HP 35sを購入した頃は店頭に並んでいました。こっちにしとくんだった、と後悔していたところ、今回中古美品を手に入れました。
人気のあった関数電卓、HP 15cの復刻版です。電源にはコイン電池CR2032を2つ(オリジナルはボタン電池LR44を3つ)使用し、オリジナルより遥かに高速に動作します。
プログラミング電卓
HP 15c はプログラミング電卓ですが、数字しか表示できないのでニーモニックが表示できず、キーの位置(数字を入力したときだけその数字)で表示されます。例えば、以下は剰余を求めるプログラム(ラベルDで開始。HP15cに剰余を求める機能はありません)、ユークリッドの互除法(最大公約数を求める方法)のプログラム(ラベルEで開始)、最小公倍数を求めるプログラム(ラベルCで開始)ですが、ぱっと見わかりづらいです。以前こっちを買わずにHP 35sを選んだ理由はここにあります。もともとが昔の設計だから仕方ないね。
001-42,21,14 [f][LBL][D]
002- 44 2 [STO][2]
003- 34 [x⇄y]
004- 44 1 [STO][1]
005- 34 [x⇄y]
006- 10 [÷]
007- 43 44 [g][INT]
008- 45 2 [RCL][2]
009- 20 [×]
010- 45 1 [RCL][1]
011- 34 [x⇄y]
012- 30 [−]
013- 43 32 [g][RTN]
014-42,21,15 [f][LBL][E]
015- 32 14 [GSB][D]
016- 45 2 [RCL][2]
017- 34 [x⇄y]
018-43,30, 0 [g][TEST][0]
019- 22 15 [GTO][E]
020- 33 [R↓]
021- 43 32 [g][RTN]
022-42,21,13 [f][LBL][C]
023- 44 4 [STO][4]
024- 34 [x⇄y]
025- 44 3 [STO][3]
026- 20 [×]
027- 45 3 [RCL][3]
028- 45 4 [RCL][4]
029- 32 15 [GSB][E]
030- 10 [÷]
031- 43 32 [g][RTN]
このように、行番号に4桁、キー番号の表示に最大6桁(ラベル指定など)使用します。[f]や[g]は1行に入力されます。数字だけ見てもてもわからねえ。
複素数の計算
VoyagerシリーズでHP 11cなどに無い機能の一つが複素数計算です。[g][SF][8]を押すと複素数モードになります([g][CF][8]で元に戻る)。
複素数を入力するには、「実部[ENTER]虚部[f][I]」と入力します(この操作をすると自動的に複素数モードになります)。昔の設計なので HP 35sと比べて少しややこしい印象です。ただ、WP 34sと違って実部と虚部でスタックが分かれています。なお、HP 35sの複素数対応が中途半端(HP 42s(正確にはFree42での話。実機は持っていないので不明)で正しく求められる負実数の平方根が[√x]で求められないなど)なのに対し、複素数モードにしたHP 15cはちゃんと[√x]で計算できます。
[f][(i)]を押している間、虚部を表示します。[g][→P]は極形式への変換で、実部の代わりに絶対値が、虚部の代わりに偏角(現在設定されている単位)が代入されます。直交形式にするには[f][→R]です。
ソルバーと定積分
HP 15cには定積分やルートソルバーの機能が付いています。calculator torture test(英語のサイト)に載っていた ∫01cos(ln x)dx は、オリジナル同様誤差が出ますが、約3秒で求められました(小数第4位まで)。また、オリジナルでは5分かかっても求められなかった(同サイトにはそう書いてある)∫02√|x−1|dx は約5秒で1.3333と正しい解を返しました。同じくオリジナルが5分かかっても求められなかった ∫−∞∞e−x²dx は(積分範囲を±16とした上で)3秒半で正しい(有効数字5桁)結果が出ました。ソルバーや定積分は、プログラム機能を使用して行います。
行列の演算
HP 15cの大きな特徴として、行列の計算ができるということが挙げられます。ただ、後年の教科書通り表示ができる関数電卓(特にグラフ電卓)と違い、どうしても操作が煩雑になってしまいます。多くの関数電卓と同様(HP 28sやHP Primeといったグラフ電卓はin-placeで書けるようですがそれらは例外として)、行列は予め定義しなければ使えません。[f][USER]を行っておくことで、各要素を(欧文を書くのと同じ)順に定義することがしやすくなります。行列の型は[f][DIM][A~E]でy行x列(予めスタックに入れておく)に設定します。
行列がかかわる演算をする前に、解を格納する行列を[f][RESULT][A~E]で指定する必要があります。[RCL][MATRIX][A~E]で行列をスタックに置くことができ、四則計算も行列同士、行列とスカラー、スカラーと行列で行うことができます。
行列の積は YX を計算します。XY ではありません。行列の商は YX−1ではなく、X−1Y を返しますが、これは連立方程式を解くときに便利な仕様になっています。このとき、Xの中身がLUP分解されています(実際にはL−E+Uが代入されています。但しEは単位行列です)が、P成分の参照方法は無いようです。シミュレータの中にはこの仕様が再現されていないものがあります。
また、逆行列は[1/x]で計算できますが、この時USERモードを解除しておかないとエラーが出ます。なお、正方行列には冪を定義することができますが、行列に[g][x²]や[yx]、[√x]は使えません(これは使えたらすごい)。
正確さについて
有名な tan(355/226) を計算させると、−7507225.705 となりました。海外の電卓マニアによる(と思われる)calculator torture test(英語のサイト)に書かれているのと同じ結果です。もともとメモリが貴重だった時代の設計なので、あまり内部の桁数を多く取れなかったのでしょう。ここまで再現されるのかと。
ただ、相対誤差ではHP35よりは良くなっているようです(ずれる方向が違うが)。
私が調べた限り、tan(355/226)で正確な結果を出すのはDBLONしたときのWP34sがあります。また、(シミュレータですが)Free42も正確な結果が出ます(但しDecimal版のみ。iOS版はDecimal版)。SwissMicros DM42はファームウェアがFree42ベース(そして内部34桁と書かれている)なので正確な結果が出ます。
ほかに、(RPNではなく自然表示ですが)キヤノンF-789SGも正確な結果が出るという話があります(仮数部10桁表示に対して内部最大18桁)。
ただ、東側の電卓は論外。
まとめ
動作が速くなった以外はほぼそのまま復刻しているので、プログラミング機能や高度な計算処理で操作を覚える必要があったり、精度に難があるケースがたまに見受けられますが、全体的にみて HP 35sより一貫性があります。
やっぱこっちにしとくんだった。
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購入金額
22,000円
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購入日
2020年07月05日
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購入場所
ヤフオク
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