多少の変動がある可能性はありますが、このレビューを公開することでモチモノが丁度2000個を達成することになる筈です。未公開分を含めればとっくに超えてはいたのですが…。
ただ、最近は記念レビューを書くほどの思い入れがあるような買い物はしていないということで、以前購入してレビューを掲載していなかったこのヘッドフォンを取り上げることにします。米国AUDEZE製の平面振動板採用ヘッドフォン、EL-8 Open Backです。
今まで平面振動板を採用するヘッドフォンは2機種取り上げています。
どちらも共通するのは、特に高域方向の歪みのなさです。ただ、割合アンプとの組み合わせが神経質だったり、どうしても長所である高域方向の強調感が気になり、普段使いのヘッドフォンとしては定着できていません。その中で、このEL-8 Open Backは現時点でMassdrop × SENNHEISER HD6XXに次ぐポジションであり、結構使われるものとなっているのです。そこで節目に紹介することにしました。
AUDEZE EL-8というヘッドフォンは3種類存在しています。今回取り上げているEL-8 Open Backは、その名の通りのオープンエア型であり、残る2機種のEL-8 Closed Back、EL-8 Titaniumは密閉型となります。
個人的にヘッドフォンはどちらかというとオープンエア型の方が好みであり、EL-8 Open Backが特売に出てくるのを待って買ったという感じでした。確かに密閉型のヘッドフォンの方が描写が濃密で没入感は高いのですが、私の場合はヘッドフォンでも多少は外の音が聞こえている方が自然という感覚であること、音場が何となく閉鎖的に感じるものが多いことから、密閉型ヘッドフォンも色々持っているもののあまり常用はしていません。
内箱はAUDEZEのロゴがプリントされているだけのシンプルなデザインです。
内箱の蓋を開けるとヘッドフォン本体とご対面となりますが、AUDEZEや日本国内代理店のASKに掲載されている写真と比べると、ハウジング外周部の木目調塗装が意外と白っぽく見えます。ここはもう少し白さを抑えた方が高級感は出てくるような気がします。まあ、こだわるほどのポイントではありませんが。
実はこの製品のハウジングデザインは、BMWグループに属するDesignWorks USAが手がけているのだそうです。それもBMW i8のチームが担当しているそうですが、率直に言ってそれほど優れたデザインには見えません…。BMW i8については、こちらにWikipediaへのリンクを張っておきます。
ケーブルは専用形状のものが2種類付属します。1本はごく普通の3.5mmシングルエンド接続用、もう1本はApple iOSデバイス用リモコンが途中に用意された3.5mmリモコンケーブルです。
そこそこの価格帯のヘッドフォンでありながら、リモコンケーブルを付けるというセンスがどうにも理解できませんが、米国市場ではスマートフォンに高級ヘッドフォンを組み合わせて使うユーザーが意外と多いそうで…。
この専用ケーブルというのは、EL-8シリーズの最大のネックといえる点です。このシリーズ以外に同じ端子を使っている製品が全くなく、純正オプションも含めてケーブルのバリエーションがほとんど用意されていないのです。特にバランス対応ケーブルは壊滅的で、SONY PHA-3対応のバランスケーブルが純正で用意されていた以外は販売歴がありません。
強いていえば、Brise Audioさんではこのコネクターを部品として仕入れてあるので、オーダーすれば対応ケーブルは作ることが出来ると教えていただきましたので、場合によってはこれを頼むことになるかもしれません。本体の購入価格の2倍以上になりそうですが…。
ピークはあるが耳障りに感じない良さがある
それでは、音質について触れていくことにしましょう。
リモコンが無い方のケーブルを組み合わせた上で、FOSTEX HP-A8で聴きます。
普段メインで使っているMassdrop × SENNHEISER HD6XXと比較する形とします。HD6XXもレビュー未掲載ですが、以前掲載しているSENNHEISER HD650とほぼ同等の製品と考えていただければと思います。
まず音を出して真っ先に気付くのは、平面磁界型ドライバーらしい、高域方向の精度の高さです。LPから起こした「The Seventh One / TOTO」を聴いていると、HD6XXと比べてもハイハットの音が圧倒的に緻密でクリアです。
その点ではFOSTEX T50RP mk3なども同様なのですが、EL-8 Open Backの美点はその圧倒的な高域が、全体像の中でそれほど突出しないことです。一般的に多くの平面磁界型のヘッドフォンは、そのクリアさを強調するかのような音作りが多く、どうしても高域が主張しすぎるきらいがあります。その点、このEL-8 Open Backや、より上位のAUDEZE製ヘッドフォン(LCDシリーズ)はその辺りのまとめ方が巧みで、平面磁界型の良さは残しつつも音楽のバランスを崩さないのです。
レンジの広さなど、オーディオ的な要素ではHD6XX以上と感じられるのですが、音場がHD6XX比ではやや狭く、また全体的な表現にやや重さや暗さを感じる部分があります。
「Rock Revolution / David Garrett」から「Earth Song」を聴くと、低域の押し出しや高域の緻密さでは間違いなくHD6XXを超えるのですが、HD6XXやスピーカーで聴くと左右隅々まで広がっていくかのような音場が、EL-8 Open Backではあくまで耳の内側に小さくまとまるような印象を受けます。
この曲の主旋律は電子ヴァイオリンで演奏されているのですが、HD6XXではそれをあまり感じさせない絶妙な響きを表現してくれるのに対し、EL-8 Open Backでは電子ヴァイオリンの直接音が支配的で、ちょっと素っ気なく感じられてしまいます。
これは優秀録音盤である、LP「Adagio d'Albinoni / Gary Karr」を聴くとより顕著であり、コントラバスの弦の質感でHD6XXに水をあけられます。低域の深さなどはHD6XX以上に出ているだけに、音作りの巧みさで大ベテランのSENNHEISERには及ばないといった印象です。
ただ、オーディオ的な優秀さがそのまま快適さに繋がるような、「The Nightfly / Donald Fagen」などはEL-8 Open Backが本領を発揮します。
このアルバムは全体的にオーディオ的に緻密かつ正確に鳴らすことで音楽も楽しめる傾向があり、HD6XXと比較してもこのアルバムらしい表現がうまく出来ている印象を受けます。
この製品のユニークと言える点は、平面磁界型としては珍しく中域にピークがあるということです。基本的には弱ドンシャリ傾向でまとめられているのですが、中域の男性ヴォーカルやコーラスの帯域が少し持ち上がっているようで、ヴォーカルが妙に存在感を増すソースが一部にあります。丁度Donald Fagenなどはそれに該当することも快適に楽しめる理由なのでしょう。
以前AUDEZE製のヘッドフォン数機種をまとめて試聴したことがあり、聴いた中で実は最も安い製品がこのEL-8 Open Backでした。そのときに感心したのは、聴いたすべての製品で基本的な音の傾向が同じであり、細部の表現や重厚感、スケール感などで差は付くものの明確なメーカートーンが貫かれていたということでした。さすがに安価な新製品LCD-1などはそこまでではありませんでしたが、当時約10万円のEL-8 Open Backで「AUDEZEの音」と言える音にまとまっていたことは評価に値する(上位製品のLCD-4系は約40万円ですので)と思います。
弱点はSENNHEISERのような聴かせ方の巧さがないことですが、これは本来リケーブルなどである程度補えるものです。それだけに、専用端子を採用していることが最大の弱点というべきでしょう。どうしてももう一歩を追求するのであれば、対応可能なBrise Audio TOTORI辺りを買うしかなさそうです…。
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購入金額
21,384円
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購入日
2019年02月24日
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購入場所
PC4U
harmankardonさん
2020/05/03
jive9821さん
2020/05/04
これは1年以上前に購入している品ですし、今年に入ってからはヘッドフォン・イヤフォンについてはHE400S、Edition M、Diana程度ですから意外と本体は増えていなかったりします。ケーブルの本数は妙に増えましたが…。