この作品に出会ったのは、随分前になりますね。
最初に購入したのは、新書版でした。
この巻と六歌仙の暗号は新書版で購入し、三巻以降は、立ち読みした上で文庫版を購入しました。
この小説では、歴史上の出来事と、現在に起きている事件に似通ったものがあったり、或いは、因習によって縛られている事で起きている事件があったり、と。
歴史を紐解く(というレベルを凌駕する、超解説)事が事件の解明に役立つ、という組み立てとなっています。
ネタバレしかないかもしれません、ご注意を。
第一巻に取り上げられた題材は、百人一首。
風雅な平安の世に編まれた文人達のアンソロジー。
と、私は、国語、古典の授業で習いました。
しかし、この本では違った解釈があります。
ガッツリネタバレしますが、百人一首は、選者の藤原定家が自ら、或いは家系を護る為に編んだ呪術結界だったという説に則って、物語が進んでいきます。
この解釈は、大胆、かつ、興味深いものになりまして、その説に対する賛否両論はあると思います。
幾つかの面白いポイントがありますが、一番大きなものは、
・百人一首とは、歌の選集の形をした曼荼羅である。
というものです。
百首の歌は、ある法則を持って選ばれており、その関連性と、それに仮託された存在を意識して並べる事によって曼荼羅となるというお話。
実際に、その可能性を研究する方も実在します。
この説に小説特有の想像力、或いは虚構を混ぜた作中の語りによると、
「定家は、百人一首と同じような歌集(4首しか違わない)百人秀歌に添えた言葉で、『傑作、名作など優れた歌などはいれていないが、これは私の心のままに選んだもので、とやかく言われるものでは無い』と言っている。つまり、百人一首と百人秀歌は定家の歌人としての集大成といわれているのに、わざと駄作を入れてますと言っているのだ」
との事。
そういう解説と共に歌を幾つか紹介されると、確かに、教科書で西行法師の最高傑作とされている歌は選ばれておらず、大したことのない歌(どうやら江戸時代に、歌の研究者もオカシイと皮肉っていたらしい)が入っている事は、不思議です。
その理由を、「個人的嗜好」「年だったので耄碌した」という見解もある中で。
この本では、「歌同士の言葉の重なり合わせに注目して並べると、模様が出来る。それが曼荼羅である」としています。
巻末にも、その全体図がありまして。
歌の関連性だけでは無くて、歌の作者の位置も考えられていて、説得力のある薀蓄が語られる訳なんです。
こういうの大好きなL2さんは、嬉々として読み進めていきました。
そこで、語られている説では、これによって作成された曼荼羅が定家が末裔に至るまで護るために作られた結界なのではないか、という事。
その解釈だけでも大好物だったのですが、その結界を作る、というお話が主人公たちが遭遇する現代での殺人事件の背景と重なってきて、何故か、歴史や古代の文献などの解説をしているだけに思える部分を読み進めていくと、事件が解明されていってしまう、という面白い構造になっています。
百人一首の曼荼羅を解明する為に、歌を並べ替える作業そのものも、重要参考人の人物が発した矛盾に満ちた発言の意味を解く手がかりとなっていて、ビックリです。
文字数以上に、情報量が多いので、合わない人もいらっしゃると思いますが、歴史解説などの本が好きな人は、リズムが合うとハマると思います。
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購入金額
800円
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購入日
不明
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購入場所
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