レビューメディア「ジグソー」

東の脅威にさらされ続けたアイルランドの立地がよくわかります

本の蟲。
実は結構読書家で、特に若い頃は乱読しました。
ジャンル的にはSF~ファンタジー~ミステリなどからコミックまでイロイロ。
3桁では収まらない蔵書の中からトピックをご紹介していきます。

「アイルの書」。女流作家ナンシー・スプリンガー(Nancy Springer)の大河ファンタジー。全5巻で、特に2巻以降は時代も近く、登場人物の一部も重複しているため、以前ご紹介した“航空宇宙軍史”シリーズほど各巻が独立しておらず、5巻まとめてご紹介しようかと思ったが、改めて読み直してみると風合いが各巻でかなり違うので、1巻ずつご紹介することにする。

場面はアイルの領主ダケイリンの娘エリドが捕らえられているところから始まる。彼女を人質に戦いを優位にしようと謀る対立する領主の雇った荒くれ者に閉じ込められた暗い部屋。そこに忍び込んでくる不思議な若者ベヴァン。彼は暗闇から光を作り、彼女の戒めを解き放つ。ダケイリンにエリドを送り届ける旅の間に彼が太陽が苦手であることや敵であれ人を殺すことに多大の苦しみを受けることに気づく。無事彼女を送り届けた後、その対立する領主が捕らえた海竜を使って攻撃を仕掛けてきたとき、竜に話しかけその竜の子を殺したのが敵方であることを伝え、危機を脱する。...魔法使いか..?

いや彼は神々の末裔。エリドは、幼い頃から想いを寄せられていると知っている従兄クインにすまないと思いつつも彼に惹かれていく。

その後「長衣の君」と呼ばれる邪悪な神が、死者たちの軍勢を率いて攻め寄せてくるが、これを討つ過程ではぐくまれるペヴァンとクインの友情、娘がペヴァンを恋していると知ったダケイリンに忍び寄るペヴァンに代わりアイルを統べるという邪な考え、そこここに登場するペヴァンの心を閉じ込めた白い鹿...

それらが渾然一体となって思いもかけない結末を迎えるが....

「女系社会であったアイルに」「東から」「他の信仰を許さない神を信仰する」「男達」がやってきて...とアイルランドに対するキリスト教世界イギリスの関係を暗示するような設定やセリフがここかしこに。

女流作家らしい緻密さで、物語の縦糸横糸の編み込みがすばらしい。また当時の文学界に住まう女性らしく?女性上位で奔放な描写もあちこちに。

和訳も女性翻訳者井辻朱美でイラストも女流漫画家中山星香。
残りの4巻とはかなり風合いが異なり、神話やトールキンの色濃い影響が見て取れます。
残念ながら現在廃刊も、いまだに人々に愛されている作品です。

  • 購入金額

    320円

  • 購入日

    1984年頃

  • 購入場所

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