レビューメディア「ジグソー」

各曲のブレ幅が少なくて、アルバム全体としての印象が濃い

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。アーティストがリリースするアルバム。コンセプトアルバムのように、そのアルバムのために曲を創り、配置したものは別として、ある期間の活動実績として出される作品の場合、アルバム全体とて統一感が薄い場合があります。しかし、シングルやタイアップ曲も含めて、各曲の色合いや肌触り?が似ていて統一感があるアルバムもあります。全曲の制作体制が統一されており、アーティストの活動範囲の影響もあり、コンセプトアルバムではないのに、アルバム全体の印象がまとまっている作品をご紹介します。

 

久保田利伸。J-POP...当時「歌謡曲」「流行歌」と呼ばれていた日本のポッフス界に、ブラックミュージックのカラーやダンスミュージックを根付かせた重要なプレイヤー。2023年現在も現役だが、特に20世紀末はヒットを連発した。シングルはチャート1位こそ“LA・LA・LA LOVE SONG”だけだが、一桁前半の常連だったし、アルバムは複数回チャートトップを得ている。そんな彼は、演っていた音楽のジャンル的にも、アメリカ指向だったので、1990年代中盤からは、TOSHI KUBOTA名義でアメリカでも活動した。それに従って徐々にアルバムの大半を占める彼の音楽を追求した楽曲と、タイアップなどで依頼されて制作した「とっつきやすい」ポップスとが一つの作品で雑居している印象を受ける作品もある。

 

しかし、ちょうどアメリカ挑戦期間?(1995年~2004年)の中間に位置している本作“As One”は、後述するように楽曲の制作手法が統一されているのもあって、アルバム内の楽曲の印象がばらけない作品となっている。

 

タイトル曲「As One」。微ハネの淡々としたグルーヴ、そこに微妙な緩急とうねりを持ったヴォーカルで味をつける久保田。このアルバム、全曲通して、“Groove programming & Keyboards”が久保田で、“Main Keyboards”に、Maze

にも参加していたPhilip Wooか、盟友柿崎洋一郎のどちらかが入っているという構成(+さらに各曲にギターやベース、ドラムスなどにアディショナルプレイヤーがいる)。この曲はPhilip Wooの担当?だが、激しないCOOLなグルーヴがいい。途中のラップはPrimal Screamの名ヴォーカリストの故Denise Johnson。全体通してワンコード展開など起伏が大きくない淡々としている楽曲なのに、久保田の声の魅力で押し切る感じの楽曲。

 

My Heart, Homeless Heart」は、“Main Keyboards”は柿崎担当。久保田のベーシックトラックに柿崎のキーボード、Jeff Mironovのギターで形作られる静かに進む夜のような曲。♪Sabon, Sabon...(サボン、サボン、サボン...)♪と寄せては返す波のように、微妙な強弱でバックコーラスを重ねる久保田。その♪Sabon♪部分とタイトルでもある♪My Heart, Homeless Heart♪という歌詞以外は基本日本語詞なのだが、かなり記号的な感じで、流れるビートに溶け込んでいる。またこの曲では軽くオーヴァードライヴしただけのJeffのギターの装飾がキモ。オトナのグルーヴ。

 

TVドラマの主題歌でもあった「the Sound of Carnival」も久保田+柿崎組。ここでもギター(こちらはアコギ)がいい味出しているが、弾いているのがハードロックギタリストのTristan Avakianというのが意外。♪Bye Bye yesterday♪で始まる「夜」の感じがどうにもステキ。

 

久保田はこの時期、他にもアメリカ向け作品の制作という発散?する場所があったせいか(同年に米国向けアルバム“Nothing But Your Love”を、TOSHI KUBOTA名義で上梓している)、それとも米国在住で音楽に集中できたことで、久保田の創ったベーシックトラックの比率が大きいのか、この作品はまとまりがよい。ほとんどの曲が淡々と流れるリズムに、久保田の表情豊かな心地よいヴォーカルが載っているタイプで、絶叫系や超打ち込みダンス系などの曲はないにもかかわらず、印象に強く残る。

 

全体として、静かなグルーヴというのが、「夜」を感じさせる作品です。

この時期、外見も結構「クロい」なぁ...
この時期、外見も結構「クロい」なぁ...

 

【収録曲】

1. Introduction
2. As One
3. Bossa Groove
4. My Heart, Homeless Heart
5. His Sugar
6. Always Remain
7. Interlude
8. 毎度オブリガート
9. Let's Make One Shadow
10. the Sound of Carnival
11. Party People In The Planet
12. Shooting Star
13. ポリ リズム

 

「As One」

更新: 2023/06/28
必聴度

大ヒット曲、というのはないが、アルバム通してのカラーが強い。

最近のダウンロード販売の細切れだと味わえない、「アルバムのカラー」を感じて欲しい作品。

  • 購入金額

    3,059円

  • 購入日

    2000年頃

  • 購入場所

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