レビューメディア「ジグソー」

映画化希望、豊田徹夜の蟲師読み切り「影踏み」は暗黒神話体型クトゥルフを超えている。切ない人間ドラマが素晴らしい。

蟲師大トリビュート祭「影踏み」 豊田徹也

圧倒的な人間描写と緻密なストーリー構成、そして見事な伏線回収。豊田徹也の蟲師の読み切りを掲載。これだけで700円の価値を超えている。

探偵事務所でほそぼそと下請けの仕事をしている主人公に、女子高生のヒロイン=真帆は、居なくなった母=里美を探してもらうために飛び込んできた。マイセンのレプリカティーカップが割れてしまい、不機嫌な初対面。
母の失踪に悲しむ彼女を見て、断ることができない主人公は二人で失踪した周辺地域を捜索する。
居なくなった場所をくまなく探すがどこにも居ない。そもそも居なくなった理由がわからない。どこへ?

すぐそばの大きな屋敷は地位と権力を持つ謎の老人=瀬尾の住む場所だ。おいそれと聞き込みに行くことも出来ないほど遠い存在であるために、調査は難航するのだが。

「あんた、蟲師って知ってるかね」
通りすがりの「ちょっと変わったとっつぁん」に遭遇することで「蟲」の存在を知り、真帆と里美が、謎の老人=瀬尾と関係していることを突き止めた。

瀬尾と里美は親子だった。厳密には義理の親子である。そして、里美は異世界から「人影」を伝ってやってきた存在だった。瀬尾にとってミサトであった実の娘が入れ替わった「変わり身」だった。

離れて暮らすようになった理由はたくさんあったのだろう。義理とはいえ娘の失踪を知り、瀬尾は娘が入れ替わったのは、自分のせいだと自身の過去を責めた。

「いつまでも夕暮れのまま、寂しく、暗い、どこでもない場所に…」

そう、彼もまた人影を伝ってやってきた向こう側の存在だったのだ。


里美はこの世とは異なる場所に行ってしまったのだ。この世界へ帰ってくるためには蟲師の末裔であるとっつぁんの知識と能力が必要になった。とっつぁんの能力で、この世と異世界をつなぐ場所を発見する。全力で叫ぶヒロイン。
「お母さん!」

現れた女性は一体誰なのか?

影が、長く長く、伸びている。ゆっくりと瀬尾を抱きしめた彼女は真帆の母=里美なのか?

それとも、瀬尾の実の娘=ミサト?

数日後、瀬尾の屋敷で3人が仲良く歩いている姿が目撃された。仲良く過ごしている姿を見て、探偵はホッと胸をなでおろした。
 
割れたマイセンのレプリカティーカップのお詫びなのか、真帆から送られたカツサンドをほうばりながら、探偵は不思議な事件の余韻に浸る。探偵は何もしなかった、ようでいて、ずっとヒロインのそばに居てあげた。そして、蟲師のとっつぁんは何も言わずに消えていった。

まるで「暗黒神話体型クトゥルフ」のようなハードボイルドな探偵小説になっている。これはもう、アニメ化して欲しいですよ。これですよ!アニメ化しないといけない異世界ストーリーは。

ライトノベルの異世界モノばっかりじゃなくてですよ、豊田徹也の蟲師を映像化してほしいですね。

  • 購入金額

    700円

  • 購入日

    2014年12月07日

  • 購入場所

    amazon

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