T(HE)-SQUARE。日本でのフュージョンブームの時に、音楽的には親しみやすいメロディであり、加えてイケメンメンバーが多かったせいもあり?、最も女性受けが良かったフュージョンバンド。そしてまたフジテレビF1オープニングテーマソングとして永く使われた「TRUTH」により、最も一般的知名度が高いインストバンドの一つでもある。
そんな彼らは1978年にTHE SQUAREとしてデビューして以来(2017年)現在約40年の歴史を持つ長寿バンドであるが、そのためメンバーチェンジと無縁ではなく、メンバーの個性(と時代の要請)によって何度か大きく曲調を変化させてきている。
メンバーチェンジは詳しくみると細かいが、40年の歴史をあとから俯瞰してみるといくつかの時代に分けられる。
まずデビューから1981年の“MAGIC”まではメンバーチェンジも多く、パーカッションが正メンバーにいたり、ツインギター(一時期キーボードもツイン)であったりして構成も流動的で、まだメンバーの「やれること/やりたいこと」が定まらない感じ。まさに黎明期と呼べる状態。
次の区切りが1982年の“脚線美の誘惑”
から1990年の“NATURAL”
まで。この間リズム隊が長谷部徹+田中豊雪コンビから則竹裕之+須藤満に代わり、ポップス+ロック主軸路線からジャズ系リズムへの対応の間口は広がったが、リード系楽器3人は変更なく、リズム隊の交替も二人同時ではなかったので連続性があり、一つの時代(第一安定期)と言って良い。ロック系でコマーシャルな曲も多く、世のブームとあいまって一番彼等を印象付けた時期。ヒット曲「TRUTH」もここに位置する。
続く“NEW-S”からフロントマン=サックスプレイヤーがハイパーサキソフォニストこと超絶技巧師本田雅人に変更になる。これによりバンド自体がグッとジャズ寄りになり、キメフレーズの多用と厳しいテンションコードの使用などスリリングな楽曲となっていく。この体制は7年続き、第二の安定期とも呼べる。
1998年にその本田と、16年の永きにわたりバンドを支えたキーボーディスト和泉宏隆が前後してバンドを去り、1作ごとにメンツが違ったり、デビュー時のメンバーであるサックスの伊東たけしが出戻ってリーダーで唯一のオリジナルメンバーである安藤正容と2人のユニット形式になったりとメンバーや作風が安定しない混迷期を迎える。
そして現在は2005年の“PASSION FLOWER”から続く三回目の安定期に入っており、安藤と伊東というオリジナルメンバー二人を、新人類ドラマー坂東慧とプログラミング・マニピュレーティングもこなすキーボーディスト河野啓三という世代が若い二人が支える形で活動している(ベースは主に田中晋吾によるサポートで正メンバー不在)。
本作“BLUE IN RED”はその第二の安定期の最後を飾る作品。
作品のキャッチコピーは「ジャンルは無視、アイディアを駆使」だったが、結構実験的な曲が入っていたり、「TRUTH」以上のハードでヘヴィな曲が入っていたりとごった煮状態。
まず最初の「BAD BOY & GOOD GIRLS」からして既に意外。CDを再生して一番最初にきこえるのが「ぅ、うん」という咳払いのようなサンプリングヴォイス。その後リズムマシンが入ってきて、笑い声のサンプリング音が入り、ドラムスが加わるが音がメチャソリッド。曲もギターのカッティングを取り入れたリフにダブリングされた機械的な感じのサックスと今までにないパターン。Bメロはドラムレスになって不安定さを煽り、その後サビで定番の明解な「T-SQUARE節」に行くという造り。なんせこの攻めた曲が1曲目なのだ。
続く「KNIGHT'S SONG」は一転、ビートの効いたヘヴィロック。「TRUTH」以上のハードさで、疾走感溢れるチューン。どうやらこれは元は安藤のソロアルバム“Andy's”に収められた「moon over the castle」という曲で、レースゲーム「Gran Turismo」のテーマソングだったらしいが、レーススポンサーの一つAKAIの意向でメロディがギター⇒EWIに変更になったヴァージョンがT-SQUAREの曲として収録されたらしい(EWIはAKAIの製品)。基本「TRUTH」と同じく明解なロック系のハードチューンだが、本田のEWIが....速すぎるw。まるで違法チューンしてレヴリミッターを取っ払ったのかよ、というくらい速すぎる(大事なことなので2k。終盤のソロの吹きまくり方が逝っちゃってる。その前の安藤のソロに負けたくなかったのかも知れないけれどw ちなみにここでスピード感あるハモンドで参加しているのは次作でキーボーディストとして参加することになるTED NAMBAこと難波正司。
「TOOI TAIKO」は派手ではないが、この時期の良さをよくあらわしている曲。本田は超絶技巧派であるという他に、他の歴代のサックスプレイヤーと比べるとソプラノサックスの使い方が上手く、そのラインがとてもステキ。この曲も吹きまくりタイプの曲ではなく、郷愁を感じる優しい感じのラインだけれど、その中に少しだけテンションノートを紛れ込ませるのが本田の味。そして歴代T(HE)-SQUAREキーボーディストで最も「ピアノ」プレイが上手いと思われる和泉のリリカルなソロが聴ける。
他にもT(HE)-SQUARE王道の明解な曲あり、サンプリングを入れ込んでまるでループパターンのような堅いリズムの上でギターとEWIが歌う曲あり、フルートと生ギターのコンビネーションが小粋なボサチックな曲ありと幅が広い。
ただその分「アルバムとしてのカラー」は(その強烈な色使いのジャケットと反して?)希薄で、アルバムとしては印象に残りづらい感じ。ジャズ系のソロ活動への欲求が高まっていた本田と電子系楽器から脱却したかった和泉がこの作品の後脱退して、バンドはメンバーが定まらない混迷期に入っていくが、その前兆としてのとっちらかりかたが感じられる。一曲一曲は決して悪くないのだけれども。離れ行くメンバーの心がかろうじて重なっている部分をあちこちつまんで詰め込んだような印象を受ける作品です。
【収録曲】
1. BAD BOY & GOOD GIRLS
2. KNIGHT'S SONG
3. ANCHOR'S SHUFFLE
4. MAZE
5. TOOI TAIKO
6. SAMURAI METROPOLIS
7. カスバの少年
8. TRELA ALEGRE
9. FROM THE BOTTOM OF MY HEART
「KNIGHT'S SONG」
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購入金額
2,854円
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購入日
1997年頃
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購入場所
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