ヒューレット・パッカードから発売されていた電卓です。用途別に全部で5機種発売され、HP 12C(金融電卓)を残して生産終了したVoyagerシリーズの1機種で、HP 16Cはコンピュータプログラマ向けとなっています。コンピュータプログラマ向けということで需要が限られてくるためか、似たような電卓は他にありません。
私はプログラミングの心得があり、16進数を扱うこともあるので、手元にそういう機能のある関数電卓があると便利です。これまではWP 34Sの整数演算機能を使っていましたが、やっぱり餅は餅屋だよなということでHP 16Cがあればと予てから思っていましたが、今回ついに入手することができました。
電池はLR44ボタン電池を3個直列で使います。VoyagerシリーズのオリジナルはLR44を3つ使うのですが、12Cは後にCR2032を使用するようになっています。15C Limited Edition も CR2032 です。
今の基準からすれば速くはないが
80年代の機種なので、今の基準からすれば速くはありません。[BSP]キーの連打がやや効きづらく、少しもっさりした感じがあります。それでもソ連製と違って数値入力までもっさりしているということはなく、実用上十分です。
興味深いのは、HP 15C にも搭載されなかった剰余機能が搭載されている (RMD = ReMainDer) ことです。剰余の符号は被除数に依存します。これはC99の仕様と同じですが、個人的にしっくり来ません。なお、剰余機能は実数モードでは使えません。
HP 16cの整数演算機能の特徴として、ワード長を1~64ビットで任意に設定でき、符号の表現を1の補数、2の補数、符号なしから選ぶことができます。64ビットまで対応しているため、今でも十分通用します。これに対して、後から発売された42Sや35sは36ビット・2の補数で固定になっている上、35sに至っては10進以外の基数での入力がしづらい「とってつけたような」ものになっています。WP 34Sが基本的にHP 42Sを手本にしているのに対し(但しハードウェアの都合でソフトキーがない)、整数演算機能はHP 16Cを手本にしているのはこういった点にも理由があるのでしょう。
一応実数モードも使用できますが、四則計算以外は平方根と逆数くらいです。このうち逆数は実数モード専用です。また、実数モードにするとワード長が56ビットになります。内部表現がそうなっているのだと思われます。
専用設計だからこその使いやすさ
後のHP 42Sなどにもプログラマ向けの整数演算機能がありますが、ビット演算機能や16進入力用のA~Fが裏にあったりメニューから選択しなければならなかったりと使い勝手にやや劣ります。一方、HP 16Cは専用に設計されているため16進入力用のA~F(プログラムのラベルにも使う)、HEX/DEC/OCT/BINが表に出ているという特徴があります。
ビット演算はXOR、AND、NOT、ORが用意され、[f]キーを押してから四則演算のキーを押すことで使用できます。キーの数からいって裏になっているのは仕方ないとしても、HP 42Sの場合は[SHIFT][BASE][LOGIC](42Sのシフトキーはオレンジ色一色に塗られている)のメニューを開けてようやく使用できますし、HP PrimeとかだといちいちANDとか入力することになります(しかも16進数を入力するのにも一苦労で「専門外やで!」と言われている感じがします)。それと比べ 16C はいつでも簡単にビット演算が使えます。ビット演算に限って言えば、WP 34Sも[h]キーですぐにアクセスできます。
ビットシフトは算術シフトと論理シフト、ビットローテーションはキャリー付きとキャリーなしが別々に用意されています。これも、[f]か[g]を押せば使えるので使いやすいです。これはWP 34Sではメニューを呼び出す必要がある上、42S (Free42) には該当するものが見つからなかったので、8ビット全盛期のプログラマ(当時はBASICだと遅いからマシン語でプログラムするという人がいたものです)にとって使いやすいようにできています。
使いやすさを考えると、用途別に別々の機種を用意するというVoyagerシリーズのコンセプトは間違っていないと思います。プログラマ向けの電卓で16C以上に使いやすいものはありません。
見づらいということはない
表示はVoyagerシリーズ共通の、10桁の7セグメント液晶です。セグメントは太めで角ばっており、今から見ればレトロな感じがします。キャリーフラグはC、オーバーフローフラグはGで表示されますが、HP 15C とパーツが共用になっているようで、そちらではCは複素数フラグ、GはGRADの一部に使われています。
整数モードでは8桁表示に、1桁空けて記数法の種別(16進=hexadecimal、10進=decimal、8進=octal、2進=binary)が表示されます。一方、最大64ビットまで扱えることから表示がはみ出してしまうわけで、表示位置を指定する方法が用意されています。[g][>]で数値を右にずらす(表示範囲がMSB側にずれる)、[g][<]で左にずらす(表示範囲がLSB側にずれる)ことができるほか、[f][WINDOW]で8桁ごと(LSBが0、64ビット2進数の場合MSBが7)の指定ができます。なお、表示がはみ出す場合は記数法の表示の左下や右下(はみ出している側)に点が表示されます。
64桁分用意していてはその分本体が大きくなりますし、Voyagerシリーズで液晶を共用するのは合理的なので、表示部の設計は妥当と言えます。
まとめ
プログラマ向けに特化された唯一無二の電卓で、手元にあると何かと便利です。
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購入金額
30,000円
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購入日
2020年08月01日
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購入場所
ラクマ
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