所持する音楽データに対する私利私欲．．．イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。レーベル企画盤と思って購入した作品が意外な愛聴盤となる場合があります。そんな作品をご紹介します。

佐野元春、というひとはとてもエポックメイキングなアーティスト。洋楽と日本語の融合、ラップの先駆的導入、インターネットの積極的な利用．．．ロックンロールを核にしながらもその時その時の時代を先取ったテイストを入れていく、アーティスト。

この盤はそんな彼の初期のベスト。企画はエピックレコード。かつてCBSから出たレーベルだったEPICが、EPIC SONYとして建ってから25周年を記念した所属アーティスト（旧所属含む）のベスト。大沢誉志幸やTHE MODSなど20世紀末を代表するアーティストたちのアルバムが“THE LEGEND”シリーズとして発表された。

自分は1st

と2ndはCDを持っていたが初期3部作と言われる渡米前の佐野のカラーの集大成、“SOMEDAY”はビニール盤しか持っていなかったので、12インチなどレア音源も含まれていたこともあって購入。佐野は後にEPICから独立したので、このベストは所属当時の作品が収められているが、あえて“Early days of Motoharu Sano”と銘打ってEPIC所属時でも渡米前の初期3部作を中心に編まれている。ここでなされたリマスタリングが素晴らしく、音が「立って」いるのが素晴らしい。若き日の佐野の鋭さが鮮明に感じられる。

デビュー曲「アンジェリーナ」はオリジナルではなく「20thアニバーサリー remixed ver.」ということで“The 20th Anniversary Edition”に収められた渡辺省二郎によるリミックス版が元となっている。このリミックスは大胆。曲の構成を変えるのでなく、各トラックの音量と定位、イコライジングと加工を大胆にいじった。音が迫ってくる！ソリッド。ギターバンド！オリジナルより少し音色が丸められ音量も下がったピアノとは逆に、ギターとベースは前に出た。ギターは何本あるか良くわかる。巻き弦がゴリバシ言っているビビッドさ。オリジナルでは加工が大きく単音が聞き取りづらかったブラスのブリッジの前の特徴的なドラムのフィルインも音加工がされていなくて、あの字余り的フレーズがどう叩かれたかが良く判る。

「悲しきレイディオ」はベースがドライヴィン。歌があるときに鳴っている楽器の音量の半分はベースじゃないか、というくらいベースがデカイ。あとブリッジの部分でのピアノのロックンロールなフィルインが強調されている。

初期の名曲「ハッピーマン」。日本語ラップの開祖とも言われる佐野だがこれはまだプレ-ラップ。センターにボーカルが定位しないステレオ初期の定石でない配置を彷彿とさせる定位。日本語をビートに乗せた、ラップでもなく、もちろんそれまでの日本の流行歌（まだJ-POPなんて言葉もなかった）とは一線を画す弾丸ビート。ロックンロ～ル！！

最近のザクっと情景を切り取ったような詞、歌いすぎない「間」や「裏」、「行間」を感じる歌い方もいいけれど、初期の曲はやっぱり原点。

モノクロ写真が雰囲気あります。

それが薄皮一枚はがれたような鮮明さで耳に飛び込んでくる、そんなハッとさせられる作品です。

【収録曲】
1. アンジェリーナ(20thアニバーサリー remixed ver.)
2. ソーヤング
3. ガラスのジェネレーション
4. 悲しきレイディオ
5. 情けない週末
6. ダウンタウンボーイ(Someday Collector's Edition remixed ver.)
7. スターダスト・キッズ
8. シュガータイム
9. ハッピーマン
10. ロックンロール・ナイト
11. サムデイ
12. グッドバイからはじめよう
13. ヤングブラッズ(7′シングルヴァージョン)
14. ワイルド・ハーツ―冒険者たち
15. クリスマス・タイム・イン・ブルー
　―聖なる夜に口笛吹いて―　(12'シングルバージョン)
16. 約束の橋(7′シングルヴァージョン)

「ワイルド・ハーツ-冒険者たち」