宇多田ヒカル。彼女の作品は全て持っているが、そういえば1st
しかご紹介していなかったな、と。1st一枚で「新時代のR&BテイストのJ-POP」というジャンルを確立した彼女、2ndの“Distance”も同様の路線で攻め、人気とジャンル内での立ち位置を不動のものにする。そのあとあまたのフォロワーが出たのは記憶に新しい。
出す曲出す曲大当たりで、強烈な光芒を放ったのでものすごくたくさんの曲をものしたように思われているが、オリジナルアルバムとしては5作しか手がけていない彼女。最後の2枚は比較的間をあけず出され、基本的に「全作詞・作曲・編曲=宇多田ヒカル」。かなり自分の思う通りに創ってあり、アーティスティック。超短い曲や童謡などもあり、最初にやって「売れる」作品ではない。
そのターニングポイントとなったのが本作、3rdの“Deep River”。この後彼女と結婚することになる紀里谷和明が撮った白黒の「濃い」写真が使われたジャケット、 全作詞・作曲を自身で手がけるのは1stからの一貫した姿勢だが、全編曲を河野圭とともに成し、打ち込み主体のこのアルバムを通してベーシックプログラム作成も担当した。楽曲も従来の路線に加えてアコースティックに振った曲やフォーキィな風情の曲などバラエティ豊かになり、ポップス一辺倒ではなくなってきている。
「traveling」。後の夫君、紀里谷和明が手がけたCGを駆使したPVが、そのサイケなセンスと伊藤有壱
のシュールなクレイアニメで話題を呼んだ曲。PVとの相乗効果で強い印象を残す。サビの♪traveling♪というコーラスとヒカルの合いの手?が1小節内で繰り返される部分は、抑揚のない節回しで、ともすればアイドルポップになってしまうようなラインだが、ヒカルの歌唱力が曲をつまらなくさせない。
アルバムタイトル曲「Deep River」。タイトルチューンのこの曲は実にアーシィなザクッとした肌触りの曲。今剛と秋山浩徳という名手の奏でるアコギ中心で、シンセサイザーのオブリとマシンのリズムが絡む。ぱっと聴きは地味だが、実に味わいがある曲。歌詞の内容も抽象的でいく通りにも解釈が出来る。♪いくつもの河を流れ/わけも聞かずに/与えられた名前とともに/全てを受け入れるなんて/しなくていいよ/私たちの痛みが今/飛び立った♪「いわゆる」ラヴソングではなく、また、言葉遊びでなく、深い。
つづく「Leters」はゴージャスな曲。ヒカルの打ったベーシックトラックに、河野のピアノ、それに絡むのはたくさんの生ギター...最初はアルペジオでポロンポロンとだが、その後大合奏に。誰がどの部分を弾いているのか詳細はわからないが、メンツ的にはChar、
鳥山雄司、
GLAYのHISASHI、秋山浩徳、Skinggこと実父=宇多田照實、本田“Larry”優一郎の超豪華6人組がかき鳴らすアコギの音が壁のように構築された曲。
アルバムの端々まで彼女の目が行き届いた作品。そのため、他人から見て「宇多田ヒカルってこうなんじゃない?」というある意味ステレオタイプな作りではなく、ヒカルのさまざまな面がカットされた宝石のようなさまざまなきらめきのように浮かんでは消えるようなつくり。
まとっていた「ポップス」の殻を打ち破り、彼女自身が見え始めた作品。このあと彼女は結婚、米国進出(厳密には再進出)など大きな転機を迎え、シングルは比較的切れ目なく届けられるも日本向けオリジナルアルバムとしては4年間の沈黙に入る。
まさに彼女にとっては敷かれたポップス路線との決別、自我の確立。走ってきたランナーが、「跳ぶ」ために身をかがめた、そんな印象を受ける作品です。
【収録曲】
1. SAKURAドロップス
2. traveling
3. 幸せになろう
4. Deep River
5. Letters
6. プレイ・ボール
7. 東京NIGHTS
8. A.S.A.P.
9. 嘘みたいなI Love You
10. FINAL DISTANCE
11. Bridge (Interlude)
12. 光
「traveling」
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購入金額
3,059円
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購入日
2002年06月頃
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購入場所
北のラブリエさん
2014/01/09
今でも結構好きで聞いてます。
mickeyさん
2014/01/10
ラブリエさんに同じく今でも聞いたりします(^^)
cybercatさん
2014/01/10
「traveling」なんかは音としては結構「当時の音」を使っているのにナゼだろう?
唯一無二なセンスが感じられるからでしょうか。