アイリーン・グレイ(Eileen Gray)がデザインした代表作、サイドテーブル「E-1027」。
僕はガラス素材が好きで自宅の建材や家具で採用しているのですが、お気に入りのひとつです。
ポツンと部屋の中に置かれている状態ですが、ベッドサイドが適切だと思います。
このサイドテーブルは単なる装飾的な家具ではなく、機能性と柔軟性を極限まで追求した設計によってデザインされています。このテーブルを理解する上で重要なのは、アイリーン・グレイ自身が建築と家具を一体のものとして捉えていた点です。彼女が設計したモダン建築「E-1027」(別名「ロクブリュンヌの別荘」1929年)と同じ名を持つこのテーブルは、個人の作品でありながらもコラボレーションと調和を象徴するものになっており、そのコンセプトと完全に連動し、それに合う家具としてデザインされています。
ニューヨーク近代美術館の永久コレクションに入っているのですが、構造上値段が安いこともあって、ミッドセンチュリーの愛好家たちの入門アイテムのような感じにもなっています。
ちなみに「E-1027」という名前自体も、彼女とその恋人、ジャン・バドヴィッチのイニシャルを組み合わせたもの。アルファベットの番号にして暗号化されています。
- Eileen = E
- Jean = 10 (J がアルファベット 10 番目)
- Badovici = 2 (B がアルファベット 2 番目)
- Gray = 7 (G がアルファベット 7 番目)
ガラスのチェスセットの仮置き場になってしまっていますが・・・。
ガラスとクロームの質感にシンプルなライン。それに加えて機能美となれば、建築の巨匠ル・コルビュジエが唸るのも納得のデザインです。
面白いのは、アイリーン・グレイって、自分の家ぐらいしか作品が残っていないのですよね。
デザイナーとしての才能が認められるのは、好き勝手作れる自分の作品ではなく、求められるものに対しての解答であるはずなのに、彼女は自分の好きなものしか作っていないのです。不思議。
彼女に関して語られる記録や文献も少なく、資料さえも見つけにくいのですが。
40歳を超えたあたりから家具のデザインが評価されはじめ、建築物の中に絨毯や照明といったものを配置して完成させる「インテリア」という概念を作った始祖のような人のようです。
また、僕は知らなかったのですが、若かりし時に日本人工芸家・菅原精造に従事していたんですね。日本とそんな関わりがあったなんて。こういう繋がりって、なんだか嬉しくなりますね。
■アイリーン・グレイ - Wikipedia
さて、このアイリーン・グレイのサイドテーブル「E-1027」。
コップを置く際にガラス面にカツンカツン音がするので、少し気を使います。
それ以外は、テーブル面と足場の間にある空間を使った配置ができ、ベッドやソファに引き寄せて使う上にバランスも良いので使い勝手がいいです。
造形も女性的な繊細さがあり、シンプルな美しさがありますね。
値段も1万円程度なので、部屋に気軽に置いて楽しむことができていいですね!
透明なガラス天板は軽やかな視覚効果があります。空間に圧迫感を与えず、どんなインテリアにも溶け込みます。汚れが拭き取りやすいという実用性もあり、耐久性のある強化ガラスが使われています。
片持ち構造で足元のスペースを確保し、ソファやベッドの下に差し込めるカンチレバー構造。
クロムメッキ塗装仕上げで錆びにくく、耐久性もあります。安価なものを購入するとメッキが剥がれやすいかも。
パイプフレームは細すぎると華奢で安定感に欠け、太すぎるとデザインの軽やかさが損なわれるのですが、バランスが良く部屋が広く見えます。
見た目の美しさだけでなく、構造・機能・素材のバランスが絶妙なテーブルだと思います。
ちなみに梱包ですが、こんな感じ。
ガラスを守るためなのか木箱の中に収まっているので、家に持ち込んだ時にはこの木箱を前に途方にくれました。
破いて開けられるのは木枠以外の段ボール部分だけ。
木枠が頑丈に組まれ、でっかいホットキスみたいなので固定されてる。
これ、家庭にある道具じゃ分解するの無理じゃね?
・・・。
・・・・・・。
強引にいった~~!!
っていうか、この最後に残った木枠はどうやって捨てたらいいんだろう?
ちなみに、テーブルのパーツは分解されtこんな感じに箱の中に入っていました(引っ張り出しました)。
組み立ては 30 分もかからずできました。女性でも安心。
日本と欧米のデザインの違い
アイリーン・グレイの製品の素晴らしさについて語るには、彼女の「デザイン」について知ってもらう必要があります。
海外では、デザイナーがエンジニアと対等な立場で製品開発に関与するのですが、日本では「デザイナー=見た目を作る人」という認識が根強いようです。
日本で「デザイン」という言葉が「外見や装飾」という意味に偏って理解されるようになった背景には、歴史的な経緯や言葉の導入時の影響が関係しています。
「デザイン(design)」は、元々はラテン語の「designare(設計する、計画する)」に由来し、英語では「計画」「設計」「意図」といった意味を含みます。しかし、日本にこの概念が輸入される過程で、意味が変化していきました。
明治時代(19世紀後半~)
- 西洋の工業技術や美術が流入する中で、「デザイン」は 装飾美術(装飾を施すこと) として理解されるようになった。
- 「図案」や「意匠」といった言葉が使われ、見た目の美しさを重視する傾向が強まった。
戦後(1945年以降)
- 工業製品の大量生産が始まり、製品の外観やパッケージのデザインが重視されるようになった。
- 「デザイン」は「グラフィックデザイン」「ファッションデザイン」などの視覚的な分野での使用が広がり、一般の人々にとっては「デザイン=見た目」として定着。
日本の伝統文化の中で、「意匠(いしょう)」という概念は古くから存在しましたが、それは主に「装飾的な要素」に焦点が当てられていました。
- 工芸や建築:日本の伝統工芸や建築では、「形の美しさ」や「装飾」が重視されていた。
- 着物文化:着物のデザインは柄や色の組み合わせが中心で、「機能的な設計」というより「視覚的な美」が重視されていた。
このような背景から、「デザイン」と聞くと「装飾的なもの」というイメージが先行しやすくなったのです。また、日本のデザイン教育では、特に戦後の学校教育において「デザイン=アート」という側面が強調されました。
- 美術教育では「デザイン」という言葉が「色や形を工夫して美しくすること」として教えられることが多い。
- 一方、欧米では「デザイン思考(Design Thinking)」が強調され、問題解決の手段としてデザインを捉える教育が根付いている。
そして、
- 日本の企業では長らく「デザイン部門」が「外観を決める部署」として扱われ、工学設計とは別の領域とされていた。
- 西洋では「インダストリアルデザイン(工業デザイン)」が「製品の設計全体」に関わるのに対し、日本では「工業デザイン=製品の見た目」と誤解されがちだった。
これが「デザイン=見た目を整えること」という認識を一般に広めた要因の一つです。
欧米の「デザイン」との違い
僕は海外支社への長期出張でデザイン統括をしていたのですが、日本のデザイナーは美術・芸術系の学校を卒業しますが、海外のデザイナーは分野にもよりますが 理系の大学を卒業することが多く、工学的な学問を学ぶケースが多いようでした。特にプロダクトデザイン(工業デザイン)や UX デザイン などの分野では、工学や数学、物理学といった理系の知識が必須とされています。
欧米では「デザイン」は以下のような意味を持ちます。
- エンジニアリングと一体化:「デザイン=設計」なので、内部構造の設計や機能性を含む。
- UX/UIデザイン:使いやすさや体験設計も「デザイン」として考えられる。
- デザイン思考:問題解決の手段としてのデザインが広く認識されている。
一方、日本ではこれらの概念が浸透するのが遅れ、「デザイン=ビジュアル」と誤解される傾向が続いています。
近年では「デザイン思考(Design Thinking)」や「UX/UIデザイン」の普及により、「デザイン=設計」という概念が少しずつ浸透しています。ただし、長年の文化的な背景があるため、日本における「デザイン観」の変化には時間がかかるかもしれません。
このような歴史的な経緯を知ると、日本と欧米の「デザイン」の認識の違いがよくわかりますね。
モダニズムの機能主義と、アール・デコの繊細な美学
「E-1027」の最も特徴的な要素は、高さ調整が可能な支柱構造です。これは、単なるスタイルの追求ではなく、ユーザーの利便性を最優先した設計思想の表れです。
この機能により、ソファやベッドサイドなど、さまざまなシチュエーションで活躍する可変性を持たせています。高さを変えることで、食事をするためのトレイとしても、作業用の補助テーブルとしても機能します。
また最小限の部品で最大限の機能を実現する素晴らしい構造美にも唸らされます。円形のガラス天板とスチールパイプのフレームという非常にシンプルな要素だけで構成されています。しかし、この単純な構成が動的な使い方を可能にする機能美を生んでいます。
スチールパイプを曲げることで、脚部が片持ち構造(カンチレバー)になっており、ベース部分が邪魔にならず、ソファやベッドの下に滑り込ませることができます。ミース・ファン・デル・ローエの「バルセロナチェア」や、マルセル・ブロイヤーの「ワシリーチェア」に見られるスチールチューブの構造美と同様に、アイリーン・グレイも素材の持つ強度としなやかさを最大限活用しているのです。
アイリーン・グレイのデザインは、単なる機能主義にとどまらず、アール・デコのエレガンスも併せ持つ点が特徴です。
たとえば、天板のクリアガラスは空間に軽やかさを生み、スチールのフレームは細身ながらも視覚的なリズムを与えています。このように、装飾的な要素を削ぎ落としつつも、洗練されたシルエットが生まれているのは、アイリーン・グレイが持つ構造と美しさのバランス感覚の賜物でしょう。
彼女は「E-1027」という建築を設計する際に、その空間の中でどのように人が動き、どのように家具が機能するべきかを徹底的に考えました。つまり、このサイドテーブルは、単なる独立した家具ではなく、建築と調和する一部として生まれたものです。
このテーブルは、現代においても機能的で美しいデザインの象徴として、多くのデザイナーに影響を与え続けています。特に、「調整可能」「シンプルな構造」「用途の柔軟性」という考え方は、現代のミニマルデザインや、ユーザー中心設計(UCD:User-Centered Design)の先駆けとも言えるでしょう。
デザインは、見た目の美しさだけではなく、どれだけ生活の中で役に立つかが重要である——この「E-1027」は、その哲学を体現した名作なのです。
上の項目でデザイン=構造設計や機能設計と書きましたが、自分がそのように感じるタイプならば、「E-1027」はまさにその理想形でしょう。このテーブルは、構造そのものがデザインであり、使い方に応じて変化するインタラクティブな存在です。
アイリーン・グレイは、1920年代という時代において、デザインを固定的なものではなく、流動的で、環境や人間の行動とともに変化するものとして捉えたと言えます。これは、現代のフレキシブルなインテリアデザインにも通じる、非常に先進的な考え方です。
このように考えると、「E-1027」はただのモダンデザインの名作ではなく、デザインの本質を問い直す革新的な作品であることが分かるでしょう。
見た目ほど複雑ではない
ガラス天板はサッと拭くだけで汚れが拭き取りやすく、スチールフレームも錆びにくい仕上げが施されているため、手入れが簡単で長く美しさを保てます。
シンプルな構造でホコリが溜まりにくいので、手入れが簡単です。
リスペクトを忘れずに
決して安価ではないと思いますが、時代を超えて愛される機能美と耐久性を考えれば、一生モノの価値があると思います。
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購入金額
17,500円
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購入日
2015年05月23日
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購入場所
インテリアショップ
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