弦マルチサンプリングされている高品位なもの。そして(ここがこのシンセサイザーを入手した理由でもあるが)キーボード部分は76健のウエイテッドキー“WEIGHTED ACTION”。つまりピアノタッチのもので一般的なキーボードの多くが61健(5オクターブ)を採るのに対して、さらに上下に伸ばしてある。(1年前にやめてしまったが)ちょうど子供がピアノ/エレクトーンを習っており、エレクトーン主体だったためかピアノを弾くときの手の形の悪さと力のなさが気になっていたのと、1オクターブ違う2段に片手ずつ構えるエレクトーンと比べると、両手で弾くと5オクターブしかないと曲によってはちょっとつらい、と言うのもあり76健のピアノタッチを探していたわけ。...このメーカーのピアノタッチは素晴らしい定評がある。中を開けてみても特にハンマーを模したような複雑な機構があるわけでもなく、バランスを取った重めのキーとゴムとバネを使った単純な機構。しかしこのキーボードのタッチをチューニングした人は素晴らしい感性・感覚とそれを実現する調整力を持っていたのだと思う。それは今なおこの古いキーボードをマスターキーボードとして使うミュージシャンがいるので良く判る。絶妙。なにせ自分も20年以上前に楽器店で触ってヨカッタ感触を覚えていたくらいだから。音の方も(分野を選ぶが)大変存在感がある。日本メーカーは「サンプラーは原音に近づければ近づくほど優秀」という方針で設計しているようだが、ここは違う。きっとポリシーは「波形違っても原音と同じみたいに聞こえればいいンじゃね?」、たぶん社訓は「他の楽器に/埋もれさせるな/ウチの音」ww。
大変太い音がする。そしてすごくソレっぽい。ピアノはピアノらしく、ハーモニカはハーモニカらしく。よく聴くと違う。でもソレっぽい。むしろ単なる録音を再生するのより、ソレっぽい。ヴァイオリンはベロシティに割り付けられた弦をこする音で、早く(強く)弾けば弦をこするアタックがつき、緩やかに弾けば弦をこするノイズがないやわらかな立ち上がり。ハーモニカはアフタータッチにベンドダウンが割り付けられていて少しキーを押し込むと「ファゥア~」と言うようなビブラートがかかる。
とても音楽的でエモーショナル。
特にオルガンとハーモニカ、スチールドラムはホンモノよりホンモノっぽいかも。メモリの1/3を費やしたピアノも結構イイ感じで専用の「電子ピアノ」に負けていない。
“MIDI STUDIO”と銘打つだけあって、外部コントロールも可能な簡易シーケンサーも付いていて単体で結構高度なことができるので、子供がチーム演奏の練習をするときなどは他パートを自動演奏させて練習、等もできた。これは例によって巨大オークションで入手。
内蔵電池が切れていて波形やシーケンスデータが保存できないという事だったが、中開けてボタン電池を交換(と言ってもハンダで直付けなので一般的には敷居が高い)。しかもこれ、前オーナーが米国で購入、帰国時に持ち帰ったもので、当然マニュアルは英語。そんな理由もあり、安価で入手。発売当初は手が届かなかった機種(当時32万)の中古が格安で手に入る。イイ時代になったナァ..
【仕様】
鍵盤部=76鍵盤ウエイテッド(E~G)
音源部=PCM音源180サウンド(3MB waveform~うち1MBが16bitのマルチサンプリングピアノ音源~)
最大同時発音数=32
シーケンサー=8.500ノートノート(RAMカード58.000)
外部接続端子=音声出力(L/R)、MIDI(In/Out/Thru)、Foot Switch、Pedal C.V.
外寸=125.7(w)×11.4(h)×35.3(d)cm、22.2kg
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購入金額
35,000円
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購入日
2006年02月19日
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購入場所
Yahooオークション
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