レビューメディア「ジグソー」

30年ぶりの邂逅

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。「あぁ、あのとき買っておけば..」モノには旬があり、ひと頃街に溢れていたモノも買い時を逃すと探しても見つかりません。それは洋服やアクセサリー、本や食品まであらゆるモノがそうです。そしてまた音楽も。アルバム初出時に買いそびれ、その後長い時を経て邂逅した作品をご紹介します。

TAO。これは出てくるのが遅すぎた、もしくは時代が遅すぎたグループと言われたグループ。1980年代初頭に活動した日本のプログレバンド。特徴的だったのはヴォーカリスト(兼ギタリスト)がDavid Mannという人物で、ほとんど全ての曲が英詞であったこと。実はDavidは別名デビッド辻野といい(ちなみにCharのバンドで活動したドラマー、辻野リューベンの兄)、ハーフで英語が堪能だった。他のバンドメンバーはベースが岡野治雄にドラムスが野澤竜郎、そしてキーボードとヴァイオリンが関根安里。そう、ヴァイオリンが入っているところが特徴。そして曲調としてはプログレ調の音色やアレンジをとりながらも、リズムは明確な8ビートや16ビートでメロディラインは結構キャッチー。ちょうどバンドの構成的にも楽曲の方向性的にも和製UK

という感じ。

ただ彼等が活動した1980年代前半というのは既にプログレブームは過ぎておりKing CrimsonやEmerson, Lake & Palmerといった大御所バンドも解散、あるいは活動縮小していた。その後21世紀に入ってからはいわゆるバンド系楽器以外の楽器をフィーチャリングしたバンドも増えたし、オルタナティヴ・ロック系の盛り上がりも大きくなったが、20世紀末のバブルに沸く時代には流行らなかった。しかし今になって再評価され、「伝説のバンド」と呼ばれる、早すぎた、あるいは遅すぎたTAO。

そんな彼らの1stアルバムにしてこのメンツでの唯一の作品。

最初は普通の曲に聞こえるが実はプログレ度全開の「GROWING PAINS」。ちょっと暗めの跳ねたリズムのロックでCharの初期と少し雰囲気が似ている歌がある部分に対して間奏やブリッジで3/4のフレーズを挟むのがちょいプログレ臭?と思っていたらそれは3分で終わり、曲の後半はピアノのバッキングが印象的なドラマチックな展開になり、深いリバーブがかかったヴォーカル、続くギターソロになるとリズムは倍速!ベースがスラップを使っているのが新しいな。短いオンビートドラムソロのあとは関根の弾きまくりヴァイオリンソロ!!とどっぷりプログレ!曲も7分以上あるし。

「AZUR」。これはポップ。普通なら?シーケンサーで奏でられるようなフレーズがヴァイオリンによって繰り返されるが、最後の音符のビブラートが生ならでは。スロー16ビートで物悲しい分散和音に彩られたAメロ、コード進行が洋楽っぽいSHOGUN

のようなBメロの対比が面白い。左右にパンするリバースサンプリングのシンバルが当時新しかった。

「HELLO, VIFAM」。この作品は当時アナログLPで出たがそちらに含まれていたのがこちら。「HELLO, VIFAM」というと「single version」のVIFAMと基地の交信風ナレーションが入っているのが一般的だが、演奏がガッツリ聴ける「素」の音楽だけのも捨てがたい(イントロもちょっと違う)。調が長短行き来し、リズムもころころと変わるところがプログレ?でもこの全編英詞で曲調も起承転結(紆余曲折?w)あるこの曲が、子供向けのロボットアニメの主題歌に選ばれたんだから選んだ人のセンスがネ申。実際この曲だけは売れたらしいし。なおライナーによると、「single version」のナレーションはアニメ化にあたってTV制作側の意向として入れられたのかと思っていたが、実はTAOのメンバー発案とか。実は全編英詞のこの曲、主題歌選出はされたものの日本語詞で録りなおしさせられると思っていたメンバーは「そのままでかまわない」という話を聞いて感激したらしい。そして彼等として唯一となる日本語詞の曲(アニメエンディングテーマの「NEVER GIVE UP」)を作ったとか。そんな流れで、よりTVに合うように付け加えたのかな。でも「single version」の方は間奏で女性ナレーションによる“Welcome home, Vifam 7”のコールがあって戦闘から還ってきたVIFAMが迎えられたのと同時に、演奏の調が短調⇒長調に変わってパァーッと明るくなるのがシンクロしていて、それはそれで素晴らしいのだが。

結構本格的なサウンドとキャッチーな楽曲とを両立していたTAOだが、アルバムとしては売れることはなく、グループはヴォーカリストと他のメンバーに分裂、他メンバーは新たなヴォーカリストとギタリストを加えてEUROX

として活動する。TAOの名称使用権を引き継いだDavidは新たなメンツを迎えてミニアルバムを作るがそのあとバンドとしての活動を休止する。ただ現在はYouTubeにチャンネルを持ち、そこでTAO名義で作品を公開しているみたい。

これはまだ学生の頃好きになったが、すぐ買える金もなく、ちょうどアナログ⇒CDへの変遷期でもあったため、「CDでたら買おう」と思っていたら、一度CD化されたものの一瞬にして廃盤、市場から消えた。20世紀当時には「HELLO, VIFAM」以外ではさほどの支持があったとも思えないのだが、今世紀に入ってEUROX同様カルト的人気を博し、レアなCDは一時期取引価格10万を超える事態に。

それがSHM-CDで再発されたのがこちら。しかもアルバム未収録だった3rdシングルの“Hello, Vifam”から「HELLO, VIFAM (single version)」と「NEVER GIVE UP」、4thシングルA面の「遊室民(ジプシー) (You’d Always Be Mine) 」が入ったこのメンバーでの楽曲完全網羅盤。この再発盤も一時期入手難で1万円クラスだったが(定価は2500円+税)、ついに手が届くところに降りてきたのですかさずげと。

元々のライナー(小さい方)とボーナストラック用のライナー(大)ともにUKっぽいな。
元々のライナー(小さい方)とボーナストラック用のライナー(大)ともにUKっぽいな。

念願叶って30年ぶりにきちんと聴けたTAO。ただこれもインターネットがなければ再発の情報も手に入らなかったし、安値で手に入れられることもなかった。30年の時を超えさせたのはインターネットだった、ということかな。

【収録曲】
1. TELL ME
2. NOBODY KNOWS
3. MUSIC ON MY MIND
4. MAKIN’ LOVE
5. GROWING PAINS
6. AZUR
7. LOVE, PEACE & MUSIC
8. MINOR MIRACLE
9. HELLO, VIFAM
10. DO YOU REMEMBER
11. HELLO, VIFAM (single version/ボーナストラック)
12. NEVER GIVE UP (ボーナストラック)
13. 遊室民(ジプシー) (You’d Always Be Mine/ボーナストラック)

「HELLO, VIFAM(single version)」

更新: 2018/04/15
必聴度

このバンドはもう少し評価されていいと思う

TVとのコラボというのは今も昔も売り出しのための常套手法だが、ロボットものアニメとこのバンドを評価する層の微妙なズレが受けなかったのだろうか...

  • 購入金額

    2,484円

  • 購入日

    2015年05月22日

  • 購入場所

    バンダレコードweb店

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