レビューメディア「ジグソー」

表題作の恐ろしさは、やはり、怪異というよりは人の心の闇なのです。

  • by
    L2さん
  • 2017/08/20
  • (更新: 2017/08/20)

「おそろし」「あんじゅう」に続く、三巻目の百物語シリーズです。

 

私の好きなお話は、この巻の4話目にあたるお話。

それも、導入部分と、おしまいのまとめの所に記された、不思議のお話ですねえ。

 

橋は、「端」とも言われ、彼岸と此岸の境を越えるとされているもののようです。

川そのものが境界線であり、結界であるという前提があるのかもしれません。

その昔、橋を掛ける事を許されていない地域や、人々が居ました。

地勢的に難しい所もありますね。

政治的な理由で繋ぎたくない地域同士があったり、あえて、境内に川を造成した神宮があったりする訳です。

 

ええと、脱線しました。

 

以降、ちょっと、ネタバレが含まれます。

 

主人公の「おちか」が招かれて、三島屋とは別の百物語をする場所に向かう途中の橋で、声を掛けられます。

それは、里から江戸に冬奉公という出稼ぎにやってきた夫婦の娘で、初めて奉公に出る「おえい」という娘をよろしくお願いします、という言葉。

駕籠に乗っていたのに、耳元で告げられたので、あやかしの仕業だと思いますが、言葉の意味と響きは優しかった、と思いながら百物語の舞台に。

そして、帰り道に思い当たる事があり、声の主に「お姿を見せてはいただけませんか」と願います。

その後、「おえい」に訪ねて、見に付けていた着物の特徴から、そこに姿を見せてくれたのは、「おえい」の里の道祖神であったと判明します。

里を出て働く冬奉公の子供達を、橋という境を伝って見守りに来ていたのかな、とほっこりするお話です。

中身の本編は、そうでもないような感じですけれどもw

 

そして、表題作は、有る一家の前に捨てられていた生まれたばかりの男の子が、三歳になった途端に、夜泣きも喋る事もしなくなったのに、とある人物の前でだけ、火の付いたように泣き続けるというお話。

 

お七という、その子の姉が、不思議がって、一家や、住み込みの職人と、一対一になるように引き合わせて、その子が見ると泣きだしてしまう人物を特定しますが、その理由については親に理解してもらえずに、すっかり気落ちして熱を出して寝込んでしまいます。

そんな中で、男の子が泣き続けるのが大変なので、家守である差配人に相談した所、熱を出した娘の看病に集中しなさい、と、その子を預ける事になりました。

 

そして、その夜に惨劇が起きます。

一家に押し込み強盗が入って、皆殺しになるのです。

差配人の所に預けられた、拾い子を残して。

 

下手人を手引きしたのは、その子が出遭うと、いつも泣きだして止まらなかった住み込みの職人でした。

 

その子の力は、そこで消えて、強く育ちましたとさ。

だと、日本昔話の怖い話で終わるのですが。

 

このお話は、ここからが、一気に恐ろしくなります。

泣くという事で、悪事の芽の段階からでも分かると知った差配人の元では、当然、泣き出したりはしないで暮らし始めるのですが……。

 

特殊な力を持つ子は、怪異とまでは言いきれないのですが、近いかもしれません。

でも、恐怖の源は、その子の周りにいる人間の心でした。

表紙の絵の愛らしさを見ると、余計に悲しく、背筋の寒くなるお話でございます。

  • 購入金額

    400円

  • 購入日

    2017年08月20日

  • 購入場所

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