実は結構読書家で、特に若い頃は乱読しました。
ジャンル的にはSF~ファンタジー~ミステリなどからコミックまでイロイロ。
3桁では収まらない蔵書の中からトピックをご紹介していきます。
ここのところ連続してご紹介しているMarion Zimmer Bradley(マリオン・ジマー・ブラッドリー)の連作、ダーコーヴァ年代記。その中でもこのエピソードは時代的には「コミンの統治時代」と呼ばれるダーコーヴァと地球帝国が接触を始めた頃、コミンによる統治が安定していた年代のもの。一貫した世界観に基づいた連作という形をとり、作品間に強い連携が見られることのほとんどないこの年代記にとっては珍しく、前回ご紹介した「ドライ・タウンの虜囚」
の直接の後編に当たる(事実本国では章として区分はされていたが一冊の本“The Shattered Chain”として刊行された)。
前作(前章というか)で救出された、囚われの貴族(メローラ・アイヤール)の娘ジュエルは、救出作戦を担った傭兵たち=フリーアマゾンと脱出行をともにするうちに、今まで考えもしなかった、責任と義務を伴うが、女性が自立して生活ができるフリーアマゾンという生き方を識り、貴族の血統を善しとせず、そのリーダー=キンドラの養い子として、フリーアマゾン=ジュエル・ナハ・メローラとして生きることを決意する。その彼女の成長後の話。
しかし、物語(の特に前半)は地球帝国の諜報員、マグダ・ローンの視点で語られる。
マグダはダーコーヴァで生まれ育ちながら地球人であり、その経験を買われ地球で諜報員の教育をうけて再びダーコーヴァで働くエージェント。そんな彼女の元にひとりの女性が訪ねてくる。そのひとは支配階級コミンに属するロアーナ・アーデス。そう前作「ドライ・タウンの虜囚」でジュエルの母、ロアーナの従姉妹であるメローラ・アイヤール救出行でフリー・アマゾンに身をやつし、同行した行動力のある女性。
彼女は行方不明になった息子が地球人街で見かけられた、というウワサを確かめにやってきたのだ。そして長官とマクダはロアーナの息子=キリルの肖像画を見せられて息を呑んだ。そこに描かれていた男は、マグダの前夫、おなじ諜報局の同僚ピーターとうりふたつだったのだ。
似すぎている二人に驚きながらも、地球人街にいる男は正真正銘の地球人であると証言し、ロアーナに別れを告げたマクダは、ここ最近ピーターと連絡がとれていないという符合にいやな予感を覚えた。
はたして、マクダは数日後コミンを束ねるロリル・ハスターから長官とともに呼び出しを受ける。そこで、待っていたロアーナからマグダたちはあることを知らされる。
-キリル・アーデスが山賊に捕まり、身代金の要求があったこと-
-身代金が払われない場合、キリルの命はないと脅されていること-
-にも関わらず、キリルは現在アーデス城に戻っていること-
これは「ピーターがキリルと間違われて山賊に捕まっている」ということを示していた。
当然ダーコーヴァ人にピーターを助ける義理はない。しかし、長官の方も諜報員としての活動中の事故に対して、表だって行動してダーコーヴァを刺激したくない。なかなかに救助隊を出すのが難しいシチュエーション。自分の前夫、そして、ダーコーヴァと地球のどちらにも属しているような育ちの自分と似た境遇にある同志が見殺しにされるのを納得できず、個人的に救援に向かおうとするマグダ。しかしダーコーヴァという封建的世界は女性が一人で旅をする、という様な風習はなかった。
その時ロアーナはかつての自分の旅の経験から、フリー・アマゾンを装えば女性一人での旅も怪しまれないと提案する。かくして、フリー・アマゾンの衣装があつめられ、行動パターンなどをレクチャーされたマグダは旅立つことになる。もしもの時はフリー・アマゾンになったときの誓いの儀式をした女性の名として「キンドラ・ナハ・マハリ」と応えるように、と教えられて...
旅に出たマグダは情報を集めながら、山賊のすみかに近付く。にせアマゾンであるマグダはホンモノとの邂逅をできるだけ避けていたが、ある山小屋で荒くれ者の集団とフリー・アマゾンのグループのみ、という状況に置かれた。荒くれ者の集団がピーターに関連するような話をしていたため、確かめようと近付いたマグダは荒くれ者に手籠めにされそうになる。そこを救うアマゾンのパーティ。しかし、荒くれ者を片付けたあと、マグダはフリー・アマゾンにあるまじき「男たちの寝床の方に忍んでいった売女」として糾弾される。そこで誓いの儀式をした先達の名を訪ねられて教えられたキンドラの名を答えたマグダに、「嘘をつけ!」と激しく反論したアマゾンのリーダー。そう、彼女こそキンドラの養い子にしてロアーナの従姉妹メローラの娘、ジュエルだったのだ。
フリー・アマゾンの戒律を破ってアマゾンの振りをしたマグダには「その嘘を本当にする処罰=
フリー・アマゾンになる」という事を強要される。そして心ならずも目的地の山賊のすみかではなくフリー・アマゾンとして教育を受けるためにジュエルとギルド・ハウスに向かわされることになる。ピーターの救出ができなくなるため、逃亡を企てているさなか、荒くれ者の残党に襲われる!何とか切り抜けた二人だが、ジュエルが重傷を負ってしまう。「今なら逃げられる」という気持ちと、誓いを立てた相手であるジュエルを見殺しにするのとの板挟みに遭ったマクダはジュエルを看病する事に決めた。
そんな「命の贈り物をくれた」マグダの仕事(ピーターを救出するのを仕事と説明していた)に理解を示したジュエルは、傷をおしてピーターの救出のため寄り道をする事に同意する。無事身代金を払ってピーターを救出したマグダ。しかし、既に地球人街に帰るには冬が深くなりすぎていた。ピーターを伴い、アーデス領でジュエルの傷を癒やすことにしたマグダ。
そこでマグダは幼少時にダーコーヴァで育ちアイデンティティの核にダーコーヴァの考え方を持つ自分と、地球の諜報員として教育を受けた帝国人民としての自分の、心の中にある二つの面と向き合わされることになる。
一方、年端が行かない頃にフリー・アマゾンに加わり、男と言えば以前母を囲っていた暴君しか記憶にないようなジュエルにとって、ピーターは素晴らしい男に映っていく...
マグダはどちらの世界を選ぶのか、ピーターとジュエル、地球諜報員とフリー・アマゾンの恋は実るのか...時は1970年代、女流作家の台頭とともにフェミニズムが華やかなりし頃。そんな「女の時代」に書かれた作品ですが、過剰な女性上位にはなっておらず、男女を対等なものとして描く本作。他のダーコーヴァ年代記とは少しニュアンスを異にするけれど、封建的な貴族社会とそこで暮らす女性たちにライトを当てた、ダーコーヴァ年代記の理解にはなくてはならぬ作品です。
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購入金額
450円
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購入日
1987年頃
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購入場所
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