正確には父と将棋を指すのが嫌だった。
いまでこそ誰もが認める好々爺となった父は昔から将棋が趣味で、
何事にも全力を傾ける性格の彼は相当に強く、将棋に対する姿勢も厳しかった。
一手指すごとに、「何を考えたの」「なんでその手を選んだの」と問われた。
ルールを覚えたばかりの小学校低学年はそんなこと考えないと僕は思うのだけど、
小学生だろうとそんなことくらい当然考えて指すだろうと彼は思っていたのだろう。
次第に僕は将棋を指さなくなって、将棋盤に向かってやるのは金ころがしか
挟み将棋か、自分ルールの駒遊びくらいになった。
僕の将棋についての想いはその程度だったけど、元とはいえ一度は
頂点であったプロ棋士が、ついにコンピュータに負けた、という
ニュースを知った時はぞくぞくした。
曲がりなりにもコンピュータで飯を食っている人間として、コンピュータの勝利を
讃えたい気持ちが半分、オセロやチェスに比べて格段に複雑な将棋というゲームで、
プロと呼ばれた人間すら負けてしまったことに言いようの無い戦慄が半分。
今回の勝負、米長さんは対局に際していくつか注文をし、それはほぼ叶えられた。
例えば、対面に座るのはエンジニアじゃなくて、自分の良く知ったプロを指名した。
つまりプロ棋士がプロキシして、プロ棋士がプロキシして(笑うところなので
2度書きました)将棋を指した。
彼にとって準備は十分で、舞台はほぼカンペキで、だから負けは必然だったのだと思う。
この本は、勝負の経緯と、準備の過程と、結果の考察と、将棋界のその先が
米長さんの視点で書かれた本で、将棋を指さない人間でも読めるように
配慮されている。何かに真剣に向き合っている人には共感できる何かがあると感じた。
将棋は完全情報ゲームなので、きっといつかは「先手必勝」なのか
「後手必勝」なのかが確定する日が来る。最初の 1手で勝敗が読めてしまって、
機械は適当に手加減して、人間と勝負するようになる。
そんな未来も遠くはないと思うのだけど、そのときまで、
全検索ではない人間の思考力、直観力でプロ棋士は最強であって欲しいと思う。
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購入金額
1,365円
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購入日
2012年03月26日
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購入場所
sukiyakiさん
2012/04/08
YGGさん
2012/04/12
sukiyakiさん
2012/04/14
sukiyakiさん
2012/04/28