レビューメディア「ジグソー」

まだ荒いが、どブルースにジャズフィーリングのきらめきがあり、Robben Fordのルーツが感じられる。

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。アーティストのルーツ。最近では日本でも、動画投稿サイトなどの環境が整備されたので、あるアーティストやグループのデビュー前や、直後の楽曲やライヴに触れることが出来るようになってきましたが、以前はそのようなデビュー前~デビュー直後のレア音源は、アーティストがある程度売れた後に、遡ってマイナーレーベルからリリースされるケースがほとんどでした。そのような経緯で世に出た、スタジオミュージシャン~フュージョンギタリストとして名をなしたアーティストの、最初期の音源をご紹介します。

 

Robben Ford、ギタリスト。スタジオワークも多くこなした彼は、どのタイプの楽曲で出逢ったかによって、人によつてどんなギタリストかという印象が異なるかも知れない。

 

一番彼の名が日本で取り上げられたのは、フュージョンブーム華やかなりしころ、Yellowjacketsという西海岸を拠点とするバンドがあったのだが、そのギタリストとして。...というか、そもそもYellowjacketsが、Robbenのソロアルバム“The Inside Story(邦題:ギターに愛を)”を製作するときに集まったスタジオミュージシャンによって組まれたもので、キーボードRussell Ferrante、ベースJimmy Haslip、ドラムスRicky Lawsonという、ソロアルバムレコーディング時のメンツをオリジナルメンバーとするバンドだった。

 

しかし、きっかけの?Robbenが最も早く抜け、続いてRickyも抜け、バンドはくRusselとJimmyを核にメンバーを入れ替えて運営していたが、10年ほど前にJimmyが去り、今では名実ともに「Russelのバンド」となっている老舗バンド。このYellowjacketsの印象からは、フュージョン~スムースジャズ系ギタリストの印象を受けるかも知れない(実はRobben在籍時にはスムースジャズ色はほとんどなかったが)。

 

その前のスタジオワークをよくやっていた時代に彼を識った場合は、ちょうど時代的にAORのバックで粋なギターワークを聴かせるミュージシャンというイメージがあるかも知れない。特に幻の名盤として評価の高い、音楽プロデューサー松井和の企画盤“Standing On The Outside(邦題:ホイールズ・オブ・ラブ)”

で識った場合は、その傾向が強いかも。

 

Yellowjacketsの後に組んだ、彼のバンド=Robben Ford & The Blue Lineでは「新世代ブルース」とでも言うような、垢抜けたブルースを演るようになり、この時期の露出も多かったので、ブルースをオシャレに弾きこなすギタリストと言う印象を持っている人も多いか。

 

その後は、同じブルースフィーリングを持つLarry Carltonとライヴをしたり、スタジオミュージシャンとして「至高」とも言われる評価を受けているギタリスト、Michael Landauと活動したりと、人脈を活かして、ブルースフィールドを軸にしつつも、ちょっとスパイスが効いた作品をリリースし続けている。

 

そんな彼の最初期の音源が、“Discovering the Blues”。

 

これは完全にブルースアルバム。一曲オリジナルがあるが、あとはB.B.KingやBuddy Guyなどのブルースレジェンドのスタンダードを演っている。ライヴ収録で、LAにあるThe Ash GroveとThe Golden Bearで収録されたもの。

 

メンツはRobbenと、キーボードがPaul Nagle、ベースがStan Poplin、ドラムスがJim Baum。Robben以外はその後の活動が追えないので、プレイはこの盤でしか聴いたことがないが、ライヴらしいうねりのあるセッションとなっている。

 

ゆったりとしたB.B. Kingの「Sweet Sixteen」でライヴは始まる。Robbenが歌いつつ、ギターを奏でる王道ブルース。この曲のRobbenのヴォーカルはシャウト気味で、後の作品で聴かれるような抜き目で歌った甘い感じがなくてちょっとザンネンだが、ギターは弾きまくりのソロが楽しめる。中間部ソロでは、ディストーションギターで弾き倒した後、音量を絞り、スピードも若干落として、オーヴァードライヴ程度の歪みに落として、語るように弾くのが印象的。その後のPaulのキーボードソロの部分もそれを受けてのスローで抑えめの導入から、徐々に盛り上げて行くのがドラマチック。ソロ廻しで落ちたスピードが、歌に戻っても元に戻らないのは、ご愛敬というより、ドンカマ(定速クリック)なしのライヴならではの感情のうねりと捉えたい。

 

泣きのRobbenのギターから入り、彼自身のヴォーカルを補うように入るギターのオブリガードが印象的な「It's My Own Fault」は、B.B. Kingも取り上げたJohn Lee Hookerの名曲。この曲の聴き所は、RobbenとPaulのソロバトル。Robbenがパワー一辺倒ではなく、強く歪んだディストーションギターと音量を絞ったクリーンにほど近いメロウな音の振れ幅で語る。おそらく、ギター側のヴォリューム調整で、アンプをオーヴァードライヴさせたのが中心と思われる暖かい歪みが、音のダイナミクスレンジに従って乗る。それを迎え撃つPaulののRhodesも、Dyno My Piano調のクリップ気味の強い音から、レスリーのような(機材紹介がないのでレスリーそのものかは不明)揺れる美しい音まで幅広い音色で表現力豊か。

 

4曲目の「You Don't Know What Love Is」はDon RayeとGene de Paulの筆になる曲で、Chet Bakerが歌った曲だが、これをRobbenはインスト化アレンジ。このアレンジにはジャズテイストが入っていて、そのセンスはさすがRobbenと思うのだが、この曲で彼が演奏しているのは、なんとサックス!しかも結構上手い。さすがに、後半の速吹き?の部分の音の切替と運指の連動のあたりは、「本職」と比べると聴き劣りする部分もあるものの、「片手間」レベルではない感じ。Robbenは音楽一家で育ったようだが、こういうところにその片鱗が出ているのだろうか。

 

この作品、リリースは1997年なのだが、録音自体は1972年で、彼が20歳のころの演奏。今では芸歴半世紀にもなる彼の最初期の音源(彼の「プロギタリスト」としての活動は18歳から)。

 

この後の彼は、著名ブルースヴォーカリストJimmy Witherspoonとの共演を経たのち、スタジオワークに入っていき、AOR~フュージョン系の活動で名が売れるが、今世紀に入ってからは、またブルースフィールドに戻って活動をしている。

 

そんなジャンルを渡ってきた彼の、originが感じられる作品です。

若き日のRobben
若き日のRobben

 

【収録曲】

1. Sweet Sixteen
2. You Drive A Hard Bargain
3. It's My Own Fault
4. You Don't Know What Love Is
5. My Time After Awhile
6. Raining In My Heart
7. Blue & Lonesome

 

「Sweet Sixteen」

更新: 2022/09/28
必聴度

Robben好きならニヤリとするフレーズが所々に....

演奏そのものは若干粗いものの、若さで押す速弾きがあったり、後のジャズ系のプレイのテイストを感じる音選びもあったりして、Robbenのファンなら押さえておくべきか。録音に関しては、ライヴ盤で古めの録音なわりには良いが、音量が小さい部分はオーディエンスノイズが大きすぎたり、ベードラがミュートし過ぎでぺたぺたした音だったりと、さほどに素晴らしいわけではないのだが。

  • 購入金額

    2,000円

  • 購入日

    1997年頃

  • 購入場所

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