所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。楽曲がダウンロード販売が多勢になり、さらにサブスクも多くなってきたことから、音楽業界に関して、モノが売れない時代と言われるようになって久しいですが、それでもモノの販売数は「売れているか否か」の大きな指標ですし、モノには様々な物理的付加価値をつけたりすることもできます。CDという今ではやや時代遅れになりつつあるフォーマットに、そこに収められた楽曲のストーリーを加えて、商品としての魅力を高めた作品をご紹介します。
YOASOBI。コンポーザーのAyaseと、ヴォーカリストのikura(幾田りら)からなる、もはや説明の必要がないほど名の売れた、音楽ユニット。彼らの特徴は、小説/イラスト投稿サイトに投稿された小説に、曲をつけるというコンセプトで結成されたユニットのため、歌詞に物語性があり、また曲調(ジャンル)も広めという点。
以前彼らのファンクラブ限定CD
をご紹介したが、それに含まれる「怪物」と「優しい彗星」が収録された、彼らの2ndオリジナルアルバムが“THE BOOK 2”。
1stアルバム“THE BOOK”
と同様、バインダースタイルの外装を持ち、それぞれの曲の歌詞やクレジットに加えて、元となった作品も載せられている。当然歌詞とは微妙に内容が違うが、曲を聴き、歌詞を理解しつつ、小説を読むと、その小説にインスパイアされていることは明確で、曲と小説の両方を楽しめる造りとなっている。
「三原色」は、小御門優一郎の「RGB」が元小説。幼い頃の3人組の再会が描かれる。子供の頃に一緒に遊んだ幼なじみの3人、ひとりだけ女性のGに対するRとBのかつての気持ちや、再会時の互いの状態、過ぎた時などが語られる..結びの言葉は「また、明日」。曲は、スリーツーの手拍子にフラメンコチックなアコギの旋律で始まる熱量の高い曲で、♪どこかで途切れた物語♪と歌い出されるドラマチックなもの。原則的に彼らの曲はAyaseがほぼ全てのサウンドトラックを創り、ikuraが曲によってはコーラスも含めて歌う形式だが、打ち込みではニュアンスの再現が難しいギターだけが(必要な場合)プレイヤーが加わる、という形。このアルバムではギターはAssHが務めている。それに加えて、この「三原色」では、「YOASOBIバンド」と呼ばれるツアーサポートメンバーがコーラスを担当している(ギター:AssH、ベース:やまもとひかる、キーボード:ミツハギザクロ、ドラムス:仄雲)。以前ご紹介したベースのひかるちゃん、
この作品ではベースプレイはまだ聴けないが、先に声が円盤デビュー?
「大正浪漫」は、ラテン系のリズムだが、メロディと音構成は妙にノスタルジックで、正統派歌謡曲の風合い。ikuraも哀愁を込めつつ若干こぶし風のうねりも加えて、昭和アイドルのような歌い方。そこをAyaseお得意の駆け回るシーケンスパータンで彩り、「古い」感じを払拭している。原作小説は、NATSUMIの「大正ロマンス」で、手紙の内容をそのままという導入に続き、小説本文?は「数か月前から僕は大正時代に生きる女の子と手紙のやりとりをしている。」という書き出しで始まる、2023年に住む男性と、1923年に住む女性の恋愛未満の淡い交流の物語。これは大正12年(1923年)にあった出来事を絡めて、時を超える結末になっている原作小説も、とてもとても良かった。曲だけ聴いて⇒小説読んで⇒MV観るという順序で曲に向き合うと、感動が倍増するかな。
淡々とした激さないマシン然としたリズムに、ピアノとストリングスとが載るバックトラック「もしも命が描けたら」は、小説インスパイアではなくて、放送作家鈴木おさむが制作と演出を務めた、田中圭主演の舞台“もしも命が描けたら”のテーマソングとして書き下ろされたもの。ikuraが死について書かれた詞を淡々と歌うが、B♭m⇒Bmと転調するラスサビでは逆説的に生を語っているようにも思える。この歌詞については、多くの考察サイトがある深いものなので、ぜひいろいろと考えてみて欲しい。
さすが8曲全曲タイアップ(TVテーマ4、舞台テーマ1、ラジオ関係1、CMソング1、Web企画1)というオバケアルバムだけあって、「つまらない」曲はない高レベルな仕上がり。
また、原作小説などインスパイア元とともに物理CDを提供するというのは、ダウンロード販売やサブスクが多くなって「モノが売れない」時代にモノを売る手法としては、非常に良い手だと思う(価格的には一般的なCD1枚モノの価格より高いが、この内容なら納得できる←収納時に場所をとる、という欠点はあるが)。
バインダースタイルのCD(単体写真ではわかりづらいが、結構大きい)
CDは最終ページに収められる(実際にはさらに不織布スリーブに入っている)
ただ、各曲に合わせた「扉絵」=バインダー用オリジナルインデックスが、複数の販売店舗ごとの特典となっていて、通常の購入の仕方をした場合1枚しか入手できず、全部そろえるために多数買わせるような販売手法は、一部のアイドルの握手券商法みたいで、ちょっと...。実際、この作品の発売直後は、オークションやフリマサイトで、オリジナルインデックスだけ抜き取られたアルバム本体が安く出回ったり、逆にすべてのオリジナルインデックスだけ集めた超高額の出品があったりと、あまり感心できなかった。
購入店(SONY MUSIC SHOP)のオリジナルインデックスは「大正浪漫」
オリジナルインデックスに関して、特定のものを販促物として店舗特典にして、それ以外のものを別に販売すれば良心的かな、と。ま、それじゃ、販売枚数のブーストにはならないか....
その点だけ引っかかるところがあるものの、楽曲はもちろん、付属品を含めた商品企画内容としては、さすが、と言える作品です。
【収録曲】
1. ツバメ(YOASOBI with ミドリ-ズ)
2. 三原色
3. 大正浪漫
4. もう少しだけ
5. 優しい彗星
6. 怪物
7. もしも命が描けたら
8. ラブレター
※販売店オリジナル特典:特製バインダー用オリジナルインデックス(「大正浪漫」MV ver.)
「大正浪漫」
さすが売れっ子、つまらない曲はない
この“THE BOOK 2”は、全曲タイアップというほど完成度が高い作品で、つまらない曲はない。ただ、原作小説があるという点が、若干「サントラ」的制作法になっているのか、曲によるジャンルの幅が比較的広い。このため、「この曲は大好きだけど、こちらの曲は...」という状態になる可能性はある。
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購入金額
4,950円
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購入日
2021年11月12日
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購入場所
SONY MUSIC SHOP
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