レビューメディア「ジグソー」

「さよなら、ブレドゥ」「もし神のご意志があれば、また会おう。もし会えなくても、きみに神のご加護のあらんことを」

本の蟲。
実は結構読書家で、特に若い頃は乱読しました。
ジャンル的にはSF~ファンタジー~ミステリなどからコミックまでイロイロ。
3桁では収まらない蔵書の中からトピックをご紹介していきます。

ここのところ断続的にご紹介しているMarion Zimmer Bradley(マリオン・ジマー・ブラッドリー)の連作、ダーコーヴァ年代記。前回「時空の扉を抜けて」

という外伝をご紹介したが、今回は本伝。しかもお話し的には超核心部分。

ダーコーヴァ年代記はダーコーヴァという辺境の惑星に取り残された移民が、いわゆる超能力をもつ家系、コミンを中心としてその星を開拓し、「人を離れたところから殺傷する武器」を疎んだり、戦争ではなく復讐を持って争いのケリをつけるなど中世的な文化のもと、あまたの王国が乱立する時代、コミンの七大氏族によって封建的に統治される時代、そして地球帝国として地球人がやってきて異文化としての接触・小競り合いが発生していた時代、最後にコミンが崩壊し地球帝国へと組み入れられていく様まで、都合数千年スパンにわたる壮大な物語だが、その中でも物語としては一番激動の部分、「コミンの崩壊期」と呼ばれる最終章に属する作品、「ハスターの後継者」。

ここまで「ダーコーヴァ」を大きくするつもりがなかったブラッドリーは一度「カリスタの石」で筆を置いたが、読者と出版社の熱烈な要請で物語をこの作品で再開する事になる。そして当時の大作ブーム?で上下二分冊となっている大作。

物語的にはこのダーコーヴァ年代記の原案、というか中心核のエピソード、「オルドーンの剣」

の前日鐸。「オルドーンの剣」はブラッドリーが少女の頃から温めていたプロットで、それを短くリズミカルにまとめるために、読み終わった後いくつかの?(はてな)が頭に浮かんでしまう造りだった。

-なぜ、ルーは左手を喪ったのか
-シャーラの反乱になぜルーはかかわったのか
-コミンそのものでもあるハスターたるレジスとルーとの関係は
-ほのめかされるシャーラの反乱とはなんだったのか
などなど...

そんな「オルドーンの剣」では語り尽くせなかった、ルーやレジスの若き日が語られる。語り口としてはルーとレジスの二人の視点で書かれているのが作風的にも面白い造りになっている。

ラランを持つ七大氏族を束ねるハスターの跡継ぎたるレジス・ハスターが、コミンの習わしに従って警備隊に士官候補生として入隊させられるところから物語は始まる。七領土王家と呼ばれるコミン全体の摂政の地位にある祖父ダンヴァン・ハスターの命によって、将来ハスターを継ぐものとして当然の義務を果たすためだ。ハスター家のコミンとしての能力(ララン)はテレパス。周りのものは当然レジスをテレパスとして腫れ物を触るように扱うが、実は彼は本来目覚めるべき年齢になってもラランが現れていなかった。そのことを自嘲しながら警備隊に下っ端として入隊させられた世慣れぬ彼は、軍隊系組織ならではのいびりやシゴキにあう。

その警備隊に隊長として赴任していたのが、ルー・オルトン。少年時代に「はるかなる地球帝国」

で地球人の少年と旅をしたケナード・オルトンも、今はオルトン家当主として七大氏族の有力な構成員となっているが、彼が慣例を破って地球人の女を娶り成した「あいのこ」がルー。ケナードは力のラランを持つオルトンの権力と、その政治手腕を持ってルーを自身の跡継ぎと認めさせ、警備隊の隊長の地位を獲得させたが、「混血」のルーを頭に頂くのを快く思わない勢力もまた多かった。ただ年のあまり離れていないルーとレジスは血の関係が濃い七大氏族の中において兄弟のように育ったこともあり、互いに信頼し合う関係だった。

警備隊でレジスを教育する立場となったのが、士官学校校長のダイアン・アーデス。彼もまた七大氏族アーデス家の出だった。レジスを特別視しないダイアンから厳しい指導を受けるが、彼の厳しさには倒錯した少年愛が忍び込んでいる事に初心なレジスは気づかない。

激しい指導と、きつい風当たりに晒されるレジスの心の支えは同じ士官候補生、ダニロの存在だった。ダニロの兄、ラファエル・フェリックス・シルティスは、レジスの父ラファエル・ハスターの護衛であり、父を護って戦い、ともに亡くなった。そのことに親近感を覚えたレジスとダニロは友情を育む。

しかし、その後ダニロの様子がおかしくなり、コミンに嫌悪感を示すようになり、レジスを「七大氏族の若様」として扱うようになってきた。彼を問いただすさなかにレジスのテレパスの能力が目覚め、衝撃的な事実を識ってしまう。ダイアン校長が権力とそのコミンの力を持ってダニロを少年愛の対象として毒牙にかけていたのだ。いつかこのことを糾したいと考えるレジスも七大氏族の中にあっては単なるひとりの子供に過ぎず、士官学校での一生徒に過ぎないのだった。和解したレジスとダニロはブレドゥ=血の兄弟としての契りを交わし、互いになくてはならない存在になっていく。

一方ルーは父が着々と政治手腕を振るってルーの立場を強固にし、コミンの中枢に組み込もうとするのに反発を覚えながらも、健康の問題で飛び回れなくなった父の名代として「七大氏族の裏切り者」アルダラン家が治める街カエル・ドンに赴く。アルダラン家は中世的・封建的なコミンにあって、いち早く地球人との交易ルートを拓き、地球帝国との調和を図っている。私闘・復讐を是とするダーコーウァにあってこれを禁じて警察組織を持ち、ラランを能力でなく技術ととらえてコミン以外の人民にもそれを手ほどきするアルダラン家はコミンから見ると裏切りものだが、そのコミンの中でつまはじきにされているルーにとっては「なじめる」場所だった。

そこで試みられる地球人に対等に交渉するカードとして、コミン評議会の統制を受けないラランをもつ複数のメンバーによって構成される「環」を構築しようとする試み。それに賛同したルーはメンバーのアルダラン家の養女、マージョリー・スコットに惹かれていく。しかしその姉、ザイラ・スコットはラランを単にテクニックと考え、コミンの環でもとめられる環の構成中の性に対する禁忌等には鼻もひっかけない。さらにその環を統率するベルトラン・アルダランはその環を強化するため、もっと強力なマトリクスを求め、最大の力を持つ土着神の名を冠したシャーラのマトリクスを環に組み込もうとしていた。

しかし、「迷信」と呼ばれる堅いコミンの環の規律には様々な教訓が含まれていた。

シャーラのマトリクスの強すぎる力によってひずんでいくメンバーの心。ザイラの奔放さは強欲にベルトランの崇高な開放に対する志は権力欲と闘争心に変質していく。

その環から逃げ出すルーとマージョリー。

一方、ルーの話から他者のラランを目覚めさせる貴重な能力を持つ能力者-触媒テレパスと推測されたダニロにベルトランたちの食指が伸びる。穏やかだったはずのベルトランがとった方法はダニロの誘拐。ダニロの異常に気づき、それを救わんと旅するレジス。その旅の中でレジスは完全にハスターとして目覚めた。

逃げ出していたルーとマージョリーは結局ベルトランたちにつかまり、薬を飲まされて環への協力を強制される。

しかし暴走するシャーラのマトリクスはベルトランやザイラたちの心を捻じ曲げ世界を破滅に導こうとしていた...

この古き力を制御できるのはコミン最大の力を持つラランを受け継ぐルーのみ。はたして絡み合ったルーとレジスとダニロの運命は?そしてルーとマージョリーの愛は成就するのか?ダーコーヴァは護られるのか?

少年が大人になっていく過程の葛藤や様々な愛の形が語られる大作。理解としては「オルドーンの剣」より先に読むほうが「オルドーンの剣」の説明不足が補われるけれど、順序としてはやはり「オルドーンの剣」にはまった後に、その時のルーの/レジスの、セリフが/行動がどういう過去に基づいていたのかを知るために読むのが正しい順序と思います。
レジスにとっては子供時代との別れと友との別れとが語られる形
レジスにとっては子供時代との別れと友との別れとが語られる形
  • 購入金額

    980円

  • 購入日

    1987年頃

  • 購入場所

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