レビューメディア「ジグソー」

ライナーにうんうんと頷く、それも「アルバム」の聴き方の醍醐味

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。コンピレーションアルバム。なにか特定のテーマに沿って、編まれるアルバムで、場合によっては複数のアーティストの曲が一つの作品に収められたりします。単一アーティスト(グループ)のものであっても、いわゆる普通の「ベストアルバム」と異なるのは、そのテーマ性。そのテーマをどう定め、それに沿って曲をどう配置するかという点にポイントがあることです。渋谷系という、世紀末に一大ブームを巻き起こした音楽トレンドの中心にいた人物が、編んだコンピレーションアルバムをご紹介します。

 

橋本徹(SUBURBIA)。元講談社編集者で、かつて若者に人気だった「ホットドッグ・プレス」などの編集を行い、独立後は深い音楽的造詣を活かしてタワーレコードのフリーマガジン“bounce”の編集長を務めたり、音楽と喫茶が楽しめるカフェやセレクトショップの企画運営を行っている。その橋本のライフワーク的な活動が、「フリー・ソウル」ブランドとしてのソウルの名盤の紹介と、コンピレーショアルバム“free soul”の編纂。

 

自らDJとなって、良質な音楽を紹介する活動もしている橋本は、「フリー・ソウル」というブランド?でソウルの隠れた名盤の紹介をしており、これにUniversal Musicが連動して、旧譜の(限定)再リリースを行っている。さらに、得意のソウル系ジャンルの楽曲から選曲し、コンピレーショアルバムもリリースしている。このコンピレーショアルバムシリーズは“free soul”と名付けられ、「橋本セレクト」の良質なコンピレーショアルバムとして人気を得ている。そういう意味では、分野は違うが、伝説的なジャズ喫茶のマスター業の傍ら、永くジャズの良質なコンピレーショアルバム

を編んだ寺島靖国氏と通じるものがあるかも知れない。

 

そんな橋本は、日本のアーティストを手がけることもある。その場合、コンピレーション、と言ってもある主題に従って、多数のアーティストの楽曲からのセレクト...という一般的なコンピアルバムとは違い、あるアーティスト(グループ)にフォーカスして、その「アーティスト像が切り取れる」作品を集めたものになっている。

 

このタイプには、Original Love(田島貴男)の「渋谷系」楽曲を集めた、“FREE SOUL ORIGINAL LOVE 90s”があるが、それに続いたのが、スガシカオにフォーカスした2018年リリースの“free soul Suga Shikao”。

 

2ndシングルから23rdシングル(のカップリング曲)まで、スガシカオの「最初の10年」にフォーカスして、レーベルにはこだわらず編まれている。

 

「ベスト」という側面もあるため、どうしてもシングル曲は多くなるが(35曲中13曲)、ライヴ音源を採用しているなど新鮮だし、シングルカップリングやアルバムにしか収められていない曲も多く、橋本がスガの作品を非常に良く聴き込んで編纂しているのが感じられる。

 

シングルタイトル曲ではない曲から印象的なものを...

 

夕立ち」。ライナーでも「スガのひとつの到達点と言える名曲(以上引用抜粋)」と高く評価される、3rdアルバム“Sweet”

に収録の曲。ただ、シングルカットはされなかったものの、映画およびテレビシリーズの「ブギーポップは笑わない」のテーマ曲となっている。スローグルーヴで、激してはいないけれど、クラビを中心とした音造りと、メロウなコード進行、そして時々入る帯域カットの音響効果による閉塞感...独特な世界観とどこにもないグルーヴを持つ曲で、初期の傑作曲と推すファンが多いのも頷ける。

 

ブラックでファンキィなノリが前世紀のソウルやディスコと言った風情なのが、6thアルバム収録の「カラッポ」。この曲ではスガがベースを弾き、ドラムスは気心が知れた沼澤尚。二人の奏でるザクっとしたリズムに、オルガン音色を中心としたキーボードで彩りをつけるのは、スガの初期ブレーン、森俊之。これにスガのギターや森のプログラミングが乗って独特のイロクなサウンドとなっている。

 

ラストの2曲はライヴ音源で初期のシングル表題曲。橋本によると「等身大のいちソウルマンとしてのスガ シカオの魅力」を伝えるための「フラッシュバック」のようなものということなので(「」内は橋本のインタビューから抜粋引用)、実質的な最後の曲が「アーケード」。これはかなりレアかつ、ファンの中では評価が高いという「判っている」曲を持ってきた。ファンキィでダンサブルなのも、エロくて陰湿なのも、絶望するほど内向的なのもスガの世界の一面だが、倦怠感が漂う諦観というような世界もある。それがこの曲にはよく表れている。決して激しておらず、淡々とした、言葉を置くような歌い方で、♪夏のぬるい空気と風の中に/ぼくらは未来を見つけた♪と歌う。

 

スガには今まで、“ALL SINGLES BEST”、“BEST HIT!! SUGA SHIKAO -1997〜2002-”、“BEST HIT!! SUGA SHIKAO -2003〜2011-”、“THE BEST -1997〜2011-”というベストアルバムがあるが、それらの「代表曲を繋いだ」というのとはまた違う味わいがあるセレクト。

 

単なる「ベスト」ではなく、橋本氏のアルバム編纂者としての想いが感じられるのが、味わい深いコンピレーションアルバム。ぜひ、「曲順通り通して」聴いてもらいたい作品です。

他者編纂のコンピアルバムなので、新規の写真などはないが、びっしりと書かれたライナーこそがポイント
他者編纂のコンピアルバムなので、写真などは乏しいが、びっしりと書かれたライナーこそポイント

 

【収録曲】

<DISC 1>

1. 黄金の月
2. 光の川
3. June
4. 8月のセレナーデ
5. 愛について
6. グッド・バイ
7. 夕立ち
8. Progress / kōkua
9. ホームにて
10. 夏祭り
11. ひとりごと
12. サナギ<theme from xxxHOLiC the movie>
13. カラッポ
14. 前人未到のハイジャンプ
15. オバケエントツ
16. 夜空ノムコウ(Live)
17. 夏陰~なつかげ~

<DISC 2>

1. 夜明けまえ(Live)
2. 海賊と黒い海
3. 青空
4. SPIRIT
5. ストーリー
6. 1/3000ピース
7. ぬれた靴
8. サヨナラ
9. 秘密
10. AFFAIR
11. たとえば朝のバス停で
12. 木曜日、見舞いにいく
13. ココニイルコト
14. ふたりのかげ
15. 月とナイフ
16. アーケード
17. 愛について(Live)
18. 黄金の月(Live)

 

「アーケード」

 

橋本徹が語る、スガ シカオとFree Soulの共通点 「どちらもある種オルタナティブな存在だった」

更新: 2023/03/31
必聴度

選曲者の選ぶ曲が、「良く聴き込んでいるな」と感じさせる

橋本はこのコンピレーションアルバムを編むにあたって、どういうコンセプトを持って曲に向き合い、順序を決めたか、ということをライナーに書いているが、各曲の詳説を書いているのが、waltzanovaこと現在のタワーレコードのフリーマガジン“bounce”にも寄稿するライター、ホリイマサアキというのが、ニヤリとさせられる。

  • 購入金額

    2,838円

  • 購入日

    2023年02月24日

  • 購入場所

    Amazon

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