実は結構読書家で、特に若い頃は乱読しました。
ジャンル的にはSF~ファンタジー~ミステリなどからコミックまでイロイロ。
3桁では収まらない蔵書の中からトピックをご紹介していきます。
「終戦のローレライ」は名前の通り第二次世界大戦末を舞台にしたいわゆる空想戦記(if戦記)物。空想戦記(if戦記)物は戦争や軍隊をテーマに、登場しなかった(遅かった)新兵器や間違った判断が「if(もし)」登場したら/間に合ったら/違った判断したらという仮定に基づき語られる物語。多くは新兵器を登場させ、劣勢だった戦況を跳ね返す(そのほとんどが日本を中心に語られるので)という方程式。そういう意味ではSFの一カテゴリーか。
だいたい頭に入っている有名な戦いをネタに、それを逆転させるので(負けた方側贔屓の場合)スカッとするし、ストーリー的にはドラマチックな筋立てになってサクサク読める娯楽小説となるんだけれど、その時なかった兵器や戦術を登場させるので、どうしても「ご都合主義」になってしまう場合が多く、わざわざ「読み返そう」という気にはならないものが多い。
それがコレは違う。
もう今回3回目。非常に精緻な構成と奇抜な発想、そしてその筆致。ぐいぐいと引き込まれるように読み進む。発想の核はとても突拍子もないものなんだけれど、惹きつけられる語り口とそれを支える緻密な構成。
なにがコレ
と違うんだろう?
それは「人」。戦争を題材にしているので、人は死ぬ。上半身吹き飛ばされる操縦士もいれば、脳漿飛び散らせて銃殺される人もいる。でもそんな人達の多くに家族があり、思想があり、というのをきちんと語っている。
納得性があるのだ。
敵の潜水艦艦長「しつこいアメリカ人」ことキャンベルも妻に逃げられたしつこい性格の男として書かれるし、日本人を一度精算して強い国家に造り替える考えにとらわれた浅倉良橘の狂気も南方戦線での極限経験がコアにあると納得ができる。倒しても倒してもただ無条件に対抗してくるステレオタイプな「敵」ではなく、自軍の陰謀の黒幕がたんなる「キチガイ」でなく描かれている。
だから突拍子もないSF的設定も、そこにいる登場人物の息吹が感じられて「ありそうなこと」になる。
話は終戦間際のナチスドイツが開発した秘密兵器、精緻な水中3次元レーダー「ローレライ」の奪い合いで始まる。これが同盟国日本に潜水艦で運ばれることになったが、途中で戦闘がありその装置を海中に遺棄してしまう。その潜水艦UF4は戦利潜水艦伊507と改名され、その装置を回収する航海に出る。しかし、隠密航海の情報は漏れ働く前に倒される乗務員たち。直前に伊507に転属命令が出た特攻用潜水艦の訓練生折笠征人はからくも難を逃れるが、問題の海域での回収作業を命じられる。そこで回収した秘密兵器とは...
ナチスの人体実験で発現した異能を持つ、少女パウラ。彼女は周辺の地形や生物の情報を感知することができる。それを立体的に再現する装置が3次元レーダーの正体。水を媒介として周辺情報を得る彼女は最初の獲物が沈没する際の乗組員の断末魔をダイレクトに受け、失神してしまうため一隻しか沈めることができない、というのが新兵器に対する枷。
ドイツ近海から彼らを追い続ける「しつこいアメリカ人」との死闘、彼女が兄フリッツとともにどうやって伊507の乗組員と心を通わせていくのか(自分が人体実験をされる根源ともなった出自が、日本人との混血、という伏線もある)、そしてクライマックスとして3発目の原爆投下を防ぐため単艦アメリカ軍の包囲のただ中に浮上し、東京に向かうB29を阻止する戦いが描かれる。
1艦目を仕留める迄のみ有効という枷をもちながらもその時代にはない高精度な3次元レーダーという利点を使って、伊507が挟み撃ちで追いかけてくる2艦をどう仕留めるか、B29に積まれた原子爆弾を叩くため単艦行動で何ができるか、など、映画的な場面設定とヤマもあり、それに征人とパウラの愛、若い世代に規範を示そうとする気骨ある年長者の行動、自分の血を憎んでいたフリッツが最もステレオタイプな戦前日本男子である田口とお互いを認め合っていく過程という「人間」を描いた場面もあり....
盛り上がります。
映画は見てないけれど、少なくとも小説は素晴らしかった。描いたのは最近ではガンダムUCのノベライズ担当で、本作の前作「亡国のイージス」で日本冒険小説協会大賞を獲った福井晴敏(ちなみに本作は吉川英治文学新人賞と日本冒険小説協会大賞のダブル受賞)。
彼は戦争やスパイ問題など「非日常」を書く事が多い作家だけれど、きちんとそこに「ひと」がいる。
それが虚構にリアリティをもたらしている。
必読です。
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購入金額
2,677円
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購入日
2011年頃
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購入場所
operaさん
2012/06/12
香椎 由宇ちゃんがインパクト有りました♪(^^ゞ
cybercatさん
2012/06/12
>香椎 由宇ちゃんがインパクト有りました♪(^^ゞ
インパクト...www
小説のイメージ的にはもう少し華奢な感じなんですけどね....(^^ゞ
kazさん
2012/06/15
映画もなかなかでしたが、やはり原作に漂う空気感が凄かったです。
おっしゃる通り、必読ですね。(^^)
cybercatさん
2012/06/15
>映画もなかなかでしたが、やはり原作に漂う空気感が凄かったです。
両方見られた/読まれたんですね。
やっぱり原作のアノ空気は独特でしたか。
福井晴敏はガンダムにしても設定シーンの「そこにある感」がスゴイですよね。