実は結構読書家で、特に若い頃は乱読しました。
ジャンル的にはSF~ファンタジー~ミステリなどからコミックまでイロイロ。
3桁では収まらない蔵書の中からトピックをご紹介していきます。
もう2年間にわたって断続的にご紹介しているMarion Zimmer Bradley(マリオン・ジマー・ブラッドリー)の連作、ダーコーヴァ年代記。登場人物に重複はあれど、そこで語られる内容はファンタジーあり、SFあり、冒険小説ありと一作ごとに毛色が異なり、共通の舞台装置を使った連作といった風情のユルいつながりのダーコーヴァ年代記において、本作はかなり特異な立ち位置にある。ある作品とほとんどすべての登場人物が重複し、また時間的にも前作の直後、というのは例がないかもしれない。
以前取り上げた「ドライ・タウンの虜囚」
と「ヘラーズの冬」
は本国では一冊の本“The Shattered Chain”として出されたほど関連性が深いものだが、その間にはジュエルが少女から大人の女性に成長するだけの時間が流れているし、主人公(語り部の視点)が異なる。「惑星救出計画」
と「惑星壊滅サービス」
は、主人公の一人である地球人医師ジェイスン・アリスン中心に話が進み、かなり多くの人物が重複しているし、前者が後者の重要な伏線になってはいるが、やはりその間には数年の時の隔たりがある。
今回はあるエピソードのまさに直後。それは「カリスタの石」。
囚われのテレパスの少女、カリスタが惑星中で唯一交感できたのは同胞にあらず、地球人のアンドリュー・カー。アンドリューはカリスタとの細い絆をたどって、蛮族キャットマンとの戦いで部下を守って負傷し二度と立てなくなってはいるがかつては強い剣士であったカリスタの父、ドム・エステバンことエステバン・オルトンの精神と、その力をふるう器として強い交感力を持つカリスタの妹エレミアの婚約者デーモン・ライドナウとの不思議なパーティを組み、みごとキャットマンの根城からカリスタを救い出すことに成功する。いわばお姫様を救出するナイトのお話しで...当然?二人は恋に落ちる。
その後日譚が本編。
しかし、話の肌触りは180°異なる。
こういったハッピーエンドで終わったお話しの続編というのは何か新たに困難が持ち上がり、二人の愛が揺らぎ...でもそれを乗り越え、大団円となる...というもので、実際にあらすじ、というか骨組みは確かにそうなのだが、それに付いている肉の味わいが全く異なるのだ。
どちらかと言えば少年向きともいえる勧善懲悪のヒーロー伝であった前作「カリスタの石」に比べると、男女間のすれ違いや異世界の性風俗の差が語られ、それらの気付きから今までテレパスの集う塔の「パーツ」であったカリスタが自分を発見し、デーモンが旧来の権威を破壊し新たな世界を創造していく物語。
前作のカリスタ救出行で重要な役割を担ったデーモンは、かねてからの婚約者エレミアとの婚儀を控えていた。一方救出時の魂の交感でアンドリューの毅さと優しさを心で感じたカリスタは、双子の妹であるエレミアのように、自分も結婚することを決意する。でもそれは超能力者を繋ぎ、様々な事を成し遂げる<サークル>と呼ばれる一団のコントロールを行う<監視者>というポストを降りることであった。しかし、ラランを持つものが少なくなっているダーコーヴァ、特に自身の後継者として長年カリスタを育て、導いて来たアリリンの塔の老監視者レオニーにとっては、痛い選択だった。
-監視者は処女であることがもとめられるー
それは性エネルギーと超能力エネルギーを扱う人体の下部回路が共通であるから。監視者以外のサークルのメンバーはこれを切り替えて使うことで性と超能力を両立している。しかしそれでもラランを使った作業のあとは数日不能になってしまう。ところが監視者は扱うエネルギーが莫大なので、常に回路を超能力の経路として空けておかねばならないのだ。
レオニーは、カリスタにアンドリューと既に関係を持ったことをほのめかされて監視者を降りる赦しを与えた。
しかし、二人の関係は未だプラトニックだった。
「<監視者>を強姦しようとする者は、命と正気を投げ出さなくてはいけない」
古くからこう言われてきたわけは、性欲から遠ざかってなければならない監視者は自分に欲望を抱く者を遠ざけるだけでなく、行使に及ぼうとする人物を物理的に打ち据えるように条件付けされていたからだ。強大なテレパスである監視者は「考えただけで」強姦者を殺せる。そしてそれは無意識の条件付けだった。
それでも二人は徐々に扉を開いていく。そしてついに父ドム・エステバンの館で結婚式を挙げた二組のカップル。幸せに満ちた妹エレミアとデーモンの愛の交感がテレパスである自分たちにも歓びの波動として伝わってくる。カリスタは妹と交感しながらアンドリューを受け入れようとするが...強く条件付けされたカリスタが最後の瞬間にアンドリューをはじき飛ばした!
これは交感を続けていたデーモン、エレミアにも強い衝撃となって伝わった。怪我を負ったアンドリューは、それでもそれがカリスタが受け入れ準備ができていないだけだと思っていたが、カリスタは日に日に弱っていく。デーモンから彼女の神経エネルギーの流れを可視化して見せられたアンドリューはカリスタの下半身に巣くう昏いエネルギーの塊を見つける。アンドリューに反応して起こる興奮をながす回路がないためにカリスタの性エネルギーは自己破壊を始めていたのだ。
これを防ぐにはカリスタを「元に」戻すしかない。すなわち、愛や性の問題から超然としていられる「監視者」の姿に。それは今まで二人が一つ一つ積み上げてきた事を元に戻してしまうことであった。アンドリューはカリスタを想い、それを受け入れる。カリスタも元に戻るくらいなら死を選ぶ覚悟だったが、既にサークルとしてつながっている三人に過大な負荷をかけていることを悟り、承諾する。
「デーモン、誓って、これが終わったあとで、わたしをもとにもどす方法がきっと見つかるって・・・わたしを正常な状態にもどす方法が・・・」
治療を受けたカリスタは一命を取り留めたが以前のように超然とした監視者に戻ってしまった。同じ部屋に眠る花嫁を抱けないばかりか、性的興奮を引き起こさないよう触れることもできないアンドリュー。治療者でもあるデーモンが触れてもカリスタは問題ないというのに....
一方デーモンの愛を受けて光り輝く双子の妹エレミア。なまじ姿が似ているだけにアンドリューにはとても眩しく映った。地球人の倫理観できつく自分を戒めるアンドリュー。彼にできる事は歩けなくなったドム・エステバンの代わりに領地を治める手伝いをする事くらいだった。そんなエレミアに子供が宿るが、純血を保とうとしてきたコミン同士のいとこであり近すぎるデーモンとエレミアの子は生まれることはなかった。
悲嘆に暮れた日が過ぎると、アンドリューは驚くべき申し出を受ける。エレミアが自分と床をともにするという。そしてそれはカリスタも承諾している、というのだ。妊娠した女性がパートナーの相手ができないときにその姉妹が相手になる事がタブーとされない土地柄。異文化に戸惑いながらデーモンと治療にあたるカリスタを遠目に見ることしかできないアンドリューはエレミアの中に慰めを見いだしていく...一方デーモンはカリスタを救う方法を見つけるためにかつて自分が恋し、そして塔を去ることになった原因でもある女性、レオニーと精神界で対峙していた...
この絡み合った関係は解きほぐせるのか?カリスタとアンドリューの愛は成就するのか?
男でありながら監視者クラスの強いテレパスであるデーモンが監視者に旧来のような過大な犠牲を強いることがないようにと、精神界に建てた新たな象徴としての塔...旧来のテレパスの承認を受けていない「禁断の塔」は崩れ去ってしまうのか?これは出版時問題作と言われた本。ファンタジーの衣をかぶった春本とかグループセックス賛美本とか。たしかにそう読めば読めないこともないが、ポイントはそこではない。ダーコーヴァの設定(ダーコーヴァ自体が難破移民船の生き残りのため、種を絶やさないよう子供を作ることが奨励され、遺伝子プールの多様性を保つため女性が妊娠中にパートナーが他の女性を求めることが罪とされない、など)と合わせて、そういう扱いを受けてしまうのはやや不幸なところか。また世がウーマンリブ運動華やかなりし頃で、登場人物(特にエレミア)の積極的な行動が都合が良いように解釈された面もある。しかしテレパス同士のサークルでの心からの交流や、テレパスのプライバシーの問題、自分を殺して公的業務に一生を捧げた女性とその後継者の社会復帰(人間復帰、ともいえる)などを描きたかったのであれば、もう少し違う描写の仕方があったのではないか、とも思える作品です。
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購入金額
1,000円
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購入日
1988年頃
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購入場所
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