実は結構読書家で、特に若い頃は乱読しました。
ジャンル的にはSF~ファンタジー~ミステリなどからコミックまでイロイロ。
3桁では収まらない蔵書の中からトピックをご紹介していきます。
「アイルの書」。女流作家ナンシー・スプリンガー(Nancy Springer)の大河ファンタジー。1作目
が神代の神話、2作目
がそれより数代下ったヒトと神話の狭間の話、3作目
は2作目を受けてその次の世代、と明確な連続性があったのだけれど、これは明確に場所が異なり1~3作目の登場人物は出てこない、完全な別の物語という風情。番外編とでも言おうか。
物語の「つくり」もかなり変わっている。一人称で語られる物語はその語り手が3部に分けられた構成で全部違う。3部を語る3人はそれぞれつながりがあり、物語の主人公でもある。
物語は序として王子ティレルの「弟」として世間を欺いて連れてこられる子供がいたことを示すエピソードがある。
1部はその王弟フレインの語りで始まる。
習わしで王自身が女神への生け贄に捧げられる<谷>。そのことを識りながら治世を送るのは耐えがたきこと。現王アバスはそのしきたりを跳ね返すだけの強烈な個性を持った狂王だった。ティレルはその王に反抗するが、アバスがティレルの愛人ミリッタを手にかけてしまったことで父子の断裂は決定的になり、ティレルの放浪が始まる。それに同行する黒い獣。
その旅の途中、女神シャマラに魅入られるフレイン。しかしシャマラが欲するのはティレル。ミリッタの無念を晴らすためアバスを討つことにとらわれるティレル。この三角関係ならぬ一方通行の想いもこの物語を貫く重要なファクター。
第2部はフレインの真の父であるファブロンの語り。アバスにフレインを売って権力を手に入れた男。別に子供なんか幾人でもできる、と思っていたが結局フレインがただ一人の子供となってしまい、運命を感じる。アバスから逃げ回りながら、反攻の時を伺うティレルに同行するフレインを助けて一時の平安を得るが...
最終章はティレルの語りで進められるが、最終的に愛人の仇を討つ=父を殺す、という事になる構図、父王の権力とこの歪んだしきたりが女神=シャマラに起因すると彼女を父王同様唾棄すべきものとして扱うティレルと、女神に魅入られ崇拝するフレイン...その交錯点で物語は哀しい結末を迎える。そして黒い獣の正体は?
一方通行の想いが、父と相克し兄弟と行き違う信念が、すべて愛から出ているだけに重いテーマ。やるせない、物語です。
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購入金額
400円
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購入日
1985年頃
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購入場所
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