そしてアメリカでの本作発売から僅か一週間後の8月11日、ビル・チャンプリンがシカゴからの脱退を発表します。脱退の理由はいろいろな憶測が飛んでいましたが、とある筋からの情報では、ビルが自身のソロ活動や自分のバンド(サンズ・オブ・チャンプリン)での活動を活発に行っていたことから、マネジメント側からシカゴでの活動に集中するかシカゴを去るかの決断を迫られ、脱退を選んだということのようです。
個人的にはシカゴの80年代におけるヒットチャートの快進撃は、誰よりも彼の力が大きかったと思っていますので、脱退の報を聞いてとにかく残念でした。
ただ、日本のファンは幸いなことに彼の脱退発表よりもずいぶん前にこの作品を手にしていましたので、余計な感情抜きに楽しむことが出来ました。
本作の注目点は2つ。まず、「シカゴ19」に収録され、1989年のビルボードチャート年間No.1シングルに輝いた名曲「Look Away」をセルフカバーしているということ。シカゴ版は都会的なアプローチで綺麗に仕上げられたAORの名曲ですが、ビルの方は一時期シカゴのライブツアーで披露していたアコースティック版に近いアレンジで、かなりブルージーな仕上がりです。当然売れるのはシカゴ版の方でしょうけど、彼自身は元々こちらのアレンジで歌いたかったということです。
そしてもう1つの注目点は、「シカゴ17」を最後にシカゴを脱退したピーター・セテラとのコラボレーションを果たした楽曲「Never Been Afraid」が収録されているということでしょうか。脱退以後のピーター・セテラはシカゴとの接点は全く持っていなかったのですが、共通のミュージシャン仲間であるギタリスト、ブルース・ガイチの仲介でこの共演が果たされたとのことです。
余談ですが、今年初めにシカゴのオリジナルメンバーであるロバート・ラムのソロ作「Living Proof」がリリースされましたが、このアルバムの制作段階でロバート・ラムもピータ・セテラに共作の話を打診したそうですが、結果としては実現に至らなかったそうです。ただ、これまで完全に途絶えていた接点が少しずつ生まれつつあるというのは興味深いところではあります。
さて、本作の個人的なベストトラックは、アルバムタイトルにもなっている「No Place Left To Fall」でしょうか。こういう曲をじっくりと聴かせてくれるのは彼のヴォーカリストとしての抜きんでた力量があってこそでしょう。歌詞の方もなにやら意味深な気がしますし。
シカゴ時代のイメージで洗練されたAORを期待していると肩すかしと思われるかもしれませんが、本作はむしろ彼本来の幅広い音楽性と円熟味を増したヴォーカルが存分に発揮された傑作と思います。
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購入金額
3,000円
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購入日
2008年11月06日
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購入場所
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