実は結構読書家で、特に若い頃は乱読しました。
ジャンル的にはSF~ファンタジー~ミステリなどからコミックまでイロイロ。
3桁では収まらない蔵書の中からトピックをご紹介していきます。
ここのところ連続してご紹介しているMarion Zimmer Bradley(マリオン・ジマー・ブラッドリー)の連作、ダーコーヴァ年代記。前回
の緩いつながりの外伝扱いのエピソードに対して、このエピソードはダーコーヴァ年代記にとってかなり重要な話となっている。比較的話の重複の少ない同年代記にしては珍しく、他のエピソードで語られた人物の後日譚と、ダーコーヴァ年代記の最後の年代、コミンの崩壊と地球帝国との共存を模索する時代に登場するキャラクターの若き日が語られる。
それはこのエピソードがダーコーヴァの基礎だからだ。作者のマリオンがアマチュア時代、いや少女時代から温めていたプロットが本作。いわばダーコーヴァ年代記の基点であり、のちに壮大な広がりを見せるこの連作のすべてのエッセンスがつまったエピソードとなっている。
技術力の高い地球帝国に併呑されようとしているダーコーヴァ、それを護らんとする超能力をもつコミン、コミンの各家系に伝わる異なる超能力、複数のコミンが交感することによって作られる強い力をもつ「環」、超能力を増幅するマトリクス、エスパーが深い交感に入ることによるエクスタシー・・・後に語られるダーコーヴァのすべてがここにある。
話はコミンの中でも強い力を持つと畏れられ疎まれてもいるオルトン家の混血の嫡子、ルー・オルトンがダーコーヴァに帰ってくるところから始まる(彼は「はるかなる地球帝国」
で語られた少年、ケナード・オルトンの息子。ケナードは地球人女性と結婚したらしい。)。ルーは以前起こした事件で故郷を追われて星外に逃れていたが、コミンを束ねる摂政、老ダンヴァン・ハスターの星間通信によって呼び戻されたのだ。
あの事件・・・ルーが最愛の妻と自分の左手を失くすことになった「シャーラの反乱」。コミン支配の現体制や、地球の技術を謳歌できず中世の技術レベルに留まる現状に対する不満。最も早く地球人を受け入れ、その技術を使ってコミンの超能力に頼らないマトリクス力学を築こうとする「裏切り者」アルダラン家の復権を画策する勢力と、そして「半端者」ルー。コミンで最大の力を持つオルトン家の出自ながら、地球人との合いの子。テレパスであるコミンの中で蔑みの感情にさらされるルーは現体制への不満分子と結んでいくことになる。
そこにあらわれた「シャーラのマトリクス」。低位のマトリクスを扱うのは技術だが、高位のマトリクスを扱うのは能力。そしてシャーラのマトリクス、土着の炎の女神の名を冠するそのマトリクスはとびきりの高位のものだった。あまりに強い力はひとを歪め、ひとを傷つける。
その失敗に終わった反乱で心と体にふかい傷を負ったルーは星外に逃れていたが、アルダラン家が婚姻を梃子にコミン評議会に復権を画策していることについての証言者として呼び戻された。その婚姻の対象はことあろう「監視者」カリーナ。監視者はコミンの環を保つ要であり処女であることが求められる。これは大変な冒涜だと憤慨するハスターの後継者レジスらコミンの伝統を護ろうとする一派がいる一方、もうコミンに監視者は必要ないと考え、進歩的なアルダラン家と結び、地球帝国の技術を導入したい一派。自分を反乱に引き込んだアルダラン一族の復権をよしとしないルーはレジス側の証人としてたつが、地球人との合いの子である出自を蔑まれ、つい「シャーラのマトリクス」を、そのマトリクスを埋め込んだ剣を持ちかえっていることを洩らしてしまう。
はたして強奪されたマトリクス、それに対抗するには同等の強さのマトリクスが必要となる。そのマトリクスが、伝説の「オルドーンの剣」。その剣はマトリクスを埋め込んだものではなく“剣自体が”マトリクスなのだ。シャーラのマトリクスはこれのよくできたイミテーション。しかし剣のあまりに強大な力に、それに触れることができるのはレジスのみだった。しかしルーはシャーラのマトリクスを、それに魅せられ自分の大切な人たちを害した一党を滅ぼすためにカリーナと協力して剣を振るおうとする。カリーナを焦点として剣を振るおうと、そのために心を繋ごうとするルーとカリーナ。でもどうしても最後の一線を越えられない二人。そこに苦しむ二人に引き寄せられたレジスが加わり、三人の「環」が完成した!剣を振るう「生きたマトリクス」ハスターであるレジス、「カの源」オルトンであるルー。そして二人の絶縁体としてのカリーナ。そしてシャーラのマトリクスを振るう側との闘いが始まった!
強大なシャーラのマトリクスの力。ルーとレジスは愛するひとたちを護ることができるのか、そして最後に明かされる哀しい事実とは?人の欲と愛、伝統と最新技術、親と子・・いろいろな対立軸で語られる物語、そしてわずか一冊で「ダーコーヴァ」という異世界を描き出そうという気概。多少後のストーリーとの齟齬や説明くささはあるものの、若き日のブラッドリー女史のパワーが感じられるエピソード。そのパワーを、その気負いも含めて楽しみたい一冊です。
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購入金額
450円
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購入日
1987年頃
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購入場所
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