「おそろし」「あんじゅう」に続く、三巻目の百物語シリーズです。
私の好きなお話は、この巻の4話目にあたるお話。
それも、導入部分と、おしまいのまとめの所に記された、不思議のお話ですねえ。
橋は、「端」とも言われ、彼岸と此岸の境を越えるとされているもののようです。
川そのものが境界線であり、結界であるという前提があるのかもしれません。
その昔、橋を掛ける事を許されていない地域や、人々が居ました。
地勢的に難しい所もありますね。
政治的な理由で繋ぎたくない地域同士があったり、あえて、境内に川を造成した神宮があったりする訳です。
ええと、脱線しました。
以降、ちょっと、ネタバレが含まれます。
主人公の「おちか」が招かれて、三島屋とは別の百物語をする場所に向かう途中の橋で、声を掛けられます。
それは、里から江戸に冬奉公という出稼ぎにやってきた夫婦の娘で、初めて奉公に出る「おえい」という娘をよろしくお願いします、という言葉。
駕籠に乗っていたのに、耳元で告げられたので、あやかしの仕業だと思いますが、言葉の意味と響きは優しかった、と思いながら百物語の舞台に。
そして、帰り道に思い当たる事があり、声の主に「お姿を見せてはいただけませんか」と願います。
その後、「おえい」に訪ねて、見に付けていた着物の特徴から、そこに姿を見せてくれたのは、「おえい」の里の道祖神であったと判明します。
里を出て働く冬奉公の子供達を、橋という境を伝って見守りに来ていたのかな、とほっこりするお話です。
中身の本編は、そうでもないような感じですけれどもw
そして、表題作は、有る一家の前に捨てられていた生まれたばかりの男の子が、三歳になった途端に、夜泣きも喋る事もしなくなったのに、とある人物の前でだけ、火の付いたように泣き続けるというお話。
お七という、その子の姉が、不思議がって、一家や、住み込みの職人と、一対一になるように引き合わせて、その子が見ると泣きだしてしまう人物を特定しますが、その理由については親に理解してもらえずに、すっかり気落ちして熱を出して寝込んでしまいます。
そんな中で、男の子が泣き続けるのが大変なので、家守である差配人に相談した所、熱を出した娘の看病に集中しなさい、と、その子を預ける事になりました。
そして、その夜に惨劇が起きます。
一家に押し込み強盗が入って、皆殺しになるのです。
差配人の所に預けられた、拾い子を残して。
下手人を手引きしたのは、その子が出遭うと、いつも泣きだして止まらなかった住み込みの職人でした。
その子の力は、そこで消えて、強く育ちましたとさ。
だと、日本昔話の怖い話で終わるのですが。
このお話は、ここからが、一気に恐ろしくなります。
泣くという事で、悪事の芽の段階からでも分かると知った差配人の元では、当然、泣き出したりはしないで暮らし始めるのですが……。
特殊な力を持つ子は、怪異とまでは言いきれないのですが、近いかもしれません。
でも、恐怖の源は、その子の周りにいる人間の心でした。
表紙の絵の愛らしさを見ると、余計に悲しく、背筋の寒くなるお話でございます。
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購入金額
400円
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購入日
2017年08月20日
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購入場所
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