レビューメディア「ジグソー」

Arnel Pineda凱旋ライブ

Journeyは主に80年代に活躍した、アメリカのロックバンドです。初期はSantanaから離脱したメンバーによって結成されたロック系のインストゥルメンタルバンドという方向性でしたが、ヴォーカリストとしてSteve Perryを迎えたあとはヒットチャートを賑わすロックバンドと変化していきます。

その後メンバーチェンジ等を経て発表されたアルバム「Escape」からのシングル「Open Arms」(日本では「海猿」で使われて有名になった)や続く「Frontiers」からの「Separate Ways(Worlds Apart)」(日本ではWorld Baseball ClassicのTV中継メインテーマとしてお馴染み)などの大ヒットにより、その人気を不動のものとします。その頃はTOTOなどと共に産業ロックの代表例として揶揄されるという一面もありましたが、今でもお馴染みのヒット曲を数多く輩出しアメリカを代表するロックバンドの一つであったことは間違いないでしょう。

しかし人気が最高潮に達していたこの時期に、1986年発表のアルバム「Raised On Radio」を最後に、公式なアナウンスこそなかったものの活動を停止。中核メンバーのNeal SchonやJonathan Cainはその後も色々なバンドやソロプロジェクトで活発に活動を続けていたものの、Journeyの顔ともいえたヴォーカリストSteve Perryは、ソロアルバムを一作発表した以外には沈黙を続けていました。この時点では完全にJourneyは終わったバンドと認識されていたのです。

ところが1996年に突如復活作「Trial By Fire」を発表。しかも人気絶頂期のアルバム「Escape」制作時と全く同じメンバーが顔を揃えていたのです。この作品はアルバムも、シングル曲「When You Love A Woman」もヒットを記録し、再びJourneyの快進撃が始まるのかと思いきや、この作品限りでSteve Perryが脱退。ドラマーのSteve Smithも間もなく脱退と、またも空中分解の危機を迎えます。特に特徴的なSteve Perryのヴォーカルを引き継げる後任者はまず見つからないと思われていました。

そのような中で、新メンバーを加えたJourneyは大規模なライブツアーを敢行。ドラマーにはNeal Schon、Jonathan Cainが組んでいたバンド、Bad EnglishからDeen Castronovoを、そしてヴォーカリストには奇跡的なまでにSteve Perryに近い声質を持ったSteve Augeriを迎えていて、これまで以上に勢いのあるパフォーマンスを見せつけたのです。

その後はチャートアクションこそやや奮わなくなるものの、アルバムの制作やライブはコンスタントに継続していました。ところがここでまたもアクシデントが発生します。2006年にSteve Perryの後任として活躍してきたSteve Augeriが喉の感染症のため療養に入り、結局そのまま脱退。代役としてJeff Scot Sotoを招きライブは継続されましたが、彼はアルバム制作に関わることなくJourneyを離れてしまいます。後任のヴォーカルの宛ても特になく、それ以降の2007年内の活動休止を公式にアナウンスして、今度こそJourneyも終わったかと思われました。

その時期のある日、YouTubeを眺めていたNeal SchonがJourneyの楽曲をカバーした音源を見つけます。そのヴォーカリストを招けば単発のライブ程度なら何とかなるのではないかと思いつき、その歌い手にコンタクトを取ります。早速やってきたその歌い手、フィリピン人のArnel Pinedaとセッションを行ってみると予想以上に好感触であったため、2007年末に正式に彼をメンバーとして迎えることを告知し、そのままアルバム「Revelation」の制作に入ります。このアルバムはイタリアのインディーズ系レーベルから発売されたにもかかわらず、Billboardチャートをはじめとする各種ヒットチャートの上位に食い込むという大ヒット作となり、現時点までこの顔ぶれによる活動が続くことになります。

ここからようやくこのDVD「Live In Manila」の話となりますが、本作は2009年に開催されたワールド・ツアーのフィリピン公演を映像化したものです。当初はDVDのみの発売でしたが、後日Blu-ray化もされています。

実は本作を見て私がまず度肝を抜かれたのは、彼らのパフォーマンスよりも客席でした。至る所でデジタルカメラが撮影していて、時にはビデオカメラを回している客すらいるのです。日本公演なら、まず摘まみ出されます。

それはさておき、本作は2時間25分少々の収録時間(DVD2枚組)となっていて、一つのライブをほぼ余すことなく収録したと言って良い内容です。1年以上Journeyとして活動を続けてきたArnel Pinedaがライブにかなり慣れたという印象を受けますし、故郷への凱旋公演となったことで特に気合いが入っていることを感じさせます。

収録曲は殆どが各世代のJourneyのヒット曲ですが、Arnel Pinedaを迎えての新作「Revelation」からのシングル「After All These Years」も披露しています。この曲では前任者の真似ではなく彼自身のスタイルで歌っていることも印象的ですが、この曲自体「Open Arms」「Faithfully」など、Journeyの名バラードに連なる名曲といって良いでしょう。他の曲でもArnel Pinedaの圧倒的な声量と声の力強さに圧倒されますが、ハイライトと言えばこの曲です。

ベースのRoss Valoryが少し大人しいかな、とは思いましたが、Neal Schonのギターはいつもながらの切れ味ですし、Jonathan Cainもピアノソロを多く披露するなど張り切っていますが、ある意味最も印象に残るのはドラムのDeen Castronovoでしょう。彼のドラム自体が体をいっぱいに使って力強く叩きつけるようなドラミングなのですが、何と彼はドラムを叩いたままリードヴォーカルを担当する曲もあるのです。しかもそれが非常にうまくSteve Perryにも似た声質なのです。Arnelがいなければ、新しいドラマーを連れてきて、彼にヴォーカルを任せても良いのではないかと思うほどです。

個人的にはArnel Pinedaの実力は素晴らしいと思う反面、曲によってはもう少し丁寧に歌ってくれた方が良いと思うものもありますが、それでも本作は「今のJourney」を伝えてくれる貴重なライブ盤ですし、内容も充実した作品といえるでしょう。
  • 購入金額

    2,300円

  • 購入日

    2009年12月15日

  • 購入場所

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