実は結構読書家で、特に若い頃は乱読しました。
ジャンル的にはSF~ファンタジー~ミステリなどからコミックまでイロイロ。
3桁では収まらない蔵書の中からトピックをご紹介していきます。
そして「芋づる式洲崎綾 Part7」。Webラジオのキャラクターの面白さと天使の歌声のギャップ萌えですっかりファンになった洲崎綾(あやちゃん/ぺっちゃん/あやっぺ)関連。12月といえばあやちゃんのバースデイということで、それに向けてこの1年で増えてきた彼女の参加した作品や楽曲、Webラジオのイベントやそれらの関連商品まで、幅広く芋づる式にご紹介するシリーズレビューの...7回目の少し番外編(あやちゃんがアニメで演じた八千代命は出てくるが、あやちゃん自身は創作に関わっていないので)。
「RELEASE THE SPYCE」。2018年末に放送された「女子高生×スパイアクション」アニメ。なもり×タカヒロというビッグネームの組み合わせだったこともあり、アニメを盛り上げるため、コミック化や小説、ニコ生にWebラジオなど、いろいろなプロモーションが行われたが、そのひとつが小説出版。
ただ、通常の意味での「ノベライズ」ではないところが、「ひとひねり」してある。
「RELEASE THE SPYCE」に出てくる、正義の私設情報機関ツキカゲは、師弟制度を採る。ツキカゲはスパイスと呼ばれる身体能力を高めるアイテムを利用するが、これは「若い女性にしか効かない」。従って一線として活動できる期間は短く、現役中にこれと見込んだ一人の人物に、自分の技と心を伝えて行くのがしきたり。
この小説では、TVアニメで取り上げられたのよりも「ひとつ前の世代」が語られる。
アニメでは主人公源モモの師匠となっていた半蔵門雪が、まだ弟子時代の話。彼女の師匠は藤林長穂。雪と同じく刀を武器とする武闘派。でもすごく甘えん坊で、雪はそんな師匠に料理を作ってあげたりもしている。そして違う学校の中学2年生の八千代命(この小説ではメイ)を弟子に持つ高坂信(こうさかしん)。すでにこの時点でもメイの身体能力は師匠である信を上回っていたが、信の真骨頂は強さではなく「気配の薄さ」。身体能力・戦闘能力は平凡だが、主張しない性格、空気のような存在感を活かして潜入捜査を得意とする。彼女たちが集まるのがカレーショップWasabi。そこで働いているのが、高校を卒業したばかりのカトリーナ・トビー。彼女の弟子は、雪と同じ中学に通う青葉初芽。初芽はなんだかいつもいろいろなものを発明しては失敗している。彼女たちはツキカゲの現役世代。ツキカゲは空崎に本拠を置く正義の私設情報機関。つまり彼女たちはスパイ。
当時は、同じ空崎を発祥の地とし、今でも拠点を置く犯罪組織モウリョウの勢力も強く、彼女たちは多くの事件を手がけていた。
◇◆◇
ツキカゲという日本の組織に、コードネーム「カトー」ことカトリーナ・トビーが加わったのは、信の影響だ。カトリーナは、ツキカゲと協力関係があるアメリカの独立諜報機関、トビー家の生まれ。ツキカゲの他のメンバーと異なり、代々親類縁者全てがスパイという、生粋のスパイの家系に生まれたカトリーナは、わずか13歳で大統領暗殺阻止任務で功績を挙げ、トビー家の中でも将来が嘱望された人物だった。16歳になったときに日本での任務(マラソン大会での爆弾テロ阻止)をこなしに来日した時、日本側のエージェントとして協力したのが信。待ち合わせ場所で気づかないうちに間合いに入られていた(どころか、何度か声を掛けられたのに気づかなかった)のに愕然としたカトリーナだが、幼い(当時中学1年生)信に驚きながらも、信は「パートナー」ではなく、「補佐」だと申し渡した。そして、日本ではカトリーナはイヴァンカという偽名を用いており、信にもそう呼ばせた。
カトリーナは当初全く信を信用しておらず、任務である爆弾魔の発見のためのマラソンコース監視作業も一人で行っていたが、信が彼女に逆らわずカレーを差し入れしたりして、徐々に話せるようになってきていた。しかしその中で、信はカトリーナに「あなたの性格はスパイ向きじゃない」し言われてしまう。それに信は「きっとスパイとしては、信は普通すぎると思います」「でも、そんな私に価値を見出してくれた人たちがいるんです」「だから信は、少しでもツキカゲの役に立てるなら、頑張ります」と語る。他人のために...というのはナンセンスだと言い切るカトリーナ。ただ自分たちのために動く貪欲さにこそ強さがあると。しかし普段の柔和さとは違う強い意志を込めて「ツキカゲは弱いとは思いません。信が弱いのは事実ですけど、ツキカゲのことを悪く言わないでください」と信が反論したあと、任務の一端を任せられるようになる。
そして信が爆弾犯を発見したが、カトリーナの尋問中に犯人は時限装置を作動させてしまう。信を逃がして解除パスワードを探そうとするカトリーナに「一人でやるより、二人で探した方が早いはずです!」と信は提案する。「他人のために動くのは、弱者の生き方だと言ったはずよ」とカトリーナは言うが、他人のために行動することは勇気がいることで、他人を頼ることも勇気がいること、「それができないのは、ただの臆病です!」と反論する信。
二人で協力して無事パスワードを見つけ、任務は終了した。
帰国時カトリーナは信に、イヴァンカは偽名だと告げ本名を明かし、信にも本当の名を教えてほしいと頼む。信がはじめから本当の名前だと告げると、カトリーナは信が、はじめから自分を晒し、委ねる勇気を持つ強者だったことを悟る。
カトリーナは帰国後さらなる任務を次々とこなしていたが、思い出すのは信のことばかり。神を信じぬ自分の心を揺らした、綺麗な笑顔が出来るあの少女こそ神ではないかと...
このことを確信したカトリーナはトビー家を出て、ツキカゲの一員になった。自分の力をシン様のために使うことにしたのだ...
....これを聞いたメイは少しあきれながらつぶやく..「ただ単にコードネーム(甚内)使うの忘れてただけのような気もするけど・・・」
激務を気遣う仲間が入れた催眠薬入り飲料で眠る信に肩を貸すカトリーナとあきれるメイ(左P)
◇◆◇
外部からカトリーナが加わった後、雪の幼なじみで幼い頃誘拐事件に巻き込まれたことがある(←TVアニメで語られる)初芽がその弟子についたことで、長穂-雪、信-メイ、カトリーナ-初芽の3組の師弟が揃ったツキカゲ。ただこの時代は、敵対する犯罪組織モウリョウの勢力も非常に強い時期だった...
協力関係にあった私設情報機関、東北の「山伏」の一員の裏切りによる闘い、村人全部が傭兵という桃源村のトップクラス青竜と直属の傭兵団=竜軍団との戦闘、モウリョウの生物化学兵器工場への攻撃などをこなしつつ、地力を上げ、師弟の絆を強めていくツキガゲ。特に、有事の時の厳しさと平時のだらしなさ?の落差がある長穂のお世話をしながら、生真面目一本だった弟子の雪は師匠への信頼と愛情が深まっていった。
◇◆◇
そんな中、モウリョウは「ルーマニアの吸血鬼」ことドラゴミル姉妹という二人組の殺し屋にツキカゲ殲滅を依頼する。ドラゴミル姉妹は、ツキカゲの本拠地がある空崎で不良少年などを集めて「牙」という軍団を作り、無法を働き始めた。
その「牙」の集会に潜入したメイ。しかし相手は遺伝子操作で生み出された生物兵器=デザイナーベイビーであるドラゴミル姉妹。見破られたメイが、血を吸われ、薬物を注射されようとしたとき、姉妹の姉モニカの首筋に刀を当てていたのは現場近くで待機していた長穂だった。メイを人質に、ツキカゲをおびき出すのが目的だった姉妹は、上手くいったとほくそ笑むが、肝心の人質であるメイはいつの間にか忍び寄った信に救出されていた。
これに先立つこと数分。メイが敵に捕縛されたことを、信はカトリーナ達と指揮通信車の中で見ていた。「助けに行く」信が立ち上がった。「信はメイちゃんの師匠だ!メイちゃんより弱いし、スキルだって正直高くないし、スパイらしいところだってない-でも師匠なんだ!~だから助けに行く、何があってもどんなに危険でも誰が止めても助けに行く、絶対に」指揮車を出て行った信を見てカトリーナは「・・・少し嫉妬しちゃうわね。それだけあの子は、シン様に愛されているってことだから」と言って、メイの救援に向かうのだった。
集会所の外の牙の親衛隊達にカトリーナと雪と初芽が対応した結果、姉妹のうち凶暴な妹のソラナには長穂が、姉のモニカにはメイと信の師弟が対峙することになった。それまで敵にいたぶられてダメージが残り、血まで吸われて貧血気味ながらもメイは、潜入能力には優れるが身体能力的には平凡な師匠を気遣い「師匠・・・下がっていて」とスパイスを取り出し、信を守って戦おうとしていた。しかし信はそのスパイスを取り上げて、自分が口にくわえた。信はツキカゲの中でもスパイスを使う機会が最も少ない。任務のほとんどが囮役や潜入任務であり、存在感の薄さこそが重要だから。敵を倒すためにスパイスを使うのは、一体いつ以来になるだろう...暗器使いでもある信は拘束用の糸を繰り出してモニカを捕縛しようとする。モニカもクスリで身体能力が強化されている。しばらく一進一退の攻防が続いたが、ついにモニカの毒爪が信の腕を掠る。即効性の毒の効力から、モニカはほぼ勝利を確信した。しかしこのとき彼女はメイを見失っているのに気づいていなかった。メイがモニカの腕を蹴り上げ、信への追撃を阻止し、スマホガンを撃ち込んだ。「姉者っ!」倒れたモニカに気を取られたソラナに長穂が一瞬で距離を詰め、催眠弾を撃ち込んだ。
あとを国家機関に託した後、ツキガゲたちは信を病院に運んだ。現場で応急処置されたツキカゲの治療薬は既知のあらゆる毒や細菌・ウイルスを無効化するが、モニカが独自に作り出した薬物には効かなかった。全身に毒が回ることは防げたが、結局信の腕の機能は戻らなかった....
「・・・ごめん、師匠・・・メイのせいで・・・!」とうなだれるメイに信は笑顔で告げた。「腕くらいでメイちゃんの命を助けられたんだったら、ぜーんぜん良いんだよ」「今までずっとメイちゃんに助けられてばっかりだったからね。師匠としていいところを見せたかったんだ。だから、これでいいんだよ」
そう言いながら、動かなくなった手を見下ろす信に、それまで沈黙していたカトリーナが話しかけた。「・・・いえ、シン様。まだ諦めることはありません」そう言いながら、彼女は1枚のカードをスマホに読み取らせた。それはトビー家の人々が各自1枚だけ持つ『トビーカード』と呼ばれるもので、誰かがこれを使った場合、トビー家に属する全員が無条件に全力でその要請に応えなければならないとされる『切り札』。「シン様。これよりアメリカへ渡り、世界最高の技術で、その腕を治療してください。~治療にどれくらい時間がかかるかわかりません・・・もしかしたら数年・・・・完治するという保証もできません・・・・。可能性にかけるしかありませんが、トビー家が可能な限りのサポートをします」
これを聞いて迷うようにメイを見た信に、メイは言った「行ってきなよ、師匠。せっかくカトーさんが、奥の手を使って治してくれるって言ってるんだからさ!」
別れの日、ツキカゲを卒業する人に課せられた選択。記憶を消して日常に戻るか、記憶を残したまま協力者として残るか。その問いに、信の気持ちは決まっていた。
「記憶を残したまま、協力者になる。何年かかっても、治療を終えて、必ずまた空崎に戻ってくる。メイちゃんのところに」
「ごめんね・・・師匠として、ほとんど何も教えられなかったね」
「ううん。家族の温かさを教えてもらった」
「ごめん・・・いつもいつも、守ってもらってばかりで・・・・」
「最後に師匠がメイを守ってくれたよ」
「ごめんね・・・謝ることばっかりしか思いつかない師匠で・・・。でも、一番言いたいことはね・・・」「ありがとう、メイちゃん。信の弟子でいてくれて。友達でいてくれて」
この日からメイは駅前で弾き語りを始めた。それは師匠が、メイが歌うなら聴きに行くと言ってくれたから。・・・それが習慣になる頃に、メイが浮かない顔をした少女に声をかけ、彼女がツキカゲに入ることになるのは、また別の話。
◇◆◇
信が戦線を離れ、5人になったツキカゲにさらなる試練が待っていた。カトリーナのスパイスの持続時間が短くなってきたのだ。-スパイスは若い女性にしか効かない-高校を卒業したカトリーナにはついに「その時」が来たのだ。
一方、数々の作戦をツキカゲに潰されたモウリョウの司令官アレクセイは、一発逆転の勝負をかけようとしていた。
-衛星落とし-
そして世界規模の組織モウリョウは、戦果の挙がらないアレクセイに見切りをつけ、別の人物を送り込んできた...天堂久良羅。
始まって、終わり。
終わって、始まる。
その時が近づいていた。
これは、雪・命(メイ)・初芽が一人前になっていく物語。
そして、雪と師匠長穂との別離の物語....
TVアニメ1クール12話では描ききれなかった、三組の師弟関係が「なぜ」そういう関係性なのかがよくわかる設定集ともいえる作品。そしてラストのエピソードを読むと、またアニメを見返したくなる。
また同時にツキカゲのメンバー達の日常も多く描かれて、性格や考え方の深掘りもされていく。そのためアニメでのキャラクターの行動や言動の「なぜ?」が、ストンと納得することが出来る。
そんなアニメと有機的に繋がりつつも、単独でも味わい深い、そんな作品です。
「師匠から弟子へ。弟子は師匠となり、また次代の弟子へ。」帯の言葉が沁みる。
RELEASE THE SPYCE視点で見ると、いわゆる「外伝」なのだが...
アニメを理解するには絶対に読むべき。
・なぜ雪がモモに対してあれほど過保護なのか
・なぜ命が終盤であの役回りだったか
一応アニメでも触れられてはいるので、知らなくてもアニメは楽しめるが、識ればより「納得」が行く。
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購入金額
1,188円
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購入日
2019年01月13日
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購入場所
ゲーマーズ
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